気に入らねぇヤツがいるんだ。

外見だけしか似ている場所がまるでない双子の弟は苦々しげに言った。
ふーん、と一言返しただけでまるで気にした様子のない兄の了はこれがメインとばかりに学校が終わった後で買って帰ってきた箱に入れられた二つ目のシュークリームに手を伸ばす。

この甘党の兄が自分にデザートを分け与える訳がないと理解している弟のバクラもその様子を視界になど入れていない。
ただ、その甘ったるい匂いに眉を潜めた。


「顔も性格も、とにかく気に入らねぇ、なにもかも」

苛立ちを全面に吐き出すバクラにまた了はふーんと気のない返事を返す。1週間前に学校の先輩を病院送りにした奴が何言ってるんだか。
相手側も札付きらしく馴れたものだったが、両親が不在で了が謝りに行くはめになった。

まったくこの弟は世間の何がそんなに気に入らないのか。穏やかさを信条としている了には理解し難い。
嫌なことがないわけではないが、バクラのように相手も自分も壊すような生き方はごめんだ。

こんな冷めた感想すら持つている了をバクラは構ったことがない。バクラ自身は、この行動が解決に至ると思っていない。ただ黙って感情を溜めておくことができないだけだ。
そんな調子で我慢できなくなれば手当たり次第発散した結果がこの弟だった。

「俺を見てへらへらしやがって、それだけでも苛々すんのに、何もなくてもへらへらしやがる。馴れ馴れしく話しかけてきて、うざってぇったらねぇ、なのに、周りに居る奴は止めようともしねぇ。気に食わねぇ気に食わねぇ気に食わねぇ!」

テーブルの上のグラスが宙を浮き、壁にぶち当たる。
あー、100均のガラスカップがー。と了は見もせずに心中でやる気なくぼやいた。バクラがしょっちゅう物にやつ当たるので家の物はほぼすべて安価な物だ。
100均ばんざい。

名前だけは無駄に知れ渡っているのでご近所から文句はこない。その内町内会長から頼むから引っ越してくれと土下座されそうな勢いだ。多分。


「あのガキ、ふざけんな、笑うんじゃねぇよ、クソッ」

拳でテーブルにまで穴を空け出して、そろそろシュークリームの大箱と退散した方がよさそうだ。このリビング限定で暴れるのは了としては別段気にならない。
あと、同い年はガキとは言わないんじゃないかなぁ。

五個目を頬張り終えながら、箱を抱えて階段を登りつつ白けた目で弟を振り返る。
バクラはもう周りが見えておらず、苛立ちに身を任せている。最近の様子と珍しくバクラの柄の悪い口から殺すの類いの言葉が飛び出さないので相手くらい簡単に分かった。

そのせいで、ますます弟を見下ろす目の温度が下がる。

(馬鹿だなぁ、珍しく笑い掛けられて話し掛けられてうろたえて。その子の周囲にイライラが向くなんてさ)
(笑った顔がなかなか離れなくて苛立つとか)
(そんなの決まってるじゃない馬鹿だなぁ)



恋とかあれの類いです
(遊戯くん本人に向くほど頭は沸いてないって、ね)


2011.04.18
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