『ほんっと悪ィ!』
「えー…」


鉄くんからの電話がきたと思ったら、デートの断りの電話だった。練習試合が入ってしまったらしい。


「ん…わかった」
『今度埋め合わせすっから。な?』
「ん。どこでやるの?」
『うちの体育館』
「そっか。頑張ってね」
『おう』


頑張ってる鉄くんにわがままなんて言えない。わかってて告白を受け入れたのだ。…ハマってるのは私の方だけど。
通話終了の画面を見て溜息をついた。最近練習がまた忙しくなったみたいでもう暫くデートできていない。校内でも特別カップルらしいことはしていない。鉄くん曰く、自分に彼女がいないときベタベタしてるカップルを見ると腹が立つからだそうだ。…それには私も同意した。色々と条件が重なってしまい、私たちはなかなかカップルらしくいられていない。
…こっそり練習試合見に行っちゃおうかな。一目見ることができれば少しは満足できそう。







学校の前まで来た。休日だから私服で来ちゃったけど大丈夫かな、バレないかな。バレてもいいか。


「あっお姉さん」
「!」
「あ、ごめんね。驚かせるつもりはなかったんだけど…体育館ってどっちだかわかります?迷っちゃって」


バレー部だろう、ユニフォームの上にパーカーを羽織った人に声をかけられた。鉄くんが着てた記憶のないユニフォームだから…練習相手だろうか。


「私も体育館行くのでよかったご一緒に…」
「まじですか!助かります、自分方向音痴で」


新入生だろうか?あどけなさが残っていて、なんだか若々しく感じる。一つか二つしか違わないはずなのになんだか自分が突然老けた気分だ。


「おー、さっきの体育館だ…!お姉さんありがとう!えっと、」
「あ。苗字です。音駒の応援ですけど」
「あ、そうなんスね。俺の先輩たち強いんで、負けません!」
「…君は強くないの?」
「うっ」
「冗談です」


なんていうんだろう、後輩力が高い。まるで犬みたいだ。人懐っこくて。鉄くんからしたらリエーフくんってこんな感じなんだろうか。


「へー。宣戦布告?」


ずしり。

頭に腕を置かれ重みが私を襲う。…この仕草、この匂いは。


「て、鉄くん?」
「黒尾先輩!」
「久しぶりだな。お前のとこのチームだったんだ?」
「そうなんですよ。黒尾さんのプレイ久々に見られると思って楽しみにしてました!」
「ふーん」


…知り合い?
見上げながら問うと中学の後輩、と返ってきた。その顔は若干不機嫌そう。大丈夫かな…。
短い会話をいくつか交わした後輩くんは今の先輩にキレ気味に呼ばれて戻っていった。不安だ…。


「オイ名前」
「っはい」
「ちょっとこっち」
「、え」


何かを言う間もなく腕を引かれ階段裏の隙間に連れて行かれる。こ、こんな所入っても大丈夫なのか、な…って


「んんっ、苦しいよ鉄くん…!」


座らされたと思ったらいきなり強く抱きしめられて苦しくなった。…久々の鉄くんの体温だ、嬉しくなったのは内緒だ。


「悪ィ。久々に顔見たらつい」
「…怒ってるんじゃなかったの?」
「なんで。だって応援来てくれたんじゃねぇの?」
「そ、そうなんだけど」


あ、あれ?ってことはさっきの不機嫌そうな顔とか全部、


「ううう恥ずかしい…!全部私の勘違いってこと…!?」


みるみると熱くなる顔を見られたくなくて両手で覆う。恥ずかしすぎる。だってこんなの、ただの自惚れでしかなくて。私が勝手に、きっとどこかで嫉妬してくれたかもと期待していたのだ。思ったよりも私は貪欲らしい。


「…嘘。本当はちょっとヤキモチ妬いた」
「っえ、」
「久々なのに俺よりも先に別の男と楽しそうに喋ってるから。でもどうでもよくなったわ。名前来てくれたし、それで充分」


…ああ、もう。


「試合。絶対勝つから最後まで見てけよ?」


素でそんなこと言う鉄くんは真の女たらしだと思う。







「…本当に勝つなんて」
「天下の音駒様だぞ?」


それもそうだ。うちの男バレは上位常連だ。大体梟谷に持って行かれちゃうらしいけど、そこともしっかり戦えるらしい。今年は全国に行けるかもしれない。行けるといい。彼らの努力が全て報われるよう。


「鉄くん」
「ん?」
「会えない時間が多くなっても我慢する。だから、バレー頑張ってね」
「…名前」
「バレーしてる鉄くんも、凄いかっこよかったよ」


はにかむように笑うと、鉄くんは今までにないくらい目を大きくした後、今までにないくらい目を細めて笑った。
私はやっぱり鉄くんの笑顔が好きだ。会えない時間が長い分、その時間を埋めるようにお互い笑い合えたらいい。
鉄くんとなら何度でも恋に落ちられる気がした。そしてまたキスをしよう、それはきっとこの世にこれ以上ない幸せだ。

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