見通す者と悟る者


「……(ん?)」

本能的に感じた違和感。
その出所探るべく、周りに意識を巡らせた俺が感知した2つの気配。
覚えのあるその内の1つともう1つが、お互いがお互いを利用して、さり気なく俺達を何処かへと誘導していることに気が付いた。
しかし、それに気が付いた時には時すでに遅く。
すでに敵の策に嵌まっってしまった後だった。

「(ぬかった…!!)」
「……秀吉様。」

無意識に零れた小さな舌打ちに横にいた三成が反応し、こちらへ視線を送る。
それに頷くと、三成は右手側へと駆けて行った。
なるほど。そっちに行ったか。
まぁ、三成の今の力量から言ったらそっちの方が勝算はあるだろうな。
勝てるかどうかは別として。


それにしても、まさか奥州からの帰り道にこんなことになろうとは思ってもいなかった。
話し合いだけだからと言って三笠も風魔も連れず、三成だけにしたのは失敗だったかもしれない。
今の三成は確かに周りの奴らよりは強いが、俺が知っている『あの時の』三成にはまだ遠い。
まぁ、経験もそんなにしてないから仕方がないっちゃあ仕方がないが。

じゃあ何故、今回の供を三成にしたのか。
……それは…あれですよ。
伊達に対して「貴様は誰だ?」発言をしないように、今の内から顔を合わせて覚えて貰おうと言う魂胆だったんだが…無理でした。
言った傍からすぐに忘れるとかある意味凄いわ。
初めは忘れる度に怒っていた伊達も最終的には呆れてたし。
どうやら三成のDNAか本能には伊達政宗という名前が一生インプットできないような仕組みになっているらしい。


っとまぁ、現実逃避はこれくらいにして。

「何時まで隠れているつもりだ?」
「あ、やっぱりバレちゃってた?」

陽気な声と共に猿飛は俺の影の中現れた。

うぉおい!!
ちょっびっくりした!!
何でそっから出て来るかな。
普通、木の上とかからじゃね?
闇の婆裟羅者だからって、婆裟羅の使い方いろいろ可笑しいだろ!!
心の中がパニック状態なのを出来るだけ顔には出さず、刀に手を添える。
すると、それに気が付いた猿飛が慌てた様に手を振った。

「ちょっ待って待って!!俺様、旦那達に危害を加える気はないよ!?」
「三成と離しておいて、お前の言葉を信用すると思っているのか?」
「あー…まぁ、お供の方はかすがが連れて行っちゃったけど?豊臣の旦那にとってはそっちの方がいいんじゃない?」
「どういう意味だ。」
「それはわたくしからせつめいいたしましょう。」
「!?」

突如現れた新たな気配に、咄嗟に身を屈める。
1コンマ遅れで通過した2つの武器を視界に入れて無意識に生唾を飲み込んだ。



「ふむ。少しは出来るようだな。」
「うわさはまちがっていなかったということですね。」

対になるように振り下ろされた武器を持つ越後の龍、上杉謙信と甲斐の虎、武田信玄。
そう時間をおかず各々の武器が引かれたことを怪訝に思いつつ、咄嗟に相手から距離を取り、気配を探りながら刀を構える。
そして、忽然と消えた猿飛の気配に眉を顰めた。

「何、そう警戒するでない。佐助は下がらせた。ここはわしら3人しかおらん。」
「あなたにすこしききたいことがあったのです。そうじかんはとらせません。」
「聞きたいこと…?何故、貴殿らが正式な場を設けずこのような所で俺を待っていた?」
「そのほうがあなたにもこうつごうだとおもったからです。たんとうちょくにゅうにききます。あなたは「だれ」ですか?」

上杉のその言葉に一瞬でその場の空気が張りつめた。
その眼は俺の中の「俺」を暴こうとしているものの様に感じた。

「何故、それを俺に問う?」
「かっこくのうわさであなたのことはいぜんからきいていました。それに、いわかんをかんじていたのです。かいのとらも。」
「違和感?」
「おぬしが国を大きくするために民に教えたその技術、何処で手に入れたものなのだ?」


何時かは誰かが気付いて指摘するだろうと思っていたその言葉に、思わず反応してしまう。
そう、俺が大阪で広めた技術はこの時代では「おかしい」のだ。
学校だったり田畑に関することだったり。
あまりにも現代から逆輸入しすぎたせいで今の大阪は周りから見たら異質な国に見えるだろう。
そして、民へ伝えたのは紛れもない俺だ。
何故そのような知識があったのか、その技術を使ってこれから何をするのか。
その心理を確かめに来たのだろう。


「…何故、それが俺だと思った?もしかしたら、その技術を学んでいたのは半兵衛かもしれないだろ?」
「初めはわしもそうではないかと考えた。しかし、あやつはまだまだ若かった。それに比べておぬしはどうだ、その年にしてわしらと同じものを持っている様に感じるのだ。」
「わたくしもはじめははんしんはんぎでした。ですが、きょうあなたとであい、かくしんしました。あなたのたましいはひどくいびつです。ひとつのうつわのなかにいくつものべつのなにかがはいっているようにかんじます。
もういちどといます。あなたは「だれ」ですか。」


…これ以上は無理か。
そう悟った俺は、一度大きく深呼吸をして今まで隠して来た「俺」の全てを話した。
初めは驚いたように聞いていた彼らだったが、なんとなく理解できたのか興味深そうに頻りに頷いていた。

「なるほど、そういうことだったのですね。」
「前世の…しかも、これから500年以上先の未来からの記憶を持って生まれて来るとは面妖な話よのう。」
「ですが、これもかみのおみちびき。なにかいみがあるのでしょう。」
「…俺だってなんで今ここにいるのか未だに分からない。だが、俺は前世の記憶があろうが今は豊臣秀吉だ。それは変わらない真実です。」


俺が「俺」であることには変わりないんだ。



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