ヨウ/妹
「先輩、今日はこのくらいにしておきませんか?」
今日はあとどのくらいサーブを打っていこう、大会近いしもうちょっとかな…なんて思ってボールを拾った所で後ろからよく知ってる透き通る声が聞こえた。
「…麻衣ちゃん」
「これ以上続けると先輩に負荷がかかるラインです。だから、今日は切り上げて一緒に帰りましょう?」
「気づいて…たんだね」
「先輩のことですから、分かります」
ああ、キミはこうやって俺を見ててくれるよね。
それがとても嬉しいと思うのは場違いな思いだろうか?
「不安なんだ、練習してないと」
だからつい口に出てしまうんだ、ほんの少しの弱音だって。
「怖いんだよ、体動かしてないとね」
「いつもの俺じゃないみたいで笑っちゃうでしょ?」なんて苦笑混じりに言えば、キミは俺のことを真っ直ぐ見て「笑いませんよ」と返した。
「先輩、岩泉先輩も言ってましたが、先輩は一人じゃないんですよ」
「麻衣ちゃん…」
「先輩はすごい選手だと私は思ってます。でも、だからって一人じゃないんです。一人で気を張って…頑張ることないんですよ」
「……」
「青城っていうチームが強いこと先輩だって、先輩が一番知ってますよね?だったらみんなで、チームで頑張っていきませんか?」
「……」
「だから、大丈夫ですよ、先輩」
そう微笑んだキミに俺は今日も見惚れて。
キミの紡ぐ言葉はいつだってそう、眩しくて。でも陽だまりのようで暖かくて好きなんだよ。
そして、一人じゃないというこの事実が今日もまた俺を強くさせてくれた。忘れかけたらキミがこうやって必ず思い出させてくれたよね。
「…うん、そうだったね。ありがとう、麻衣ちゃん」
だからまた明日からこのチームで頑張ろうと思えた。
…ああ、今なら誰にも負ける気はしないな、俄然無敵な気分。
中学の時から俺を支えてくれた彼女のことを、高校で、今年こそは全国の舞台に連れて行きたいと思う。一緒に行きたいと思う。毎年思ってることだけど、特に今年は俺達にとって最後の年だから。今まで支えてくれた彼女に届けたいんだ、全国行きの切符を。
「…一緒に、行こうね。全国!」
「はい!」
【青葉は太陽に照らされて】
―何度だって立ち上がる、その切符を届けるために。
※HQより及川さんSSを。多分普段お姉ちゃんは岩泉先輩とか国見ちゃんと仲が良いと思われますが、及川さんのことは常に気にかけていて。この二人の距離感が絶妙で愛おしい今日この頃です。HQ熱い…!!
政美/姉
気が付けばそこは、見慣れた自分の家の天井ではなく、高く、白く、でも少しだけ汚れた天井で。
そこが学校の保健室で、ベッドの上だと気付くのに数秒を要した。
「あ、起きたか?大丈夫か、陽子」
情けないと思う。そうだ、私さっき部活中に倒れたんだった。
菅原先輩の優しい声が隣から聞こえてきて。「すみません先輩。もう大丈夫です」と答えようと体を横向きにしたところで、私は言葉に詰まって思わず体が固まってしまった。
「だから無理しすぎだって言っただろ?俺には全部お見通しなんだからな。選手だけじゃなくてマネージャーのことだってしっかり見てるつもりだし」
そう言って笑う菅原先輩は、何故か私に寄り添って寝ていて。
此処が保健室であると気付くのに要した数秒間よりも遥かに多くの時間、私は事態の収拾作業に追われることになった。
「保健室の先生がいなくて心配でな。あ、でも大地にはこのことは内緒な?“お前は保護者か!”ってまた怒られそうだから」
「は…はい…」
添い寝?先輩が?何故?ここで?学校の?保健室で?
えっと、これは…
「それと。俺にまた保健室まで運ばれたくなかったら、今後一切無理はしないこと。いいな?」
「はい…」
「うん、よろしい」
そう言って笑いながらいつものように頭を撫でてくれる先輩の冷たい手が気持ち良くて。
色々と頭の中で整理しなきゃならないことは山のようにあるのに、よほど体力の限界だったのか、眠気に襲われて私の瞼は意に反してまた重くなってくる。もう、こんな時に…
「もう少し寝てろ。な?」
「はい…」
私が覚えているのはそこまで。でも眠りに落ちる直前、ふと先輩が呟いた気がした。
でも多分、気のせい。先輩の優しい声と頭を撫でてくれる感触だけが、私を心地良い眠りへと誘ってくれた、夕暮れの記憶。
“少しは意識してくれよ、なんて。
…今はまだ無理だよな。”
《夕暮れの眠り姫》
※実は菅陽も熱いんです\(^q^)/!!個人的にスガさんと影山はセッターとしてだけではなく、妹をめぐって競い合う仲だと超萌える。あと、何だかんだで保護者枠は大地さんなんじゃ?…ってツッコミは全力で拒否しますw
政美/姉
“珍しいな、お前がそんな顔すんの”
クロのその一言で、ずっと見つめていた対象からやっと目を逸らした。
「別に。何のこと?」
「鳥野のチビちゃんがさっきからずっと陽子と話してる。それが気になるんだろ?」
「は?何それ。別に気にしてないし」
「いーや、気にしてる」
「気にしてない」
「気にしてる」
「気にしてない」
「気にしてる」
「気にしてない」
繰り返されるこのやりとりはいつものことで。いつもと違うのは、今は合宿中で鳥野の他にも生川とか梟谷とか森然の人たちが此処にいて。一緒に同じ場所で同じ時間を過ごしてるってこと。
翔陽は、初めて陽子を見た時から目を輝かせていた。理由は、何となくだけど分かる。
「気にしてる」
「気にしてない」
陽子は人を惹きつける力…みたいなものがある。キラキラとした星みたいで、手を伸ばしても簡単には手が届かない、そういう、言っちゃえば尊い光…みたいなやつ。月、かな。
だから陽子と一緒にいれば当然目立つし、それだけは絶対に嫌だった。絶対に嫌だった…はずなのに。
「陽子」
気が付けば、隣に立つことがクリア条件みたいになったこのゲームに参加して、日々四苦八苦しながらクリアを目指す自分がいる。けれど、それをちょっとだけ楽しいって思う自分もいる。何だか、不思議な感覚。
翔陽もきっと、同じゲームに参加してるんだと思う。クロの変な攻撃から逃れてやっと陽子に声をかけたと思ったら…
「あ、研磨くん。ごめんね、今行くね!」
「別に焦らなくてもいいよ」
「それじゃあ日向くん、また後でね」
また後で…?そんな聞きたくもない台詞を聞かされて、また少しだけイライラした。毎日これの繰り返し。でも…
クリア出来そうにないくせに、イライラするくせに…
「今日もお疲れ様、研磨くん」
こうやって陽子がまた笑顔を見せるから。だから今日もまた、俺は陽子にトスをする。
勿論、陽子は全然気付いてないからそのトスは毎日空ぶるばかりだけど。まぁ、バレーでトスを上げるのとはワケが違うし。とりあえずリエーフは別として。
「…あ、うん。陽子もお疲れ様。マネの仕事大変でしょ」
「大丈夫だよ。研磨くんが試合してる所を見てると何だか元気出るし!」
「…そう」
でも、これだけは知ってる。試合中、たまに陽子と目が合うこと。
キラキラな陽子の隣に立てば絶対に目立つ。それだけは嫌だった。目立つのは絶対に嫌だった…はずなのに。
「明日も勝つし」
「うん!応援してるね!」
「うん」
それでも今は、どうしようもなく。
どうしようもなく陽子の隣は誰にも…
「だからちゃんと見てて」
誰にも譲りたくないんだ。
《Raise the level of love》
ー“脳”は只今恋のレベル上げ、真っ最中。
※音駒尊い…!妹と研磨のこの関係も研磨にとっては1つ1つクリアしていくべき過程で。そんな日常の一コマが愛おしい。HQ熱いぜ…!!
政美/姉
二人きりの昼下がり。誰も知らない場所。午前中の授業が終わるといつも陽子と二人、此処に来る。此処で二人でお弁当を食べる為。
此処は人が来ないから、落ち着く。
「…あ」
「研磨くんどうしたの?LINE?」
「…うん、リエーフから。借したゲームを返しに教室まで来たらしいけど、いないから今何処にいるのって」
「帰ろうか?教室」
「いいよ、面倒くさい」
「でも…」
「どうせ部活で会うんだし。それに…今動きたくない」
空になったお弁当箱を置いて、俺がスマホを利き手に持ち替えると「食べたばっかりだしね」と陽子は笑った。
やっぱり、気付いてない。
「え…と、そういう意味じゃないんだけど」
「…?」
「別に。何でもない。いいや、今はまだ」
「…え?」
「今はまだ…クリア出来そうにないから」
「?」
「じゃあ、お昼休みが終わるまでまだ少し時間あるから…のんびりしようか」
そう言って陽子はお弁当箱の包みに手を伸ばす。
リエーフのLINEは、もう既読無視でいいかな…なんて思ったけど、陽子が「一応、一言だけでも」って言うから、面倒だけど「部活の時でいい」ってだけ返信してスマホを投げた。
「てか、眠い」
「…少しなら寝る時間もあるよ?研磨くん、寝る?」
時計を見ながら、お弁当箱を包み終えた陽子が言うから。だから今日もちょっとだけ距離をつめることにした。
いつも、こんな感じ。
「じゃあ寝ようかな」
「うん」
「借りるから」
「…え?」
「…膝」
「?!」
「だって空いてるし」
「で、でも…」
「おやすみ」
「え?あ、う、うん…」
陽子の膝の上に頭を乗せたら、何だか少しだけ頭がフワフワ、クラクラして。きっと陽子から香る花みたいな甘い香りのせいだ。
最初は絶対にクリア出来ないと思ってた。だからきっと好きになった。きっと理由はそれだけじゃないけれど。でも、今はもう理由なんてどうでもいいと思った。
「あったかい…」
「え?」
「膝も、今日の天気も、全部」
だから今日も少しだけ近付く。少しだけ距離をつめる。きっといつかはクリアする。けど、クリアする過程がこんなにも楽しいなんて思ったのは…初めてだ。
甘い香りが心地良くて目を閉じる。陽子は遠慮がちに髪を撫でてくれた。何だか本当のネコになった気分だ。
でもまぁ、いっか。今はネコでも。
…今だけは。
「おやすみ陽子」
「おやすみ、研磨くん」
《いつかクリアする、その時まで》
※言わずもがなHQより音駒の研磨SS。もう最近妹と研磨を妄想するのが日課で萌え補給。ジャンルごちゃ混ぜだけど、小ネタだからね…!!多分今後もHQはUP予定…(笑)
ヨウ/妹
「お姉ちゃん大変!!」
「…どうしたの?突然」
「これ、これ見て!今マキちゃんやみゆみゆがいるグループがここのカラオケの機種とタイアップしててね!歌うと特典がもらえるし!何よりPVが!!歌うだけで流れるんだよ!?しかも全曲!!!魅入っちゃって歌えないよね!?」
「(あ、スイッチ入った)‥あれ?高尾くんからLINEきてる…まさか…」
『そっち大丈夫?こっちは宮地さんのテンションがやべぇ。朝練から今日ずっとニコニコしてて時々ピリピリもしてるし怖ぇんだけど!!』
『陽子も暴走してるよ…』
『もしかしなくても…アイドル関係?』
『うん、すごい剣幕だった…これは今日帰りにカラオケかな?今日私達は丁度体育館の整備で部活休みなんだ』
『! それ俺らも!すげぇ偶然!!じゃあまた4人で今日行く?』
『むしろ今日行かないと私達のライフが持たないよね(笑)よし、今日行こう!』
『じゃあ迎えに行くからそっちの校門で待ち合わせよーぜ!宮地さん喜ぶわー』
『せっかくのコラボ?だもんね』
『いや、それもあるけど。それだけじゃなくて…』
『?』
『やーでも、俺も先輩に譲れないとこあるし?』
『え?』
『なーんてな!俺も楽しみだし一緒に楽しもうぜ!じゃあまた放課後に!』
「どうしたのお姉ちゃん、首かしげて?」
「ううん、何も…多分、うん。あ、今日ね、宮地先輩と高尾くんも一緒にカラオケどう?」
「っ!もちろん!!」
※ちょうど好きな二次アイドルがコラボやってるのでこんなネタを(笑)ドルオタ二人に振り回される苦労人のお二人です(笑)
政美/姉
「結婚してもイニシャルはそのままだね」
「…うん(笑)でも、テツヤくん、ちょっと嬉しそう?」
「これで少しは火神くんの気も収まるかなって。ほら、お義父さんよりも火神くんの方が問題だったから」
「あはは(笑)」
凄く凄く手こずった結婚のお許しも、何より君の笑顔を一番側で見る為ならば…と、そう思えば少しも苦ではなかった。
火神くんは「一度でも陽子姉を泣かせたらお前マジでブッ殺すからな」なんて言っていたけれど、本当は凄く嬉しかったんだ。誰からも愛される君を、僕色に染める権利の一つを僕は手にしたのだから。
「それでもやっぱり嬉しいよ。陽子は…今日から僕と同じ名前なんだって」
「テツヤくん…」
だから…
「改めて宜しくお願いします。僕の…僕だけの可愛い可愛い奥さん」
「はい。私の、世界一素敵な素敵な旦那さん」
「何だか…くすぐったいね(笑)」
約束するよ。
君を世界一、幸せな奥さんにするって。
《Hello, my wife》
※黒子ルート、その後のお話。また某アプリより閃いた妄想ダム決壊の結果。妹である陽子が黒子っちの元へ嫁ぐと思うと…感無量過ぎて泣けます…!!
政美/姉
“おはよう、ヨーコ”
『!』
「…?」
『ど、どうしてタツヤが誠凛に…!…っというか何故私の席の隣に?!』
「ハハッ、さてはまだ寝ぼけてるな?ここは誠凛じゃなくて陽泉だよ(笑)」
『?!?!?!』
ーバッ!!!!!
『…ゆ、夢?何とリアルな…』
ー。
『着信…誰だろ…?』
ー着信 : 氷室辰也
『?!?!?!』
「おお!陽子起きてたか!おはよう!もう大我は起きて…」
『お兄ちゃん、とりあえずそのTシャツ止めてよぉ!』
「そうか?これ気に入ってるんだが…。それより電話、いいのか?」
『…え?』
「それ、陽泉の氷室だろ?早く出た方がいいぞ〜(笑)」
『?!?!?!』
変わりない火神家の朝。こうして今日も私の一日が始まりました。
ちなみにタツヤからの電話は、まだ起きていないと思った私へのモーニングコールだったようで。慌てて出たら笑いながら「今日は早かったんだね、良い夢でも見れたのかい?」なんて言うものだから、思わず咳き込んでしまいました。
ほんの些細な日常が幸せなんだって、そう感じる始まりの朝でした。
《ほんの些細な日常の幸せ》
※時期未定の突発日常風景。氷室兄さんからのモーニングコールとか…!!妹と氷室兄さんのカップリングに萌えて仕方ない日々(笑)
政美/姉
君と付き合って一年。君の卒業式。君はまた、僕の先を歩く。
「追いかけても追いかけても、やっぱり君は先に行くんだね」
「でも、テツヤくんは追いかけてくれるし。それに私、どこにも行ったりしないよ?」
そう言った彼女を抱き寄せて、僕は少しだけ僕なりの我儘と本音を君にぶつけるんだ。
「分かってるけど、やっぱり少し寂しいってこと。分からない?」
「!」
「今までは会いたい時にはいつだって会えたし、何よりバスケ部にもういないって考えると…」
「大丈夫。テツヤくんなら、大丈夫だよ」
「…」
「それにテツヤくん、いつからそんなに寂しがり屋さんになったの?」
「僕は…」
「…?」
「君を好きになったあの時からずっと…」
「?」
「桜の花びらが舞う入学式で出会ったあの時からずっと。君がいないと…陽子がいないとずっと寂しかったよ」
「!」
「…あ、顔が赤くなった」
顔が真っ赤になった君は、ふざけるようにして僕の髪をわしゃわしゃと撫で回す。君らしい照れ隠し。
「もう!テツヤくんってば!」
「く、くすぐったいよ!」
どんな時も君を追いかけて君の側にいるよ。
だって君は、僕の光なんだから。
《覚醒した気持ちは君の側で》
※黒子×陽子ルートのその後のストーリー。卒業式ってやっぱり切ない。
しかし何でこの話かって、某アプリで黒子の中の人の「くすぐったいよ」という敬語なしの台詞に激萌えしたからです(笑)
ヨウ/妹
「黄瀬くん、もう少し頑張ろ?」
早くも勉強会に飽きてきた黄瀬くんに一言かけて思い出す。
この言葉は、今までだって言ってきた。
『祥吾、ほらもう少しだから頑張ろ?』
『チッ…ったく、しょうがねぇな…』
内心、思い出すのはそんなやり取りで。
「…麻衣っち?」
「ああ、ごめんね、なんでもないの!」
最初は無理矢理にでも押し込んだあの時の思い出。
祥吾はちゃんと勉強しているのだろうか、一人でも大丈夫だろうか。
頭に巡る想いは尽きることなく、今も私の心の中にある。
※目の前の光景、やり取り、ちょっとしたことで灰崎のことを思い出す麻衣。まだまだ熱いです帝光灰崎×麻衣…!!
政美/姉
目が覚めるとそこは見慣れたマンションの一室で。
枕の代わりに回された腕の感触が心地良い昼下がり。きっと太陽が昇ってから大分経つけれど、まだ起きる気配のない彼の寝息を聞きながら過ごすこの時間。カーテンの隙間から差し込む日差しがとても暖かい。
「…」
タツヤの前髪をそっと撫でると、少しだけ身じろぎをしてまた寝息を立て始める。
長い睫毛に目元のホクロ。昔からずっと好きだった彼の柔らかな黒髪は私の指を緩やかにすり抜けていく。
「髪、サラサラだぁ…」
そうして暫く髪を撫でていると、掠れた声が急に聞こえて思いきり心臓が跳ねた。
「コ…」
「…タツヤ?」
「ヨー…コ…」
「!」
それが寝言だと分かっていても、声を聞くだけで、そして名前を呼ばれるだけで鼓動が早くなるのは一体いつからだったかなぁ、なんて。
初恋なんて叶わない…誰かが言ったそれを真に受けて、そう思い開いた距離を切なく感じたこともある。
「タツヤ…」
それでも、離れても。再会した時からずっとずっと忘れられなった想いは満ち、溢れ、そして再び触れた指先と心が音を立てて“彼が好き”と認識するまでそう時間はかからなかったと、そう思うんだ。
ージャラ…
髪を撫でていたら、タツヤが首から下げていた兄弟のリングが小さく音を立てて向きを変えた。
チェーンも大分年期が入っているそれは、幼い頃から大我とタツヤが二人でしているもの。指先で触れると、シルバー特有の傷が見てとれた。
「兄弟の証…か」
幼い大我が笑顔で帰ってきたその日を私は今でも覚えてる。
(タツヤに貰ったんだ!これ、兄弟の証だって!タツヤは俺の兄貴だって!)
そう言って目を輝かせながら笑顔で帰ってきた弟が本当に可愛かった。
そしてそれと同時に思ったのは、タツヤはやっぱりお兄さんなんだって、私と同い年なのにおかしいけれど、そう思わずにはいられなかったんだ。
「変わらないね、あの頃から…」
優しくて、面倒見が良くて、人一倍努力家で。「頭は冷静に心は熱く。負けず嫌いであれってこと」なんて言った言葉のまま、彼は今でも大我とバスケを楽しんでる。
兄弟の絆は変わらない。二人がかけるリングも変わらない。変わったのは…
「これでも少しは成長したと思ってたんだけどなぁ…」
「!」
「…俺の寝顔は面白い?」
「タ、タツヤ!一体いつから起きて…」
「ついさっきだよ。ヨーコが撫でてくれるのが気持ち良くてね、つい」
「!」
変わったのは、私達二人のこの距離と、見つめ合った後に交わされるキスの行方。
ゆっくりと唇は重なって、タツヤと目が合えばその瞳には私が映ってる。
「おはよう、ヨーコ」
「おはよう、タツヤ」
いつだって隣にいてくれるこの距離が何より変わった大切なこと、なんだよね。
誰かが言った初恋は叶わない…なんて言葉、今はもう信じない、もう信じないよ。ねぇ、タツヤ。
「朝ごはんの支度するね。タツヤ、腕離して…?」
「いいから、もう少しだけ」
「タツヤ」
「…だって、ヨーコは俺のワガママなら聞いてくれるだろ?right?」
「仕方ないなぁ」
初めて好きになったMy darling。変わらない想いは昼の日差しが少しずつ、少しずつ淡く照らして指し示す。
それはあの頃から少しも変わらない私達の、真っ直ぐな想い、道標。
「もう少しだけだよ?」
《First Loveの道標》
※本編、IF氷室落ちエンディングのその後のストーリー。私的イチオシCP。初恋CPの破壊力は半端ないです。