振り返って考えてみても、この関係を壊す機会はいくらでもあったように思う。
でもそんな光景をいくら思い描いた所で今の状況が変わるわけでもなく、胸の痛みは取れることはなかった。いつもそうだった。自分の運命を変えていく力が俺にはない。だってそれはいつだってお前がくれていたものだったから。

散々睨んだ白い招待状を溜め息とともに狭い部屋の隅に放り投げた。
こんな扱いをして少し悪いかとも思ったが、投げたそれをすぐに取りに行く気にはなれなかった。
時間は刻一刻と迫っている。
行かない訳には行かない。あいつの大切な大切な日なのだから、無視したりしたらとても悲しむのは目に見えている。酷い後悔と苦々しい思いは俺がひとりで抱えていればいい。

それが俺が望む関係になっていたとしても叶わないことだって。そう。


(いっそ言ってしまおうか。そうしたらお前は答えをくれるのか、)

浮かび上がりかけた僅かな希望を早々に自分で打ち消す。
あり得ない。伝えて今更どうなると言うのか。あいつとの間にわだかまりを作るだけじゃないのか。今まで必死に俺が守ろうとした関係まで、駄目になったら。


「……最悪だな」

明日が来るまで、深く目を閉じて、キツく奥歯を噛んだ。
現実は易々と俺を通り越して行った。




その日を迎えてみても、気分は一向に晴れることはなかった。
酷い顔で、服だけは小綺麗なまま、白い服を着たあいつを見つめている。彼が選んだ、隣に立つその女性を、ちゃんと見ることができない。

成長しても変わらないあの笑顔が目に焼き付いて、好きだということしかわからない。


俺に気付いたそいつは笑って、親しげに肩を叩いてきた。何か話しかけてくるお前に俺ができることといったら、今は曖昧に笑うぐらいだ。
胸が死んでしまうかと思うくらい苦しい。




「……幸せに、な」


そう言って一度だけ、その肩を抱いてみた。友人同士がやるようにささやかに。
円堂はまた笑って抱き返してくれた。そうして、何も考えられなくなった。感触を噛み締めて、そっと指に力を込めた。


俺はいま、笑えているのだろうか。



嫌々抱いてくれ
(そうして、もう二度と触れることはない)

少年チラリズム
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2011.01.18
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