ぱら、ぱさり。


嗅ぎ慣れた古い紙とインクの匂いと本を捲る音。

新しく購入する本のリストのチェックと棚の整理が一段落した頃には既に日はかなり傾いていて、窓から差し込む橙色が広い図書館のアンティーク調の床に影を落としていた。
気付いたガイは目の疲れを感じ、長時間掛けていた細身の眼鏡を外して休憩する事にした。

各国から生徒が集まるこの学園の設備は外観以上に完備されていて、膨大な数の書物を擁するガイがいるこの図書館もかなりの広さで整理点検をしようものなら1日かけたって到底終わらない。
だがガイはこういう地道な作業も黙々とやれてしまうタイプなようで、気付けば没頭してこんな時間になるまで作業をしていた。そう言えばいつも聞こえている下のグラウンドの運動部の声がいつの間にかしなくなっている。



そこまで思い至ると休憩して司書室でコーヒーを入れていたガイは、そろそろ来る時間だな、と壁に掛けられた時計を上目に見た。


口を離してカップをデスクに置く。
と、



「ガーイィィィー!!」


来た。

計ったようなタイミングにガイは心中でため息を付きつつ、エナメルのスポーツバックを下げて走って来た幼なじみの赤毛の少年を見る。



「お前な、図書館では走るなってあれほど言ったろ。あとガイじゃない。今はガイラルディア先生だ」

「なーなーガイ!今日の俺の天才的なシュート見てくれたか!?」

「聞けよ…。シュート?…ああ、あの……。」


確か何日か前に何時ものようにここに来て、サッカー部のレギュラー決定戦があるとか何とか騒いでいた気がする。
点入れてレギュラーになれたらご褒美くれとしつこかったので、適当に分かったと言って約束した覚えがある。

言われたのを思い出して仕事の合間に窓からグラウンドを覗いたら、ほぼひとりでかなり大胆なゴールを決めていた。決めてすぐに図書館棟にぶんぶん手を振られたので、窓越しに苦笑気味に振り返した。(こいつ頑張ってるもんな)



「だいぶ強引なパス回しで味方が困ってるように見えたけどな」

「え、そうか?」

「で、レギュラー入りはどうなったんだ?」

「もちろんなったぜ!2年生で俺ひとり!!」

「おお!凄いじゃないか」


ガイは素直に驚いて、やったなと弟分のようなルークの頭を軽く撫でた。
屈託なく笑うルークに約束のご褒美に何か飯でも奢ってやろうと考えていると、にこにこしたままルークが言い放った言葉に盛大に固まる。




「ちゅーして、ガイ」

「………え、」

「俺ご褒美ガイのキスがいい」


平然と繰り返すルークにガイはがくりと項垂れた。
購買の一番美味い飯奢って、だとかそういうものを予想していただけにこの流れに追い付けない。



「キス、なんて聞いてないぞ!ルークはご褒美としか言わなかっただろ」

「ご褒美って普通そういうもんじゃねぇ?」

「どこがっ…!男にキスなんか迫るなっ」

「男にじゃねーよ!ガイにしてもらいたいんだ!ガイ以外は無理!」

「な…」



不意打ちの告白に若干照れつつ、この空気は不味いとガイはルークを宥める事にした。
というか、健全な男子高校生の求めるご褒美が幼なじみからのキス(しかも男)ってどうなんだ。



「それ以外なら聞いてやれるから、もっと他のにしないか?」

「…してくれねーの?」

「ルークがレギュラー入りしたのは凄いと思うし、何かしてやりたいけど」



それは、という言葉を飲み込むとルークはんん、と少し考えて、


「じゃあセッ…」

「それ以外!!」


ガイが力一杯言うとルークはむっとした表情になる。長い付き合いからこれは拗ねた時の顔だとガイは思った。


「そういうこと以外ならまあ、何でも聞くから」

「ガイ、してくんねーんだ…」

「いや、だってな…」

「ガイのために俺ちょー頑張ったのに」

「それは分かるけど、」

「そもそもガイがこの学校で働いてるって言うから俺受験勉強も頑張ったんだぜー」

「え…?」


初めて聞いた。
ルーク自身は家から近いしスポーツ推薦に受かったから入ったと言っていたから。


「アッシュに頼み込んでさー、勉強したんだぜ。教えてもらうならガイのがよかったけど秘密にしたかったから」

「………」

「意味分かんなくてアッシュにお前の教え方分かりにくいって文句言ったら、あいつキレて屑が馬鹿がってちょームカつくのあのデコ……って何の話だっけ」



人気が高いこの学園のレベルは決して低い水準ではない。普通の学生でも苦労するのに、勉強は苦手だと豪語するルークは見事合格している。
しかもその理由がガイが働く学校だからと直球で真っ直ぐ向けられた好意に、ガイはルークが気付かないスキに顔を赤くした。


ほっておくとガイ、ガイと繰り返すルークにガイは何だかいつの間にかやられてしまっていて、
妙な気恥ずかしさと葛藤を押し込んでガイは息を吐いた。

ここまでされて逃げるのは卑怯かもしれない。



ぐい、とルークの肩を引いて、呆気に取られた瞳と目が合う前に、素早く自分の唇をルークの唇にかすめた。
ちゅ、と軽い音が消えてすぐに離れる。



「ガ、」

「俺が、キスしてやったんだから…軽く全国まで行けよ」


気障っぽい台詞を言うガイの頬は夕日の中でも分かるほどにまだ赤い。


感動して抱き付いた勢いで押し倒したらすごく怒られた。




*

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よく知らないくせに書いてくるわさんに送り付けた駄文をリサイクル!(最悪)
タイトルはルークのことだと思うよ!



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