やっぱりちょっとこのバイト先は頭がいかれてるんじゃないかな。そんなことをぶちぶちと考えながら帰路に着いた。

バイトは好きでやっている。お金欲しいからバイトしてるし、別に今のバイトの仕事内容が嫌なわけじゃない。一年のときから続けているからもう二年と少し働いている。特に人間関係が悪いことも無く、寧ろ良くしてもらってると思う。皆いい人だよ。

だけど、一つだけ許せないことがある。残業だ。
少しの残業なら許容内だ。残業代出ないわけじゃないし。
でも、仮にもあたしは受験生とか就活生なわけで、それ以前に高校生なわけで、いくら忙しいからって日付が回るギリギリまで、閉店近くまで働かせるのはどうかと思う。

いやわかるよ?悪いのは店側じゃなくてバックれたバカバイトだよ?出られる人いなかったのもわかるよ?でもだよ!なんであたしがこんなギリギリまで残らないといけないの!終電間に合わないじゃん!バイトも楽じゃない。

とにかく、今日の宿だ。こういうときのためにバイト先はここにした。嘘。たまたま最高の位置に宿があった。

スマホを操作して通話をかける。


『なんだよ』
「本日一名様泊まれますでしょうか?」
『無理』
「頼むよ!終電ないんだよ!あたしと岩泉の仲でしょ!」
『はぁ…鍵開けとくから好きにしろ。母さんまだ起きてるだろうから話は通しとく』
「はぁ岩泉様神愛してる結婚しよう」
『お前とだけは絶対に無理』


切りやがった。本当に岩泉の家が近くて助かった。いつもこういう時は何だかんだ文句を言いながらも仕方なく泊めてくれるから感謝してる。泊まりすぎてお母さんとも仲良くなった。いつも快く泊めてくれて、夜ご飯から朝ご飯まで用意してくれるから大好きだ。優しいし。うちの母親と交換して欲しいくらいには好き。

岩泉家に着いて、呼び鈴はうるさいだろうからそっとノックして中へと入る。お母さんはリビングにいると思い進むと、案の定そこにお母さんは座っていた。


「月彗ちゃんいらっしゃい。今日も大変だったわね」
「そうなの!もうこき使われちゃって」
「お疲れ様。お風呂いれてあるから入っていいわよ」
「いつもありがとう…岩、じゃない、一は部屋?」
「そうよ」
「ちょっと行ってくる」
「はーい。私もう寝るから、何でも好きに使ってくれていいわよ」
「ありがとう!」


いつも本当自由にさせてくれてもはやここはマイホームだ。終電逃してなくても入り浸る日があるし。ここから学校に行くこともよくある。今日は金曜日だからゆっくりできるけど。
確か読みかけの漫画があったんだ。それを読んで夜を明かそう。その前に風呂に入らねば。


「岩泉!服だして!」
「声でけぇよゴリラ」
「ゴリラにゴリラって言われても…」
「追い出すぞ」
「ゴメンナサイ」


こういう時は素直に謝らないと本当に追い出される。容赦ないゴリラ。でもすぐにいつも貸してくれるスウェットを出してくれるあたりなんだかんだ優しいと思う。こういう所なのかな、モテる理由は。いつも女子に囲われやがって、クソが。


「ねーあれどこしまった?」
「前に読んでたやつか?出しとくからさっさと風呂入ってこい、くせぇ」
「女子に臭いとはなんてデリカシーのない奴!」
「ラーメンの匂いこびり付いてんだよ、腹減るだろうが」
「じゃあ明日帰ってきたらラーメン行くしか」
「何時まで入り浸るつもりなんだよ」


そりゃもう何時間でもいられるよ。明日バイト休みだしね。
るんるんとしながら風呂に向かう。バスルームから癒される入浴剤の匂いが漂ってきて、さすがお母様私の趣味をわかってる、と感心する。さっさと済ませて漫画の続き読まなくちゃ。





いい湯であった。我ながらおっさんくさい感想だな。ひとりツッコミを脳内で済ませて岩泉の部屋に戻るとそこには既にきちんと布団が敷かれていて、更にその布団には岩泉が横になって目を閉じている。


「いつも言ってるけどあんたがベッドでいいよ」
「るせぇ。お前が寝惚けて布団剥ぎ取るからだよ」
「目くらい開けろや!女を床で寝かせられんくらい言えんのかハゲ!」
「ここに女はいねぇ」


くっそ言いたい放題かよ。その通りだよ。どうせ手癖悪いよ。意識ないんだから仕方ないじゃんか。

口調が荒いわりには部屋は綺麗だし、嫌な臭いもしない。なんならあたしが寝ることを前提に読みたかった漫画を続きからと、読み終わった時のために別の漫画まで用意してくれている。さすがはエスパー。一家に一台、岩泉一。そんな時代が来てもおかしくない。


「寝るぞ」
「うぃ、おやすも」


漫画読むから電気は消さない。代わりに岩泉が布団に潜り込む。すまん。あたしは朝方までくふくふしながらこれを読むよ。続きものなのが悔やまれる。どうせなら最後まで読みたい。新刊が出たらまた読みに来るしかない。

いつ終わるのかな。卒業までに終わる?そのあとも続く?もし卒業したら岩泉とはきっと進路が分かれる。バレーバカだからきっと大学に行くだろうし、バレーも勿論続けるだろう。

あたしはまだ何も決めてないけど。大学とか専門に行くかどうかも、就職するかどうかも。もうそろそろ決めないといけないんだろうけどまるでビジョンがない。でも、きっと道は分かれると思う。なんとなくそう思う。その時はこうして遊びに来れる関係が続くんだろうか。

ぶんぶんと首を振って考えるのをやめる。きっとそういうことはそのときにならないとわからないこと。今を楽しむのが私のモットーだ。







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