『何か話してくれ』
足元をぐるりと延びる電話線のその先に彼はいる。夜になるとお互い電話の前で声のやりとりをする繰り返す習慣の中で、遊星君は必ず言った。
前に何度かどうしてか尋ねたことがある。
『心地よく話す遊戯の声が聞きたい』
優しげな甘い声で平然と言われてそれからは聞いていない。
だって、受話器から声が落ち着くとか、一生懸命話すところが聞きたいとか、俺だけにそうしているあんたがかわいいとか、そんなこと言われるのは、恥ずかしい。
『聞かせてくれないか』
そうして僕は今日あったことを姿のない彼にぽつりぽつりと口にする。
経験則だけど、あんまり男友達の話をされるのは楽しくないらしい。人とのやりとりの話題をあまり制限されると困るのだけど。女の子の話も微妙な反応返されるし。
『ああ。…ああ、そうなのか』
この最中は遊星君も最低限の相づちしか打ってくれない。僕の話を邪魔したくないのと、目を閉じてゆったりと僕が声帯を震わせるのを聞いていたいらしかった。
僕だって君の声がたくさん聞きたいのに。電話本体の液晶がまた通話時間を刻むのを見つめる。
『ここに遊戯が居れば、』
鼓膜を揺らすのにそんな悲痛なこえ、やめて。
『その手に指を這わせて、話の先を促せる』
『やわらかい髪を撫でて、頷いてやれる』
『動く唇をなぞって、好きなだけ触れて、』
この爪が最後に君に愛されたのは、何ヶ月前?身震いして、睫毛がふるえる。声がするのに、コードの先は壁で行き止まりだ。手繰り寄せても意味がまるでない。
まるで。
『……キスがしたい』
「ずるい」
僕だって、もどかしいのに。
くちびるの使い方
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2010.12.06