「サーモン&マスカルポーネ、玉ねぎ抜きでお願いします」
昼時の混雑したその店内で、なまえの注文する声を隣でそれとなく聞いていた。
そう言えばなまえは生の玉ねぎが苦手だと言っていたな、なんて思いながら。
そうしてしばらくして出て来た注文の品をトレイに乗せて、タイミング良く空いた席へふたり並んで座る。
これだけ店内が混んでいるならばテイクアウトの方が良かっただろうけれど、なまえが余りの空腹からか作られていくサンドイッチをきらきらとした目で見つめているものだから、仕方なく店内で食べることにした。
セットのアイスティーで喉を潤したなまえが、嬉しそうに包み紙を開けて、一口。
「あ、」
「うん?」
小さく落とされた言葉に隣のなまえを見遣れば、彼女は今しがた自分の齧ったサンドイッチを凝視している。
何か異物でも入っていただろうか、と、その齧り口を覗き込むとそこから覗いていたのは玉ねぎだった。
なるほど、店員のミスだろうか。まあ、これだけ忙しそうであれば仕方ないとも言える。
そう思いながらも、サンドイッチを持ったまま固まるなまえに苦笑を浮かべながら問い掛けた。
「交換して貰おうか。玉ねぎ、ダメなんだろう?」
「えっ、あっ、はい・・・でも、忙しそうだし・・・」
混雑する店内と忙しなく働く店員を交互に見て、なまえは口篭る。
それからしばし何かを考え込んで、サラダのフォークをその手に持った。
そして、トレイの上でサンドイッチの包みを慎重に広げると、更にその上でバンズを開いて。
ぎっしりと並べられた玉ねぎに少しだけ眉を下げて、なまえはそれを器用に手にしたフォークで避けていく。
やけに真剣にその作業をするなまえを、コーヒーを啜りながら見つめた。
「・・・よし!」
意気揚々と彼女が声を上げた時には、包み紙の片端に玉ねぎの塊が出来上がっていた。
バンズを元に戻して、やっと自分好みの味になったサンドイッチへ、なまえが齧り付く。
ほわり、と緩んだ表情に、思わず釣られて唇が弧を描いてしまう。
「ところで、なまえ」
自分の分のサンドイッチの包み紙を開けながら名前を呼べば、口をもぐもぐさせたなまえがこちらをきょとんと見上げて首を傾げた。
小動物みたいだな、等と頭の端で思いながら、トレイの上の包み紙、その端っこの玉ねぎの山を指差す。
「それ、どうするんだい?」
残すのか、と、言外に問い掛けた事がなまえにも伝わったのだろう。
彼女はぴたりと咀嚼を止めると、目を丸めて。
それから慌ててアイスティーを飲んで口の中を空にすると、玉ねぎの山へちらりと視線を向けた。
別に食べろと言ったつもりはなかった。苦手なら、残せばいい。
そもそもが店側のミスなのだから、なまえが気に病む事は何もないだろうに。
それでもなまえは、申し訳なさそうな表情で玉ねぎをちらりちらりと見るから。
その様子につい、笑いが溢れてしまう。
「あの、スティーブンさん・・・」
「なんだい?別に無理して食べなくてもいいんじゃないか」
「えーっと・・・あっ!それじゃあ!」
思い切り何かを閃いた顔をしたなまえは、その手にもう一度サラダのフォークを持つ。
そしてそれを玉ねぎの山に突っ込んで、持ち上げて。
あろうことか、こちらへと差し出して来た。
「スティーブンさん、玉ねぎは苦手ですか?」
「いや、特には平気だけど・・・」
「それじゃあ!」
はい、あーん。
嬉々としてフォークをこちらへ向けて、なまえが小首を傾げて微笑む。
その瞳がさっきサンドイッチを見つめていたように、あまりにもきらきらと輝いていた。
だから思わず、瞬時頭が白くなる。
あーん、って・・・あーん、って!何言ってんだこの子!何してんだこの子!
可 愛 す ぎ る だ ろ ! ?
口から飛び出しそうになった叫びは、差し出された玉ねぎを乱暴に口に入れて一緒に飲み込んだ。
「えへへ、ありがとうございますスティーブンさん!」
「・・・君ねぇ」
溜息混じりの言葉になまえは首を傾げながらも、嬉しそうに自分のサンドイッチを齧る事に一生懸命になっているから。
俺も大概この子には甘いなと、今更ながらに実感した。
イートインで命拾い
(テイクアウトだったらそれこそその場で君を「テイクアウト」してたぞ!)
お嬢さんには甘いスターフェイズ氏と、やっぱりスターフェイズ氏を振り回す天才のお嬢さん
ちなみに私、サブウェイ経験はたったの1回です