そう思っていたのは僕だけで、君は相も変わらずに









浮気癖と言われればそれはそれで心外だが。1人に執着しない俺がこの坊やを恋人と言う枠で囲った理由を聞かれれば、それはまあ、多くの利点があったからだった。この坊やを初めて押し倒した時の心境を聞かれれば、まあそれは、ただその気になったからだった。


恋人関係になってからは坊やの本領発揮である。生意気な小僧でしかなかった坊やは、誰もが羨むほどよく働く若い嫁だった。小うるさいところが玉に瑕だが、それをひっくるめてもかわいいのだ。
当然、夜の方も相当で。顔は悪くないどころか半端でなく小綺麗な部類に入る。なにより生粋のチェリー。初めて味わう快楽に乱れる姿は、笑えないほど色っぽかった。普段はキャンキャン煩い子猫が、ベッドの上では発情した豹に変貌するのだ。ギャップ萌と言う単語が一時期蔓延った理由をこの時漸く理解した。なにより坊やは体力がある。それに若い。多少酷使しても許される。女より体力があると言っても、残念ながら俺の足下には及ばず。やりたい放題と言うわけにはいかないが、まあ女よりはずっと長く楽しめる。オマケに乱暴に扱っても文句の一つも言わず、懸命によがってくれるのだ。これが一番大きいかもしれない。


女とヤルには、その気にさせるための雰囲気造りと、使い回しではない口説き文句と、酒と、避妊具が必要だ。あれだってタダじゃない。その点、坊や相手ならば何を用いることもない。どれだけ頑張ろうとも妊娠などするはずないのだから、避妊具など不必要。坊やの場合は妊娠云々ではなく、不衛生だからと言う理由で推奨しているのだろうが。生憎、不衛生だなんて思ったこともない。まあ、坊やの立場から言っているのだとしても、それは無視しよう。
そんな俺に痺れを切らしたか、先日坊やが震える指で避妊具を突きつけながら「頼むから付けてくれ!」と懇願したことがあった。流石に驚いた。コイツの性格上、コレを購入するのがどれだけ恥ずかしかったか。店先で顔を真っ赤にして佇む彼を想像しただけで、カッと愛しさが込み上げて、有らん限りの力で坊やを抱き締めた。「つける!絶対に付けるよ!」と豪語して。物は何であれかわいい坊やからのプレゼントだ。嬉しくないはずがない。………結局付けなかったが。
男である坊やを恋人にしておく利点を上げれば、そんなところだろう。


利点があれば、当然難点もある。
それは期限だ。俺たちはいつまでもこのままではいられない。


子どもの彼は、あっという間に成長する。そして、今は“おっさん”で済んでいる俺だって、坊やより圧倒的に早くジジイになる。俺が老いていく度に坊やは男盛りになって、瞬きをするだけで女を魅了してしまう美丈夫になるだろう。この坊やが女の誘惑に負けて、女を抱ける悦びを知ってしまったらもう最後だ。なんで俺はこんなおっさんと付き合ってるんだ?と怖ろしいほどの至理至論を突きつけられれば、流石に対処の仕様がない。それがなくとも、十年後、二十年後のことを思えば、確実に俺は落ち着きたい盛りになって、坊やは励みたい盛りになる。俺たちがいつまでも関係を保っていられないことくらい、目に見えているのだ。



「おっさん、オイおっさん。ただいまっつってんだろ!」

「お、ああ悪い。お帰り」

「なんだよ、ぼーっとしやがって」



だから、もう、そろそろ。恋人と言う関係に目処をつけて、大人と子ども、保護者と未成年と言う関係に落ち着いた方が互いのためかも知れない。既に手を出してしまっている以上、なかったことにはできないが。それでも若かりし頃の過ち、遠い思い出にすることはできるだろう。
最近は、そんなことばかりを考えるようになった。確かに坊やはかわいい。目に入れても痛くないほどには。手放すのは正直惜しい。しかし恋人としての愛情を、そのまま親としての愛情にすり替えればいいだけの話だ。いつか俺のもとを巣立つその日まで、と言うヤツだ。それならばまだ耐えられる。それは親として喜ばしい瞬間であるはず、だ。



「おっさん、ほら、コレ」

「ん?なんだ?」

「やるよ」

「?」



近所の薬局の紙袋を突き出される。お使いを頼んだ覚えはない。またコンドームかと思いながら袋を開けると、中から出てきたのは………精力剤だった。
ネロの顔を見上げる。幼い顔付きでありながら、内に秘める大人の色気を滲ませる表情。
思わず喉が鳴った。



「こ、れは?」

「アンタ最近、なんか元気ないから」

「そう…、か?」

「なんか余計なこと考えてんだろ」

「いや、そんなことは……」

「マジで枯れたのか?」

「ま、まさか」

「別にいいぜ?勃たなくなっても勃たせてやるから。不能になったら隠さず言ってくれよ」

「………………」

「元気出せよ。もう俺に介護させる気か?まだ早いだろ?」



ツンと、鼻孔に針を刺されたような痛みが走った。目頭が半端ではない熱を帯びる。まずい。本気で目から汗が出そうになった。アレだ。もう年だ。涙腺が弱っているのだろう。仕方がない。片手で目許を覆って、溜め息を一つ。うん、と誰に向けるでもなく頷く。ここまでは理性があった。次の行動はもうただの衝動で。突進の勢いが如く坊やに飛びついて、有らん限りの力で抱き締めていた。



「っい゙ででででで!!痛ぇッ!クソ離せ、せ、背骨折れるだろうが畜生ッ!!」

「ネロ!悪かった!お前の愛を少しでも疑った俺を許してくれ!!」

「何言ってんだよおっさん!昼間っから酔ってやがんのか、ああ!?」

「お前は俺の可愛いガキで、愛しい伴侶で、大切な家族だ!!一生離さねえぞ!!」

「わかったからとにかく今は離せぇぇ!!」



その場でかわいいネロからのプレゼントを飲み干して、いつも以上に濃密な時間を過ごしたのは言うまでもなく。
翌日ベッドに突っ伏すネロの腰を撫でながら、こんな風に、ネロに介護をしてもらう日を思い浮かべて笑みを零した。



「優しくしてくれよ?愛しのMyHoney」

「アンタが言うなッ」









end.


(17/0929)

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