In the blue






夏合宿。
高校が夏休みになったと同時にバスケ部は一週間合宿へ向かう。選手だけが合宿に行くのではなく、俺たち女子マネも合宿へ行かなければならない。一週間分の荷物はボストンバックひとつ分でおさまった。麻央ちゃんには「っちょ、少ないって!」などと言われたが俺は十分だと思う。服は洗濯すれば着まわせるし、下着だってそうだ。何をそんなに持っていくものがあるのだろうかと俺は不思議に思った。

ボストンバックを片手に麻央ちゃんと校門へ行くと鐘がもういて、俺たちを視界にいれると手をふってきた。


「よー二人とも。けっこう早いじゃん」
「そうか?」
「ってか雄歩荷物少なくね?」
「鐘もそう思うよね!わたし、びっくりしたもん」
「持ってくるものなんてそんなにねーじゃん」


俺たちが話していると続々と他の部員たちも集まってきて、全員が揃ったところでバスに乗り込んだ。
バスの中は男ばっかでむさくるしく、俺たち女子マネはすみっこのほうでお菓子を食べながら話していた。会話の中で最終日は海でみんなで遊ぶんだよ、という話しを聞いて俺はびっくりした。そんなの初耳だ。水着なんて持ってきていない。


「俺、水着持ってきてないんだけど…」
「大丈夫!雄歩のはわたしがちゃーんと持ってきてあげたから!」


え?と思いながら麻央ちゃんを見るとにこにこと可愛らしい笑顔で「安心してね」と言いながら親指をたてられた。なにを、安心すればいいんだ?あの笑顔の裏には何かがある気がする…。


最終日。
あっというまに時間が流れ、いつのまにか合宿の最終日になってしまった。
初日のバスの中での会話に出てきた海で遊ぶ、というのはどうやら本当だったらしく、みんなが近くの海へ水着を持って歩き出した。え、うそ、まじかよ。


「雄歩、一緒に遊ぼうぜ」
「鐘ごめん、俺水着持ってきてない」
「えーうそ、まじ?」
「うん、だから遊べれな「雄歩!水着に着替えよ!」ま、麻央ちゃん!?」
「言ったでしょ、安心してって」


俺の着ていたティーシャツをひっぱり更衣室へ連れて行かれる。そんな俺を鐘はにやにやしながら見ていた。
あ、なんかむかつくかも。


「雄歩に水着を持ってきて、って言うとどうせ色気のないものを持ってきそうだったから雄歩には言わなかったの」
「ひどいよ麻央ちゃん」


そりゃあ、可愛い水着なんて持ってこないと思うけど。


「だからわたしが雄歩に似合う水着を選んで持ってきたんだよ。ほら」


ほら、と言われ渡されたのはピンク色のドット柄で、ビキニだった。


「む、むりむりむりむりむりむり!ビキニとか着れないって!」
「えー雄歩スリムだから絶対に身体のライン綺麗だと思うんだけどなー」
「嫌だよ、ビキニなんて!しかもどうして上に着るものがないの?」
「2点セットだったからね!」
「うぅ、じゃあ上にティーシャツ着る」
「駄目だよ雄歩」
「で、でも、「駄目」……はい」


すごい迫力の麻央ちゃんに負けて俺は渡された水着を着ることにした。
だって、麻央ちゃんの目が怖いんだもん。


水着を着た俺を見た麻央ちゃんは「やっぱり雄歩はその水着が似合う!わたしの目に狂いはなかった。これで鐘もイチコロね!」と何か不吉なことを最後に言っていたが気にしないことにした。


更衣室から出て、みんなのいるところに行くとばっと注目が集まった。なんだろう、と思い周りを見てみると隣にいる麻央ちゃんに視線が注がれているのだと分かった。麻央ちゃんは可愛いからな。仕方がない。


『ユーホ!』
『おお、ジョシュ。どうかした?』
『いつも可愛いけど今日は一段と可愛いよ。その水着、似合ってる』
『お世辞は別にいらねーよ』
『本当のことだよ。天使みたいだ』
『言いすぎだって』
「なんかキュートとかエンジェルとか聞こえてくるんだけどなに、ジョシュは雄歩のことめっちゃ褒めてるわけ?」
「あ、鐘…」


俺とジョシュが話している間に割って、鐘はやってきた。
鐘の手が俺の腰に直に触れている。少しだけくすぐったい。


「まー雄歩が可愛いのは犯罪級だけど、嫉妬しちゃうなー」
「はっ!?な、何言ってるんだよ鐘」
『?』
「ちょっと、雄歩連れてくわ」
「あ、あつむ!?」


腕を掴まれどんどんみんなから遠ざかっていく。一体、どうしたんだ?

連れて行かれたのは人気の少ないところで、なんだか危ない雰囲気。俺と鐘しかいないってどうよ。腕を掴まれているは人はいないはで俺の頭の中はぐるぐるといろんなことを考えてしまい今にもパンクしそうだった。いやいやいや!鐘にかぎってそんなことは!


「ゆーほさ、自覚ある?」
「な、なんの?」
「自分に注がれてる視線」
「は?あれって麻央ちゃんじゃなかったの?」
「だーもう!お前ってばか!鈍感!あほ!」
「な!なんでそんなこと言われないといけないんだよ!」
「気づけよ!そりゃあ麻央を見ている視線だってあるかもしれないけどほとんど、雄歩を見てたんだぜ?」
「ありえないでしょ」
「だから、自覚しろって。自分が可愛いってこと」


鐘が最後の一言を言った瞬間に耳元で「おれ、心配。だって、雄歩、無防備すぎるんだもん」とぼそっと言われ吐息が耳にかかり背中がぞくっとした。その、低音ボイスは反則だ。腰がくだけてしまいそうになる。
そのままちゅっとおでこにキスをされて、俺は真っ赤になっているであろう顔を鐘の胸板に押し付けた。見られたくない、こんな真っ赤な顔!








サラさんへ捧げます

(090608)




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