「と、言う訳でこの度、一応その・・・お付き合いする運びとなりました・・・スティーブンさんと」
ライブラ事務所のソファに座って畏まったなまえの言葉に、ザップは葉巻の紫煙を口から吐き出して、一言。
「あっそ」
「あ、あっそって!もうちょっとなんか無いの!?」
あまりに素っ気ないその一言になまえが思わず憤慨するも、ザップとしては「やっとかよ遅いんだよバカかよ」と言った率直な感想しか抱けず。
仕方なしに煙を一吸いすると、それを吐き出すついでのように言葉も続けた。
「つーか、なんでそれオレに言うんだよ」
「いやなんか、知らない所でザップにもお世話を掛けていたようなので、不本意ながらお礼と報告を兼ねて」
「不本意ながらってなんだよ!そんなもんなら要らねェわ!」
つい大きくなるザップの声になまえが顔を歪めるも、すぐにちらりと壁の時計を気にする。
そう言えば今日だったか、大怪我を負って入院したライブラの番頭役が二週間振りに仕事に復帰するのは。
いつもより何処かそわそわとするなまえの足元へザップがふと目を遣れば、そこには見慣れない靴が嵌っていた。
いつぞやに話をしていた物だろう。
華奢なデザインのそれは美しく、それでいてなまえの動きを妨げるような代物ではなさそうだった。
事実上初めて贈られたであろうプレゼントを身に付けてその人を待つなまえは、酷くいじらしく見える。
「お前さ」
不意にザップの口をついて出た言葉に、なまえが首を傾げる。
「絶対苦労するぜ、何たって相手があのスターフェイズさんなんだからよ」
「な・・・!分かってるよ!そんな事私が一番分かってるよ!わざわざ言わないでよ!?折角お礼しようと思ったのに!ザップ嫌な奴だな!?」
途端、なまえが泣き出しそうな表情で言い募った。
ぎゃんぎゃんとひとしきり騒いだ後でがっくりと項垂れてしまったその顔を見て、ザップは紫煙を燻らせる。
「・・・分かってるよ、分かってる。傷付かないなんて事、無理だって。きっとこれから先も私が勝手に悩んで、勝手に空回って、勝手に傷付くって、分かってる」
それでも、と。
言いかけて口を噤んだなまえの言葉の先を、ザップが引き継いだ。
「好きなんだろ。傷付いてもいいって思える位、好きになっちまったんだろ」
顔を上げたなまえが、みるみる目を丸くする。
それをザップは鼻で笑いながら、軽くその額を指で突いた。
「いたい、」と零して額を押さえるなまえを、ザップは紫煙を吐き出しながら見遣って。
「お前が選んだんなら、それでいいんじゃねェの」
「・・・ありがと、ザップ」
なまえの小さな声に、ザップが煙と共に苦笑を漏らす。
と、同時に事務所の入口の向こうに現れた人の気配に、なまえがソファから立ち上がった。
見慣れないその靴を纏って、彼女が扉へ向かう。
その背へ、ザップが声を掛けた。
「なまえ」
振り向いた不思議そうななまえへ、いつもの顔で笑って。
「よく似合ってんぞ、その靴」
一瞬だけぽかんとした表情を浮かべたなまえは、次の瞬間にはとても幸せそうにはにかんで見せた。
その足元で、踊るような軽やかな靴音が響く。
カーテンコールに喝采を
(最後までどうぞ、暖かい目でお付き合い下さい!)
ザップとの兄妹感のある話が書きたくて
心配しつつも結局お嬢さんの幸せを心からお祝いしちゃうザップとかいいと思います、度し難いクズでも