夢うつつのままに


「みんなで京都に行こうよ!」
「……は?」

きっかけは、慶次の一言だった。



「お、あっちの方で何かやってるみたいだねぇ。」
「本当か!?よし、行くぞ三成、刑部!!」
「待て、私は行くとは言っていない!!腕を引っ張るな!!助けろ刑部!!」
「前田に背負われているわれは行くことは決まっているのでな。ぬしも道連れよミチヅレ。」
「なっ!?」
「ほーらー折角の祭だよ?楽しまなきゃ損だって。家康、三成は任せたよ!」
「任された!!」
「任されるな!!」
「待ち合わせは神社の境内前だからな。」

必死に無理矢理連れていこうとする2人から逃げる三成がまさかの吉継に裏切られ家康に引きずられて人混みの中へと消えて行った。
普段そんなことをしない家康の珍しい行動に思わず顔を見合わせ苦笑する。

祭の賑やかさに興奮でテンションの上がっていたのか三成を引きずって慶次に付いて行った家康の顔はいつも以上に輝いていた。
無理矢理連れていかれた三成も本当は満更ではないようで、いやだと言いながらも顔は嬉しそうだ。嬉しいなら素直にそういえばいいのに。

「やっと行ったな。」
「三成君が粘ったからね。」
「まぁ吉継があいつらの方に回った時点で三成の負けは決まっていたからな。三笠、あとは頼んだ。」
「慶次殿がいるのであれば俺はいらない気がしますが。」
「今は吉継背負っててすぐには動けないだろ。まぁ、そうなる確率はかなり低いが念のためだよ。念のため。」
「分かりました。」

いつものような忍装束ではなくきちんとした着物に身を包んだ三笠は、俺に向かってわざとらしい大きなため息を一つついて三成達が消えた方向へと消えて行った。
はいはい、どうせ俺は親馬鹿ですよ。
でも仕方ないだろ。いつ何が起こるか分かんないんだし。
何かが起こってからじゃ遅いんだよ…!!

「じゃあ僕もこの辺で。」
「ん?なんだ一緒に回らないのか?」
「そうしたいのは山々なんだけど、ちょっと寄りたいところがあるんだ。」
「……そうか。」
「そんなに時間はかからないと思うから合流出来たらするよ。」

言うが早いか半兵衛は、先ほど三笠達が消えたのとは反対の方へと消えて行った。
そして誰もいなくなったのだった。
……別に寂しくなんかないからな!!

目から流れる汗を拭き取り、いつまでも道のど真中に立っているわけにもいかなかったので仕方なく人の流れに乗りながら立ち並ぶ屋台へと目を向ける。
様々なものが売られている中で興味を引かれた飴細工屋で狐と狸と蝶を注文した時だった。
少し先で祭に似合わない女性の悲鳴が聞こえ、直後にその周辺が一気にざわめき出す。
喧嘩でも起きたのだろうかと首を傾げていると、騒ぎが起こっている方向から今度は男性の断末魔のようなものまでもが聞こえて来た。
尋常ではない悲鳴と血の臭いに思わず眉を潜める。

「なんか向こうが騒がしいみたいだねぇ。」
「………」
「兄ちゃん?」
「ちょっと様子を見て来てもいいだろうか。」
「なんだい兄ちゃん野次馬かい?いいよいいよ。どうせまだまだ時間がかかるんだ。待ってて貰うよりはそっちの方が助かるよ。」

来れなかった時のことを考えて一応お代だけ先に店主に払い人混みをかき分けて行く。
しかし辿り着いた時には既に誰かが事態を治めたらしく、騒ぎのあった中心では1人の男が2人の男に取り押さえられているところだった。
取り押さえられている男はまだ諦めていないのか必死に遠くに転がった刀に手を伸ばしながら小柄な方の男に向かって騒いでいる。

「……喧嘩にしては物騒だな。」
「兄ちゃん今来た人かい?どうも喧嘩じゃないみたいだよ。なんでもあの旦那、どっかの国のお偉いさんみたいでさ。旦那の命を奪って名を上げようとしたんだと。」
「こんな人目の目立つところで暗殺をしようとしたのか?一般人が巻き込まれる可能性だってあるってのに何考えてんだか。」
「おい、そこBe quiet!!黙れ!!」

おじさんとの会話はどうやら彼らに筒抜けだったらしい。
小柄な方の男に思いっきり怒鳴られ睨み付けられた。
こっからだと髪の隙間から左目が少し見えるだけだから若干怖い。
つか、小柄な男の横にいる男の睨みがめっさ怖い。
なんか893みたいな顔して誰かを彷彿させる……

「あ。」

視界の隅に入った男達の後ろで光る鈍いそれに本能的に体が動く。
今まさに小柄な方の男目掛けて振り下ろされようとしていた刀をギリギリのところでそれを相手の手から弾き飛ばし、一本背負いの要領で地面へと叩きつけ、先ほど屋台で貰った紐で縛り上げると唖然とこちらを見る男達に紐を差し出した。

「大丈夫だったよな。ほら、これ使ってそいつもさっさと縛れ。」
「……あぁ。」
「縛ったあとは…まぁ、どっかの木に縛り付けとけばいいか。立てるよな?立てないなら手を貸すが。」
「大丈夫だ。」
「そっちの連れも行くぞ。こんな道の真ん中にいつまでもいたら邪魔だろ。」
「……てめぇ何者だ?」
「それも後だ。移動するぞ。」

睨み付ける893…もとい、片倉小十郎と伊達政宗と思われる人物の視線が刺さるのを感じながら野次馬になっていた人達を解散させる。
ついでに、この祭の警備を担っていると言うやつに問題の奴等を明け渡した。
にしても、さっき吹っ飛ばした刀何処に行ったんだ?
そんなに遠くに吹っ飛ばした記憶はないんだが。
……まさか人に刺さってたりしないよな?
だったら今頃何処かでスプラッタなことになっているよな。
……
うんないない。

「……おい。」
「ちょっと待て。……ホント何処に行ったんだ。」
「探し物はこれですか?」

聞き慣れた声と差し出された刀に反射的に振り返る。
そこには案の定、呆れた顔をした三笠が俺が頼んでいた飴細工と刀を持って立っていた。

「三笠、何故ここに?あいつらはどうした。」
「何故?じゃありませんよ。俺は何時まで経っても来ないあなたを探しに来たんです。もうすぐ花火始まってしまいますよ。」
「そんなに経ってたのか。すまん、すぐ行く。」
「Stop!ちょっと待て。俺達との話はどうした。」

あ、やっべ。いたの忘れてた。
俺の腕を掴んできた男に口を開こうとした三笠は相手の顔を見て眉間に皺を寄せた。

「あの、間違っていたら申し訳ありません。もしかして貴殿方って…」
「俺は奥州筆頭伊達政宗。こっちは右目の片倉小十郎だ。」
「政宗様!!」
「コイツらの反応を見る限り、どうせ此方の身元はバレてんだ。隠したって意味はないだろ?なぁアンタ。」
「まぁ、まさか本人から言って来るとは思ってなかったがな。」
「回りくどいのは嫌いなんでな。で、アンタは?」
「秀吉様!!」

声と共に俺と伊達政宗の間に入り込んで来た影。
いつでも抜刀出来るように刀を構える三成に頭を抱えた。

「AH?なんだこのガキは。」
「貴様…秀吉様に何をしていた!!場合によっては残滅する!!」
「てめぇこそ誰に口聞いてやがる。事と場合によっちゃ容赦しねぇぞ。」
「Stop小十郎。刀を降ろせ。」
「しかし…」
「小十郎。」
「三成、お前もだ。俺は何もされてない。」
「ですがっ!!」
「いいから刀を降ろせ。というか、なんでお前がここにいる?他の奴等はどうした。」
「僕らならここにいるけど?」

今日のこの行動は何度目になるだろうか。
声のした方を振り返ると先ほどの三笠と同じように呆れた顔をした半兵衛とニタニタと笑う慶次とその背に背負われる吉継、そして安心したように息をつく家康の姿があった。
あーあ。結局全員来ちゃったのか。
これ、集合場所決めてた意味なかったね。主に俺のせいで。

「半兵衛…」
「三成君がいきなり走り出すからどうしたのかと思ったけど、この子達の心配しておきならが自分が問題起こすのはどうかと思うよ。」
「……すまん。」
「それにしても、なんで独眼竜の旦那達がここに?好い人の取り合いでもしたのかい?」
「俺にいつ好い人が出来た。こいつらとはさっき会ったばかりだ。その幸せな思考回路をどうにかしろ。」
「またまたー」
「いい加減にしないと殴るぞ。」
「おい…俺達のこと忘れてねぇか?」

そうだった。また伊達政宗達がいること忘れてた。
遠慮がちにかけられた声にこの場にいるのは自分達だけではないことを思い出した。
ごめん双竜。悪気はないんだ。
でも忘れるのは仕方ないと思うんだよね。
全然喋ってくんないから存在がフェードアウトしちゃうんだ。
2人とももっと自己主張しようぜ!!
アニメとかゲームの中みたいにレッツパーリィしようぜ!!

「すまん、話の途中だったな。俺が誰かってことでよかったか?」
「それはアンタ達の会話聞いてて分かった。……アンタが豊臣秀吉だったんだな。」
「あぁ。」
「Shit!!とんだ無駄足じゃねぇか。」
「……は?」

何でも、2人は俺を訪ねて奥州からわざわざ大阪まで来ていたらしい。
が、タイミング悪くやって来たのは俺らが京都へ出発した2日後。
何処に行ったかいつ帰って来るかも教えて貰えなかった2人は仕方なく今回は諦めて帰ろうとした帰り道、たまたま立ち寄った京都で今日祭があることを知り、なんなら寄って行こうぜで的なノリで祭に参加していたとのこと。
そんな時のあの奇襲騒ぎ。ご愁傷様です。

「それは悪かったな。」
「いや、何も連絡寄越さなかった俺も悪かったしな。城下見れただけで十分だ。」
「そうか。で、俺たちは明日帰るが寄って行くか?」
「AHー城を空け過ぎちまってるからな。今度書状を送る。」
「分かった。」
「では、話も纏まったことですし移動しませんか?花火が始まってしまいますよ。」
「あ。」



結局、俺たちの長話のせいで気が付いた時には人がごった返しなっており初めに見ようと言っていた場所にはたどり着けず、人ごみの中で潰れそうになりながら花火を鑑賞することになってしまったのだった。





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