子狐と子狸と時々蝶々


ドタタタ!!バタン!!ドゴォ!!バキィッ!!

「…っ…め……や…!!」
「…ん………ろ…!!」

遠くから聞こえる破壊音に吉継との会話を一旦中止し、外へと顔を向ける。
外には雲一つない空と綺麗に整えられた庭が広がっていた。


「……自棄に外が騒がしいな。」
「なに、いつものことよ。太閤は気にするなかれ。」
「いつもの…あぁ、三成と家康か。」

いや、気にするなって言われても…なぁ?
離れであるここまで聞こえるってことは向こうは相当酷いことになってるってことじゃないか?
この前、確か廊下に穴開けてたよな?
確かあれもまだ修繕中だったよな。まだ直ってなかったよな?
また何処か破壊されるとかたまったもんじゃないぞ。
だんだんと大きくなって行く破壊音に城が破壊されないか少し不安になった。

実はというと三成と家康のじゃれ合い(一部本気の抵抗)は最近では大阪城の日常風景になりつつあるのだ。
なんでも家康には自分と年の近い子供はいてもみな家臣の子達ばかりなせいで友達がいなかったらしく、年が近く尚且つ自分に対等に接してくれる三成と友達になりたいらしい。
三成は三成で家康と友達になること自体は嫌というわけではないのだが、今まで友達と言えば歳上で大人な吉継しかいなかったせいか家康のような活発なタイプの人との接し方が分からなくて戸惑っているようだ。
最近はそんな焦れったい子供2人がいつ仲良くなるのかを城中の人間が暖かい目で見守っているとかいないとか。
平和だなぁ。
そしてそのまま関ヶ原フラグへし折れろ。

「最近はどうだ、進展はあったか?」
「われが見ている限りはなんとも……いや、そういえば最近会話をしている回数が増えたような。」

なん…だと……?
あの、俺と半兵衛と吉継以外とは警戒心バリバリでまともに近づきもしない三成が家康と楽しく会話…!?
なんという進歩!!よくやった!!
本当に大きくなったなぁ三成。
気分は息子の成長を垣間見て感動に浸る父親だ。
なんとも言えない喜びが込み上げて来る。

「2人が友になるまであと一歩ってところか。」
「徳川は既にそう思っているのではなかろうか?」
「だろうな。あとは三成が…」
「………っ刑部!!私を匿え!!」

スパーンといい音を立てて俺達が見ていた方向とは逆の襖が開く。
然したる驚きもなくそちらを振り返ると、そこにいたのは肩で息を吐きながらこちらを見て固まる三成の姿だった。

「どうした三成。吉継に用があったんじゃないのか?」
「…ひっ秀吉様!?何故こちらに!?」
「何故って…吉継と茶を飲んでいるからに決まっているじゃないか。」

なぁ?と慌てふためく三成を面白がりながら吉継に促すと、小さくため息をつかれた。
悪いな吉継。
三成弄るのって楽しくてやめられないんだよ。

「やれ、太閤も人が悪い。」
「そうか?」
「はぁ…三成、いつまでそこで呆けている。はよう来やれ。」

今だ入り口でオロオロする三成に吉継が手招きをする。
初めは躊躇していた三成は、俺も一緒に手招きをすると恐る恐るという感じに部屋へ入って俺達からかなり離れた場所に腰を降ろした。

「………」
「そんな所にいないでもう少し近づいたらどうだ?」
「いえ、私はここで…」
「三成。」

顔を真っ赤にして俯く三成の名前を呼ぶ。
ハッと顔を上げた三成はまるで戦場にでも行くかのような緊張した顔をして俺の向かいへと腰を降ろした。

「……失礼します。」
「そう固くなるな。そうだ三成、ちょっと口開けてみろ。」
「口…ですか?」
「ほら、早く。」

おずおずと開けた三成の口へ一口サイズに切った羊羮を放り込む。
いきなり入って来た固形物に一瞬固まったが、それが羊羮だと分かると嬉しそうに顔をほころばせた。

「美味しい…」
「どうだ、うまいか?」
「はい!!とても美味しいです!!」
「そうかそれは良かった。実はそれ、俺が作ったんだ。」
「え、秀吉様がお作りになられたのですか!?」
「あぁ。作ったはいいんだが、間違って大量に作りすぎてしまったんだ。よかったら食べてくれ。」
「はい!!」
「ほら、吉継も。」
「われはもうよい…」

三成は大量の羊羮が乗った皿を嬉しそうに受け取ると、目にも止まらぬ早さで羊羮を消費していく。
その量に見てるこっちがお腹一杯だ。
そういえば三成にしちゃよく食うよな。
前世からすると小食なイメージがする三成だが、この三成の食べる量は普通の人並みだ。
おまけに昼時には甘味を毎日しっかりといただいちゃってる。
……小食になったのって関ヶ原に入ってからだったのか?
いや、昔から食べていないみたいな会話あったし……
やっぱり俺が知っている世界とのズレなのだろうか。
まぁ、しっかり食ってる割にはなかなか横には肥えてくれないから見た目は三成のまんまなんだがな。
ちょっと幼いくらいで。

「三成はもっと食べろ。最近、縦には伸びて来たが横が細すぎる。それだと相手に簡単に吹っ飛ばされるぞ。」
「そうですか?分かりました。」
「吉継もな。もう少し食べ……」
「三成ー!!また刑部のところに隠れたな!!もう逃げられんぞ!!」

先ほどの三成のようにスパーンと勢いよく襖を開けてやって来た家康に三成だけが肩を跳ねあがらせ部屋の奥まで一瞬で移動した。
その手には羊羹の入った皿を持ったままである。
三成はなかなかに食い意地が張っているようだ。

「なっ家康!?」
「徳川、もう少し静かに入って来いといつも行っておろう。」
「すまん!!だが、ああやっているのは三成も同じじゃないか。」
「私はそんなことはしていない!!」
「してる!!」
「してない!!」
「大してどちらも変わらぬわ。」

……なるほど。これが日常茶飯事なんだな。
吉継の対応が落ち着きすぎている。
気にした風もなくお茶を啜っている…!!

「三成、家康。それくらいにしろ。」
「しかし…!!」
「食べ物を持ったままうろうろするな。ほら座れ。家康もこっちで一緒に食べるだろ?」
「え…いいのか?秀吉公。」
「どうせあんな量三成一人で食べれるわけがない。2人で仲良く分けて食べればいいだろう?」
「分かりました……チッありがたく頂け。秀吉様の手作りだ。」
「秀吉公の!?では、遠慮なく!!」

嬉々として羊羹を口へと放り込む。
しばらく咀嚼すると、味がお気に召したのか家康は目を輝かせると次から次へと羊羹を口に運んでいく。

「あっ貴様っそれは私が狙っていた…!!」
「ん?そうだったのか?すまんなもう食べてしまった。」
「いえやすぅぅうううう!!」

あんなことを言ってはいるが三成も家康も楽しそうである。
吉継の2人を見る目も穏やかだ。
そんな3人を見守りながらもう冷えってしまったお茶を啜る。



今日も平和です。






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