「ばかだおまえは、ばか、ばーか」

「……うう…ごめんって、」


やたら不機嫌な南雲に背負われながら、円堂は先程からひたすら謝っている。
いつもの通り、部活帰りに鉄塔で特訓中にちょっとした失敗があって、両足に割りと酷い怪我を負ってしまった。別に立ち上がれない訳ではなかったし、少し我慢して続行しようとした直後に運悪くこの幼馴染みの南雲晴矢に見付かった。

暢気にこいつ、こんな顔するんだ、ってくらいに南雲は円堂と両足の怪我をせわしなく交互に見てひどく驚いたかと思うと、大急ぎで円堂をおぶって鉄塔のある丘を下り始めた。
円堂がいくら歩けるからいい、と言っても聞く耳を持ってくれない。
しかもこれから病院に連れていってくれるそうだ。ということは街までこのまま円堂を背負って行くつもりなのだろうか。恥ずかしい。傷の手当てくらい家でもできるのに。

そう言って意見してみるとばかばか、とたまに足の傷痛くないかと聞くのをやめて、「そんな跡が残ったら困るんだよばーか!」と怒られた。
また馬鹿って言われた。風丸といい南雲といい、どうしてこう過保護なのだろうかと円堂は疑問に思う。



「いいから、大人しくおぶされてろ」

「でも、南雲がきついだろ?」

「きつくねーよ!鍛えてるからおまえくらい、つか、軽いよ、中学男子にしては」

「……」

「ぐぇ」


キーパーにしてはまだ体重が軽いのはちょっと気にしていることなので、南雲の肩に回した手を目の前の首辺りで力を込めてみた。

南雲だって体格はオレと変わらないくせに、と言い返そうとしてやめた。何故か南雲は円堂と同じ身長なのをかなり気にしているのだ。
まだ中学生なんだから黙っていればその内身長くらい伸びるのに。円堂から見ると南雲は謎が多い。



「……心臓止まるかと思ったんだからな」

「へ?」

「あほな声出してんなよな……クソッ、ちょうど近くまできたから、そういやお前がこの辺りで練習してたなと思って…偶然!ほんと偶然なんだからな!え、円堂が倒れてんのが見えて、そしたら怪我したとか、言うから仕方なく……」

「はぁ…。」


誰かに言い訳するようにぼそぼそ話す南雲の言いたいことがよくわからなくて、円堂は妙な相づちを打つくらいしかできなかった。
確かに病院に連れていってくれることは感謝しているけど。円堂が頼んだ訳ではないのだが。南雲に背負われているせいで彼の小さな悪態もはっきり鼓膜を揺らす。

南雲の赤い髪が至近距離にあって、夕焼けの光に当たってところどころオレンジに見えた。



「…おい円堂、約束しろよ」

「え?南雲と?」

「返事ははいだ」

「はい…?」


唐突な南雲に円堂は首を傾げながらも頷いた。気付けばもう河原まで歩いてきている。


「もう、無理な特訓すんな」

「…えぇ〜」

「返事」

「…ん〜、はい……」

「つーか、部活終わったらまっすぐ家帰れ。あぶねーだろ」

「んん?危ないか?…まぁ、はい」

「今日みたいに、何かあったらすぐ俺のこと呼べよ」

「えー、オレ携帯持ってな…」

「叫べ」

「さっきからむちゃくちゃだぞ南雲」

「…じゃあ、これだけ、守れ」

「ん?」


南雲の首の辺りをぼんやり見ながら、南雲が喋るとき単語をやたら区切るのは緊張してるときの癖だったようなことに気付いた。



「俺から、一生離れんな」

南雲の肩が何だか、あつい。




ハニーシロップのきずぐすり
(えっ!じゃあ特訓付き合ってくれるのか!?)
(なんでそうなんだよ!……ま、まぁ、円堂がどうしてもって言うなら仕方ね…)
(どうしても!)
(しょ、しょうがねぇな…っ、あ!怪我してんだから明日はナシだからな!)
(えー)



少年チラリズム
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2011.01.17
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