席についてから何時間経ったのだろう。昨日、どうしてもリアルタイムで見ておきたかったアニメを見ようと夜更かしをしたおかげでかなり長い間睡魔に襲われていたような気がする。ただ夢をみていないことから、きっとぼけっとしながらもなんとか一日を乗り切れたんだろう、と一人考えつつ体を伸ばせばどこからともなくごきごき、と音がした。凝り固まってるな。
担任が委員会遅れんなよ、とクラスにいつものだるそうな声を落としてホームルームは終わった。委員会か。予定表を見る限り、うちの学校の文化祭は十一月と周りに比べて少し遅いほうだ。約五ヶ月前、この地で感じた楽しみを次はこちらから発信する。考えるだけでも難しい仕事で、だからこそのやりがいが感じられるだろう。


「梵さん、委員会行こ」
「ああ、うん。どこだっけ?」
「会議室。どこにあるんだっけ?」
「一階の端、職員室の下でしょ。先いくよ」
「あ、待ってツッキー」


纏まって行ったほうが確実に楽だ。鞄に雑に最低限のものだけ突っ込んで月島を追う山口を追った。一年の教室は四階にずらりと並んでいる。従って一階までの距離も遠くなるわけで、廊下ではホームルームを終えた生徒がごった返していた。今日は一斉委員会だ。委員会へ向かう生徒が殆どであるが、集まりが必要の無い委員会もある。そんな生徒は友人に先に帰ると告げ帰路につく。貴重品係などというものがあるのには驚いた、集会の時など教室を離れる際にクラスの貴重品を預かる係らしい。確かに安全ではあるが、なんとも面倒な係だろうと思った。人気のなさ、つまりは競争率が低いからとこの係を選択しなくてよかったと心底安堵する。それでも委員会の集まりがないのは楽だろうな。そうして羨みばかりを並べたって仕方がない。視線を前に戻して彼らのあとに続く。自分に関係の無い話題が、知らない声が、耳にたくさん飛び込んでくる。そんな中で、呼びかけるような知らない声が耳を掠めた。


「あ、梵さーん!ばいばーい」


三人揃って視線を声の主へと向けた。上靴のラインの色が違う、上級生だろう。知り合いか?必死に記憶を辿っても、どうしても認識が出来ない。初対面、か?短い間ではどうにも答えが出ず、さようなら、と控えめに笑って返せばその人物を中心としたグループが笑いに包まれた。


「梵さん知ってる人?」
「さぁ?私は知らないけど…」
「え、じゃあなんで返事したの」
「や、別に。声掛けられたし、無視もあれでしょ?」
「うーん確かに…」
「それに、あたしより月島の方が大変そう」


前を歩く月島の頭を見ると遠くから飛ばされるハートの嵐に後ろからでもわかるように不機嫌な様子。普段から見てる限り月島はあまりこの状況を好きでない。急ご、と二人の背中をぐいぐい押して会議室へと足を進めた。





「あれ、月島と山口?」
「澤村さん!それに菅原さんも」


人数確認のための名簿にチェックをまとめて付けているとき待機してる二人に掛けられた声は聞き覚えのあるものだった。鞄を背負い直しつつ振り返れば二人は声の主であろう人たちに挨拶をしている。「お前らも文実か」と笑うその人たちは確かにどこかで見かけた顔で、それでもどこで見かけたかまでは思い出せない。やはり人の顔を覚えるのはどうも苦手だ。じっと足元を見ると先ほど廊下で声を掛けられた人たちと上靴のラインカラーが同じだった。上級生か。
それにしても、月島と山口が挨拶をするような上級生がいたのか。どこにその人脈を隠していたんだ?


「あっ」
「…あああ!?」
「えっ」


目が合うと途端に目を見開いて驚かれた。表情が豊かな人たちだな、とどこか遠いところで思う。…どこかで会ってる反応で間違いないよね?


「愛玖!?」
「え」
「覚えてるかな?オリエンテーションの時は本当にごめんな」
「あ、あの時の。本当に平気なので気にしないでください」


同時に声を掛けられた。顔を交互に見る。後者はオリエンテーションの時のバレー部の人だ。前者は、


「覚えてない、かな?菅原だよ、菅原孝支」


名を口にする彼に今度は私が目を見開いた。菅原孝支。


「こ、孝支くん!?」
「よかった思い出してくれて。元気してた?」
「私はいつでも元気…ていうか気付かなくてごめん!会わないうちに…大人っぽくなったというか、雰囲気変わった?みたいな」
「いいのいいの、本当久々だなあ」


彼が中学を卒業して、生活時間もお互いが違うようになって、もう二年は会っていなかった。
孝支くんは近所に住む二つ上のお兄さん。小さい頃はよく一緒に遊んで、学校へも一緒に行ったっけ。孝支くんがバレーに出会って少しだけ距離ができて、でもそれを埋めるように時々バレーを教えてくれた。…一時期はバレーに嫉妬もしたっけな。近かった身長も、今ではこんなに違う。
そんな孝支くんと、また同じ学校なんだ。
どんな運命だ。凄すぎる。今少しだけ学校が好きになった。

…ん?バレー部であろう孝支くんを、そして確定バレー部の澤村さん?を知っているということは。


「月島と山口ってバレー部だったの」
「そうだけど」


たまげた。山口はまぁわからなくもないけど、こんな、何にも興味を持たなさそうな月島がバレー部。今日という一日に驚きが詰まりすぎている。

ともあれ今日は委員長と副委員長を決めるだけですんなりと終わった。あたしたちの出番は二学期からが本番。二人が部活に所属してるのは何だか嫌な予感しかしないけど、それはまだ先の話だし今は取り敢えず関係ないか。





×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -