ふつふつと心が行き場のない想いで積み重なるのを感じる。
苛ついている訳じゃない。ただひとつ、どうにも困ったことがあるだけだ。

近頃の俺を悩ませる原因はただひとつ、同じチームのキャプテンである円堂守のことだった。
内容はサッカー関連の話ではない。むしろごく個人的なことだ。いや、全くの無関係という訳でもないのかもしれない。ますます困ったことに。

このまま普通の友好関係でいることに耐えられなくなって俺から円堂に告白したのが数ヶ月前。そして円堂は俺を真剣に受け止めてくれて、俺と円堂は今恋仲の関係にある。
正直、そう簡単に成就する筈がないと諦めかけていた恋が上手くいったことをすんなりとは信じられなかった。円堂の気持ちを疑っているのではなく、あまりに嬉しくて、どうしていいか分からなかったのだ。好きで好きで想いを告げたのに、本当に自分の物になるとは露程も思わなかった。

それでも円堂は俺を選んでくれたのだと、もう他の円堂に好意を持つ奴を気にすることもない筈なのに、
あいつは相変わらずどんどん周囲を自分に惚れさせるのにはどういう理由があるんだ!



「…円堂。少し、話がある」


単刀直入に言うとお前に下心を持って近付く連中にもっと警戒しろ。と注意するためにジャパンエリア宿舎内の俺の部屋で円堂と向かい合って座る。もちろん、円堂がわざと周りの男をたぶらかすような奴じゃないことは十分に分かっている。
むしろ意識してたぶらかせるなら恋人の俺を大いにたぶらかして欲しいくらいだ。話が逸れた。

つまり、円堂にその気がなくとも相手はそうとは限らないのだと自覚して貰わなければ困るんだ。



「ん?話って何だ、鬼道」

小首を傾げてこちらに笑いかけてくる円堂は恋人の欲目を除いてもかわいい。思わず注意を忘れかけて顔が弛みかけるが、今はそういう訳にはいかない。
こういった無意識の仕草も好ましいが危険なのだと教え込む必要がある。

他の男にも同じことをしてそいつがでれでれする所を想像したら思いの外かなり腹が立った。



「円堂、お前の誰とでもすぐ打ち解けられる性格は美徳であるとは思う。だが、やたらむやみに知らない奴にでも無防備に振る舞うのは、あまりいいことじゃない」

「んん?」


円堂がますます首を傾げる。何だか妙な切り出し方になってしまったか…。しかし直接的に「お前に邪な想いを抱いている奴がいたら絶対に近付くな!」というのも男としてどうなんだ。
それに円堂に邪な想いを抱いているのは正直俺も同じ……いや俺と円堂は恋人同士なのだからそれは自然だ。全く別の男が円堂をそう言った目で見るのは許されない。そういうことだ。


「いや……例えば、円堂がサッカーに誘った相手にお前が他意がなくとも誤解されることがあるというか…」

「誤解って?オレ何か相手に悪い誤解させるようなことしてるとか…?」

「いや、すまない、言い方が悪かった…。それは絶対にない」

「そっか、」


円堂の安心した顔に胸が痛む。上手く表現できない自分に苛立つ。どうしたんだ俺は。
敵対するチームの中にありたしかに敵意があったとしても円堂のサッカーやろうぜ、の一言はかなり効くのだ。心の深くに響くぐらいに。それは俺自身で実証済みだ。
思えば俺のこの気持ちはその頃から……いや、そんなことは今どうでもいい。

話の切り出し方を変えようとひとつ咳払いをした。
こんな青くなったり赤くなったりする姿など帝国の奴らには見せられんな…。



「何と言うか俺は、お前の周囲にいる奴等の事が信用できないんだ…。もちろんイナズマジャパンの仲間が信じられない訳じゃない。もっと他の、例えば他国のチームには……円堂に興味を抱く連中が多すぎる」


頼むからそんなきょとんとした顔で俺を見つめないでくれ。
円堂の鈍感さは円堂によからぬ感情を持って近付く輩への最終防衛ラインにはなるのだが、俺に対しても発揮されるのがたまに居たたまれない。
無慈悲なまでに。

羞恥に耐えて、もうひと押し…か?


「…円堂に好意を抱く俺以外の男に、目を離した隙にお前がどうにかされるかもしれないと思うと……堪らないんだ」

羞恥より切実さの方が勝り、思ったより悲痛な声になった。
俺の説得(?)が伝わったらしく、円堂の頬がほんのり染まってややうつ向きがちになる。

これは……かなりストレートに伝えることができたと考えていいのか?
恥じらう円堂の姿にこちらが妙に焦ってしまう。こういう表情も普段とギャップがあってかわいい、な……。


「ご、ごめん…オレ鈍くて…。何かこんなこと言うのも変かもしれないけど、鬼道がオレのこと心配してくれるのって、すっごく嬉しい」

「円堂…」

「じゃあ、オレできるだけ気を付けるよ。特訓は…うーん…ちょこちょこ出てくかもしれないけど、なるべくうろうろしない!鬼道のそばから離れなければ大丈夫だよな!」



あまり根本的な解決にはなっていないかもしれないが、問題はなくなった。

結論。円堂は俺が守るから問題ない。



ずきずきずきずき
(円堂に近付く男には皇帝ペンギンだ!)


sting
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2011.04.16
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