早いもので、あれから数週間が過ぎた。
花巻くんは以前のような近すぎる距離感が抜けて、あたし的にはやっと友達の域に差し掛かったような気がして、それがどうしようもなくほっとした。つくづく恋愛は向いていないと身に染みて感じている。…そりゃあ、まぁ、まだちょっと気まずい気持ちは抜けないけど。

あの日、気を紛らわすための音ゲーをするためにゲーセンに立ち寄った。そしたら目に飛び込んできたのは、好きなゲームのガチャガチャ。推しキャラがいる!四種類しかないのに!その中に推しが!感動して回したけど、出るはずもなく。悔しくて、出るまで回してやる…!と意気込んだものの、惨敗。音ゲーに使う予定だった金額まで費やしたのに…!

それから、バイトのない日に何度も回しに行ったけど、それも尽く惨敗。…これは、物欲センサーだ…。


「ゲーセン行こ」


そして今日、何度目かの月曜日。岩泉を誘った。月曜は決まってバレー部が休みなのはもうとっくに知っていたことで、こうやって誘うのも今に始まったことじゃない。


「ゲーセンか。久々に行くかぁ」
「っしゃ、決まり」


物欲センサーに拒まれるのなら、物欲センサーを利用してやろうじゃん。待ってろよ推しキャラ!

るんるんで席を立つと、教室の入口から及川くんが顔を覗かせた。「岩ちゃーん、帰ろ」形のいい薄い唇がそう動けば、クラスの女子たちが「また及川きてる」「毎日来てるよね」「てか今日部活休みでしょ」「うわ、重たい彼女かよ」と口々に適当な言葉を並べて、岩泉の方をにやにやと見やっている。岩泉はといえばそれを聞いて隠しきれない鳥肌を立ててた。ウケる。


「ごめーん及川くん、今日こいつ借りる」
「え!なんで!」
「ゲーセン行くから」
「ええ!ずるい!及川さんも連れてってよ!」
「え、やだよ…謂れのない陰口叩かれるし」
「俺の岩ちゃんなのに!」


入口で首を傾げていた及川くんに声を掛けたら駄々っ子になった。高校生になった男、しかもスポーツやってるそれなりにガタイのいい奴がそんなことをしても可愛いはずもなく、残っているクラスの女子もドン引きだ。主に最後の一言で。鳥肌を通り越して怒りに変わった岩泉が「誰がクソ川のだボゲ」と悪態をついて席を立ったからそれに続いて教室を出る。仕方ないから敷地を出るまでは喚いてる及川くんも連れて行ってあげよう。

別に及川くんを連れていくこと自体は嫌じゃないんだけどね、謎に妬んでくる女子がちょっとね。
あーあ、及川くん運良さそうなのにな、残念。


「及川くん、運だけくれない?」
「? 何言ってんの、運は自分で掴むんだよ」


スニーカーを雑に投げながら聞いたらゴミみたいな返事がきた。なんかムカついたから持ち前の長い足で腰あたりを蹴っ飛ばしといた。「痛い!」そりゃそうだろ蹴ってんだから。そのままお前の運まで吹っ飛ばされてしまえばいい。すげぇ蹴りだなと、隣で岩泉が笑った。

そこからは雑談しながらゲーセンに向かって歩いた。しばらく及川くんは諦めずについてきたけど、途中で諦めたように離脱していって、後方からは電話しているような声が聞こえたから仲のいい人にでも連絡をしたんだろう。こちらはといえば彼がいないだけでめちゃくちゃに平和で、岩泉ゲーセンで何やってたっけとか、音ゲー下手だよなとか、久々にレースゲームの対決でもするかとか、そんな話をしながら同じ歩幅で、岩泉の自転車を挟んで歩く。まぁ、ガチャガチャで推しがすんなり出ればの話だけど!少し先には新作ゲームの発売日も迫ってるし、わりとお金はカツカツなのだ。…でも、なんか久々だな、こういうの。ちょっとだけ青春っぽいと感じるのは心が老けていってる証拠だろうか。


「ちょ、あーっ!ストップストップ!」


危な、柄にもなく感傷に浸ってたら通り過ぎるところだった!リアキャリアを引っ張って無理矢理停止させると向こうも「危ねっ」と少し後ろに仰け反った。


「危ねーだろうが」
「いでっ」
「ったりめーだろ、殴ってんだから」


チャリを止めて手加減のないゲンコツをあたしの頭に落として放った言葉が、さっき及川くんに思ったことと被ってて笑ってしまった。よく似てるね、あたしたちは。
殴られた部分を大袈裟に擦りながら、正面のガチャガチャを指さす。


「? んだよ」
「今日はこれ目当て!お金払うから回して」
「はあ?ゲームしに来たんじゃねーの」
「推しキャラがすぐ出たらゲームもするって!岩泉にかかってんだよ、頼む!」


パンっ!と両手を顔の前で合わせて向き合うと、ため息をつきながらも「回すだけでいいんだろ」と小銭を催促された。頼むよ、300円…!昔見たガチャガチャよりいくらか値段設定が高くなった機械と小銭に祈って、それを手渡した。

ガチャりと、ハンドルが回る音とカプセルが落ちる音が重なる。「ん」出てきたカプセルを手渡され、それにもう一度念を送る。出ろ出ろ出ろ!もう出てきてるから中身は変わらないけれど。

祈りを込めつつ、カプセルを覆うビニールを丁寧に剥がしていく。目を瞑りながらパカりとそれを開けて、中身を取り出して、ゆっくりと目を開く。


「…出た…!」


出た!出た出た!ミニチュアだけど、しっかりとゲーム内の装備を表現されたそれが袋に包まれている。やっぱかっこいい…!そして恐るべし物欲センサー!


「よかったじゃん」
「ありがとう!お前は天才だ!」


今日ばかりは岩泉に感謝だ。気分がいいからこの後のゲーセン代を出してやろうじゃないか。





×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -