たぶんきっとまだ、
「初恋は実らない」とよく言うもので、どこぞの企業が行ったアンケート調査によると約8割の人は初恋が実らず終わったという結果がでている。かくいう私も初恋が実らなかった一人である。

初恋の相手、チョロ松くんとは高校時代に知り合った。高校三年間、同じクラスで出席番号が近いことから話すようになり、いつの間にか彼のことが好きになっていた。高校卒業式の日、私は振られる覚悟でチョロ松くんに想いを告げたところ、私以上に顔を真っ赤にしながら「よろしくお願いします!」と手を差し出す彼の姿を今でも覚えている。

お互い大学は違ったものの、休みの日には遊びに出掛けていたし、頻繁に連絡を取り合っていたので寂しくはなかった。大学3年生になり真剣に将来のことを考え始め、周りより早く就職活動を始めたが現実は自分が思っている以上に厳しく、企業から来るのはお祈りメールばかり。周りの友達が次々と内定をもらう中、私は就職先が決まらない焦りと不安が募り、応援してくれる彼に冷たい態度をとってしまった。その後、チョロ松くんと連絡をとることが少なくなり「他に好きな人ができた」と嘘をつき私の方から別れを切り出した。


あれから2年ほど月日が経とうとしている。
チョロ松くんと別れてから、他の男性と付き合ってみたものの、長くは続かなかった。親からは「そろそろ彼氏の一人や二人ぐらい家に連れてきなさい」と言われるが、できないものは仕方がない。そう簡単に彼氏ができるならとっくに紹介してるよ、と大きなため息をつきながら心の中で呟いた。
しかし今はそんなことより、イベントのことで頭がいっぱいである。実は大好きな橋本にゃーちゃんのシークレットライブが奇跡的に当たったのだ。今日はいいことがある気がすると、うきうきしながら家を出た。


「あああ!にゃーちゃん可愛かったなー!」

新曲も聴けたし、新しいグッズも買えたし、いつもより近くでにゃーちゃんを見れたことが嬉しくて人生最高のライブであった。幸せな気分に浸りながら帰ろうとしたところ、目の前に歩いている人のポケットから定期入れらしきものが落ちた。

「あの!これ落としましたよ!」
「あ、ありがとうございます…!」

男性の手には、にゃーちゃんのイラストが描かれた紙袋。きっと私と同じくシークレットライブに参加したファンなのだろう。緑色の定期入れを差し出しながら男性に声をかけると、そこには見覚えのある顔。

「……チョロ松、くん?」
「えっ…名前ちゃん??」

思いがけない人物との再会に、私は持っていた定期入れを落としそうになった。


「まさかあんなところでチョロ松くんに会うとはね」
「僕もびっくりしたよ。まさか名前ちゃんも、にゃーちゃんが好きだったとは」

そう言いながらチョロ松くんはコーヒーを飲む。せっかくだから少し話さない?と私から誘い、近くのスタバァでお茶することになったのだ。久しぶりということもあり最初は緊張したものの、にゃーちゃんの話題をきっかけに自然と会話が弾んでいった。チョロ松くんと話すと波長が合うのか心地がよく、いつまでも一緒にいたいと気持ちになる。ああ、彼みたいな人が彼氏だったらいいのに…なんて叶わない望みを抱きながらケーキを口に運んだ。


「そういえばチョロ松くん彼女いるの?」

ふと思い立ち質問をすると、彼は飲んでいたコーヒーが気管支に入ってしまったのかむせ込んでしまった。まずいことを聞いてしまったかと心配になったが、彼はゴホンゴホンと咳き込みながらも「いないよ」と答えた。

「そういう名前ちゃんはどうなの?」
「私もいないよ」

と答えると、チョロ松くんは意外だと言いたそうな表情でこちらを見てきた。

「名前ちゃん、」
「ん?どうしたの?」
「…僕、振られたけどを名前ちゃんのことまだ好きなんだ。自分でも諦め悪いと思ってる。でも…友達でもいいから、また仲良くしてくれないかな?」

いつかまた振り向いてもらえるように頑張るから、と震える声で彼は手を差し出す。目をぎゅっと瞑り、耳まで真っ赤にして微かに震えている。身勝手に離れた私を、彼はずっと待っていてくれたのだろうか。私はまたこの手を握っていいのだろうか。


「こんな私でよければ、よろしくお願いします」

差し出された手を握り返す。自分でも分かるくらい顔が熱い。きっと、あの日の彼みたいに顔を真っ赤にしているのだろう。チョロ松くんは一瞬驚いて目を見開いたが、すぐにふにゃりと笑い、その笑った顔がとても愛おしいかった。「初恋は実らない」とよく言うものだが、今度は実ることを信じよう。

たぶんきっとまだ、私もあなたのことが好きみたいです。

back

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -