盗人になった気分だった。
これが、悪いコトであるなどわかりきっている。よく理解している。しかし。例え、これからの一生を良心に苛まれて生きることになろうとも。人生を棒に振るうことになろうとも。罪人として酷く責め抜かれる日々を送ることになろうとも。それでも。それでも今目の前にあるこれが。手を伸ばせば手に入れられるこれが。欲しい。欲しいのだ。







「ひっ……う、…ぅ…ッ」



ネロは泣いていた。キツく両目を閉じながら、キツく唇を噛みしめて。露わにされていく素肌に、恐怖していた。怖いのだ。当然だ。彼にとってこの行為は恐怖そのものなのだ。彼の身体を再び暴けば、彼は思い出してしまうだろう。あの時の痛みを。屈辱を。だが、そんなことはさせない。させやしない。この恐怖を知りながら、それでも目の前の男を求めてくれた彼に、そんな思いをさせてなるものか。
揺らめく蝋燭の火に灯された彼の肌は、幾度も汚されたものとは思えないほど白く、麗しく。今から自分のこの手が彼の肌を汚していくのかと考えるだけで、躊躇いと渇望に眩暈を覚える。ダンテはじっとり汗ばんだ掌をシーツで拭ってから、食いしばられたネロの唇を指先で撫で、深く押し包むようにキスをした。



「ん……ッう、ン、」

「ネロ……ネロ。頼む、俺を見ろ」

「あ…、ダンテ…」



ゆっくりと起こされた長い睫毛から、瞳の青を染み込ませた薄い色の雫がポロポロと溢れ出る。瞼は開いていても、ダンテの姿をうまく写せてはいないだろう。
薄く筋肉のついた胸元を撫でながら、ダンテは首筋に唇を落とす。すると彼はまるで痛みから身を守るようにびくりと身体を強張らせた。その反応が愛らしくもあり、痛ましかった。



「ひ……ッ!」

「……ネロ…」

「う…、ぅ、ダンテ…おれ、」

「………」

「嬉しい……すごく、嬉しいよ…」

「………」

「ダンテが好き。ダンテのこと、好きで、好きで堪らない」

「……ネロ」

「なのに、」

「……」

「こ………怖い…ッ」

「…、ああ、ネロ。わかる、わかってるよネロ」

「ぅ…っ、ごめん、おれっ、こ、怖くて…ッ」



とにかく彼を恐怖から遠ざけてあげたくて。首筋に強く吸い付きながら、指先で優しく胸の突起を摘む。あ、と細く鳴きながらシーツを握る彼の手をそっと持ち上げ、自分の首元に回した。



「嫌だったら、必ず言ってくれ。直ぐに止めるから。我慢はしないでくれ」

「う、んッ……ン、や……止めな、いで、止めないでっ」

「…ああ、ああ。ありがとう、ネロ」



白い首筋、胸元に赤い証を刻み、指先の愛撫でピンと尖った胸の突起に舌を押し付け、強く吸い上げた。途端に彼の肢体が大きく跳ね上がる。そんな過敏な反応を恥じるように、ネロは再び瞼を塞ぎ、ダンテの首に回した腕に力を入れた。
我慢をするなと言ったのに、とネロの強情に心の中で溜め息をつきながら、ダンテは胸への愛撫を執拗に続けた。どんなに時間を要してもいい。いっそ呆れられてもいい。彼が催促せずにはいられないほど焦らして。優しく、優しく彼を愛して。自分だけを感じてほしい。今までの記憶を全て押し潰して、彼のハジメテを自分にしてしまえばいい。ダンテは舌と指先で粘着にネロの胸を弄びながら、色付き始めたネロの吐息に心を弾ませた。



「あ……あ、アッ、ぁ、だん、て」

「んー?どうした?」

「や、そこ…も、きもひ、ぃ」

「気持ちいいのか?ココが?」

「ンあッ!あッダンテ、ダンテとっ、したいっ!も、早く、シたいよッ!」

「ああ、わかった、わかったよ。ちゃんと解してからな。あんまり煽らないでくれよ?」

「んん…ンッ、ダンテぇ、は、早く…」



もどかしい快楽にかわいらしく内股を擦り合わせるネロ。煽っているとしか言いようのない動作に、ダンテは溢れる生唾で喉を上下させながらなんとか理性の糸を繋ぎとめていた。
驚かせないように優しくネロの起立を掌で包みながら、ゆっくりと両脚を開かせ腰を持ち上げる。露わにされる秘部に恥じらったのは一瞬で、次のダンテの行動にネロは驚愕に悲鳴を上げた。ダンテが自分の秘部に口をつけていたのだ。



「だ…ダンテ!?なにして…ッ!」

「なにって、解すって言ったじゃねぇか」

「バカっそんなこと…し、しなくていいって!!」

「ヤダ。俺がしたいんだよ」

「やッ……!ン、ぅッ」



きゅっと締まった蕾を湿らせながら、徐々に舌を埋めていく。キツく閉じた入り口とは反してネロの胎内はとろりと柔らかく、挿入された舌を迎え入れるように押し包んだ。堪らず食い尽くように舐めまわし、同時にビクビクと快感に震えるネロの起立を少し強めに扱き立てた。甘い嬌声を吐き出しながら、赤くなった先端が真っ白な欲望を放つ。腹に散った精を舐めとりながらネロの腹筋を舌でなぞり、鬱血痕を刻んだ。果てたばかりのネロ自身を更に激しく擦り上げ、解れた後孔に指を埋める。急に激しさを増した男の愛撫に、ネロは困惑する間もなく乱れ喘いだ。



「ひゃ、あンっ、ン!アッ!らんてッ、やめひぇ、も、きもちっ、きもち、ひッ!」

「ネロ、ネロッ、ここがいいか?」

「ああアッ!ああっ!ダンてっ、ダンテッ!」



理性の糸がいつ切れてしまったのか。気付く余裕もなく。優しくしてあげたいとか、自分を刻みたいとか、そんな思いなど脳の隅に追いやられ。ただ彼の乱れる姿が見たい。ただ彼の感じる声が聞きたい。ただそんな貪欲な衝動のままに彼を攻めることに夢中になっていた。
指を三本呑み込んだ後孔からくちゃくちゃと粘液が滴り、既に二度達した自身は絶え間なく快楽の蜜を溢れさせる。散々体液を絡め合って、まっさらだった彼の肌とシーツを汚していく。
繋がる瞬間は、特別なものにしようと思っていた。痛みなど一切感じさせないように。見つめ合って、名を呼び合って、お互いの愛に頷き合って、深くキスをしながら、深く深く繋がり合いたいと思っていた。しかしそんな特別な瞬間は、お互いに意識もはっきりしないまま訪れてしまう。ダンテはネロの両脚を肩に担ぎ上げしっかり腰を掴むと、真っ赤に充血した自身をネロの了承も待たずに彼の胎内へと埋め込んでいた。



「ふああぁアッ!あア、あッ!」

「ッ……!!くっ……っ!」



散々慣らした甲斐あってかネロが痛みを感じている様子はなく。この瞬間を逡巡するのではないかとも思っていたが、ネロが怯えている様子もない。むしろ、自分を貫く男の熱を、更に奥へと誘うように小さく腰を揺らめかせた。


きっと怖いものだと思っていた。痛くて恐ろしいものだと思っていた。しかし、何故怖がる必要があるのだろうか。何故、この痛みに怯える必要があるのだろうか。恐怖以上に、痛み以上に、こんなにも温かいものを与えてくれる男に。人形ではない、王でもない、自分を愛してくれている彼に。



「あ…、アッ、だ、ダンテ…っ」

「……ネロ?」

「あ、ありが……とう、ダンテ」

「っ…、ああ、こちらこそ、ネロ」



見つめ合って、名を呼び合って、お互いの愛に頷き合って。
これ以上など、なかった。
深く唇を交えながら、自分しか許されない、自分にしか触れることのできない彼の胎内深くへと。熱く膨れ上がった熱を押し進めた。



「あ゙ッ……!!あ、あ、あッ…!」

「ネ、ロ…、動くぞ…っ」



柔らかく溶けたネロの胎内を一度上下させてしまえばもう、止まることはできなかった。ゆっくりとネロの快楽の場所を探してあげようと考えなくもなかったが。何にしても、余裕がなかったのだ。
乱暴にネロの腕を掴んで引き寄せ、強く抱き締めながら下から激しく突き上げる。ネロは懸命に男にしがみつきながら、大きく揺すられる身体を預けていた。



「ひ、ああッあッ!き、キテっ、らんて、ナカ、きてるッ!」

「はっ、はっ、ネロッ、ネロ」

「ダンテッ、出してっ…!せーし、だして、おれ、ナカっ…キレイに、してッ!」

「ッ…!ああっ…!ネロッ!!」

「んあああ…、あ…ッ、あッ!」



擦り上げる度に結合部から精が溢れる程、ネロの胎内を自分の欲望で浸し潤し続けた。ネロも自身の吐き出す精が色を無くすまで、声が枯れるまで、ダンテに縋りつき続けた。


窓から朝陽が差し込む中。隣には天使を彷彿させずにはいられない寝顔を見せる愛しい子。真珠のようなネロの肌に浮かぶ鬱血痕を撫で、ダンテは静かに瞼を閉じる。廷臣がネロを起こしにくる時間には、自分はこの部屋を出なければならない。今この瞬間に、ネロに伝えたい言葉が山ほどあるのに。もう何処の誰にも触れさせたくないこの子を一人置き去りにして、何食わぬ顔で職務に就かなければならない。
堪えられるか、否か。


なんと言うか、もう自分は間違った選択をする自信しかない。
泣き腫らしたネロの瞼にキスを落としながら、ダンテはまた選択の時を迫られていた。









next.



(15/0108)

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