なんて愚かなミッドナイト

仕事が長引いて早く帰ろうと近道をして路地裏を歩いていたら真横のホストクラブの扉が勢いよく開いて人が飛び出してきた。
「ねぇねぇ、君、カラ松兄さんのお姫様だよね?!」
「え?」
「1名様ご案内野安打ー!!」
「ま、待って・・・!」
手を引っ張られるまま店に入り、そのままソファーに座らせられた。
「カラ松兄さん今接客しててもう少し時間かかるから僕がヘルプしマッスル!いつも何飲んでるのー?」
「私、初めてで・・・!」
私の言葉に男性は猫目になる。
「マ、マジっすか・・・!」
小さく頷くと男性は側に寄ってくんくんと匂いを嗅ぐ。
「でも、カラ松兄さんの匂いするよー。」
首を傾げる男性にお店に入る前から引っかかってる事を尋ねる。
「あの、カラ松兄さんって・・・?」
「カラ松兄さんはここのNo.1ホストっす!」
写真持ってくるねー!と言って男性は席を離れる。
(同じ名前の人なんてこの世に何人もいる、カラ松さんとは限らない・・・)
ぎゅ、と手を握り、私の知るカラ松さんと違っている事を祈る。
けれど、大抵現実は優しくない。
「これがカラ松兄さん!」
彼が指差したホストの写真は私の知るカラ松さんだった。
「・・・あの、ごめんなさい、帰ります。」
そう言って料金を置いて席から立ち上がる。
「今日も俺の元へ戻ってきてくれたんだな、お姫様。」
聞きなれた声につい立ち止まり、声のする方に顔を向けてしまった。
「カラちゃんから離れられるわけないもん。」
腕に抱きつく女性の肩を抱き、カラ松さんはふっ、と笑う。
「俺の愛は君のものさ。」
「今日はたっくさんお金使っちゃおー。」
それ以上見てられなくて走って店を出た。

気づいたら部屋に辿り着いていた。
「・・・。」
ホストクラブでのカラ松さんが頭から離れない、多分、見た事があるから。
『カラ松さん、愛してる。』
そう言えば、カラ松さんはふっと笑ってこう答える。
『俺も愛してる、俺の愛は名前のものだ。』
そう、私と一緒にいる時と同じもの。
(恋人への態度とお客さんへの態度が全く一緒のものになる事ってあるのかな?)
「・・・私、ちゃんと恋人なのかな。」
だって、お客さんが貰うのと同じ愛を貰っている。
でも、聞く勇気なんてない。
ぐるぐるとそんな事を考えていたら時計の針は真夜中を指していた。
それに気付くのと同時に玄関の扉を開ける音が聞こえて部屋から出る。
「ただいま、ハニー。」
「おかえり、ダーリン。」
カラ松さんからのハグを受けとめ、2人でリビングに戻る。
「ねぇ、カラ松さん。」
「どうしたんだ?」
「・・・私、カラ松さんの恋人だよね?」
私の言葉にカラ松さんは目を丸くした後、ふっ、と笑って頬を撫でる。
「当然だろ、名前は俺の可愛いスイートハートさ。」
「そっか、そうだよね。」
「何かあったのか?」
「ううん、ドラマ見てたら感情移入して不安になっちゃったんだ。」
「不安になる必要なんてないさ、俺の愛は名前のものだからな。」
ちゅ、とカラ松さんから触れるだけのキスが落ちてくる。
(ねぇ、そのセリフお客さんにも言ってるんだよね)
なんて聞く勇気もなく、カラ松さんからのキスを受け入れてベッドに2人で倒れこんだ。

カラ松さんからの愛が信用できないなら別れてしまった方がいいのだろう。
けど、別れられないくらいに好きなのだ。
だから、知らないふりをして今日も真夜中に帰ってくる彼を待っている。
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