「あら」
「…名前…」
「こらこら、いつも名前ちゃんって呼びなさいって言ってるでしょ、一ちゃん」


近所に住む一ちゃんは3つ歳下の男の子だ。私には兄が1人もいなかったから、一ちゃんと徹ちゃんのことを本当の弟みたいに思ってる。
3つ違いだと同じなのは小学校までで、気が付くと生活リズムも当たり前に変わって、顔を合わせることもかなり少なくなっていたから今日は本当に久々に顔を見たのだ。


「本当に久しぶりね、大きくなっちゃって。私より10cmは大きいんじゃない?」
「高3なめんなよ。それにこれからも伸びるしな」
「さすがにこれからっていうのは無理があるんじゃなイタタタタ痛いれす一ちゃん」
「んなこと言うのはこの口か?ア?」
「ごめんなさい」


加減なしに両頬を抓られる。痛いを通り越して熱い。
昔からこの子は誰に対しても手加減をしないから困る。仮にも私は女の子だ。


「まだバレー続けてるの?徹ちゃんとは今も同じ学校行ってるの?進路は決めた?あっ、彼女はできた?」
「親戚か」
「親戚みたいなものでしょ、私にとっては一ちゃんも徹ちゃんも本当の弟みたいに思ってるんだから」
「…弟、ね」
「?っわ、」


腕を引っ張られて私の家の敷地内へと逆戻りする。こんな朝早くに塀の裏に隠れると、まるで世界に私たち2人だけが存在しているような気に陥った。

―ふと、髪が顔を掠めた刹那、私の唇に一ちゃんの唇が触れる。


「…!っん、ふ、はじめ、ちゃ」
「うるせぇ。黙ってろ」


何度も。息が苦しくなっても、何度も何度も口付けされる。
後頭部には一ちゃんのゴツゴツと男らしい手が添えられて逃げられない。崩れそうになる腰をもう片方の手で支えられて、私は必死に一ちゃんにしがみつくしかなかった。
その手にも力が入らなくなるとよくやく唇が離れて、至近距離で二人の熱い息が混ざり合う。
なんとなく目を合わせられないでいると、彼が先に口を開いた。


「俺は昔から名前のことしか好きじゃねぇよ。誰が彼女なんか作るかボケ」
「っ、一ちゃん、」
「…何が弟だ、ふざけんなクソ…」


一ちゃんのこんな顔、初めて見た。

だって、そんな。


「スマホ出せ」
「えっ」
「いいから」
「は、はい」


ゆっくりとスマホを操作する。こういうの、昔から徹ちゃんは得意で、一ちゃんは苦手だったっけ、なんてぼんやり考えた。


「俺の連絡先入れといた」
「…?そういえば持ってなかったね」
「だから連絡の一つも取れなかったんだよこっちは」
「ご、ごめん…?」
「…絶対あとで連絡しろよ。しなかったら夜中でも家押しかけっからな」
「する!するからそれは勘弁して…!」


思い出した。昔からこの子は強引なところがあった。
いつの間にか身長も追い抜かれて、力も強くなって。
彼はもう”男の子”ではないのだ。


「…待ってる。じゃあな、気をつけて行ってこいよ」


セットした頭をぐちゃぐちゃに混ぜられて嵐は去った。
どうしよう、次に会うときはどんな顔をすればいいのだ。

いや、今はそんなことを考えている時間はない。はやめの行動をしてよかった。
一ちゃんの温もりが残る体で、今日も会社へ向かう。
いつもとは違う一日が今日も始まる。

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