その二人の護衛対象はよく似ていた。
雇い主のご子息とご令嬢、つまりご兄妹なのだから似ているのは当然なのだが、どうやら坊っちゃんの方は前妻とのお子さんで血は半分しか繋がっていないらしい。
しかし旦那とお嬢が並ぶとつくづく思うのだが、容姿を取っても性格を取っても親子よりご兄弟の方がよく似ている。一緒に過ごしてきた時間が影響するのかなんとなくだがお嬢も父親より兄の方によくなついているように見えた。
お二人が遊ぶのを少し離れた所で控えて眺めているとあの紅い燃えるような髪は坊っちゃんとお嬢だけの色で、母親が違う者同士がよく似ていることが皮肉に思えた。給料を貰っている相手の家庭にとやかく言う権利も必要もないのでそう考えたのはその時だけだが。
その日は学校から帰ってきた戦人坊っちゃんにお嬢がせがんで絵本を読んで貰っていた。帰りを待っていたさっきまではひとりで読んでいたようだったのに、兄に甘えたいのか何でも一緒にしたがる。坊っちゃんは快くお嬢を膝に乗せて絵本を読み始める。
幼い妹に向けるその声が酷く穏やかで、俺も部屋の壁に持たれてお伽噺に耳を傾けた。
そして同時に、産まれたときから面識のある兄が大好きなお嬢はともかく、突然できた大きく歳の離れた妹を可愛がるのはきっと複雑な心境もあるのだろうとぼんやり考えていた。
それからまたしばらくして気付いたことがある。俺の二人の護衛対象を見る目はゆるやかに平等とは離れて行っていた。
(まぁ、気付いた所でどうもする気にはなりませんけどね)
お屋敷の使用人が運んできた焼き菓子と紅茶を仲睦まじく別けるご兄妹を見ながら、俺は人知れず膨らんでいく衝動をあっさり放置して紅茶を啜った。
ほんの少し前まではボディーガードかSPらしく同じ部屋の離れた場所で突っ立って仕事をしていたのだが、やたら人懐っこい坊っちゃんとお嬢に引っ張られて今では同じテーブルで相席して和やかにおやつを食べる間柄だ。
初対面の頃より戦人坊っちゃんは気さくに話しかけて下さってはいたが、ただの護衛と一緒になって遊ぶような対象が果たしてここ以外にいるだろうか。普通自分の身を守るだけの人間にそこまでの感慨は持たないと思っていたが。
縁寿お嬢様がご機嫌で坊っちゃんは喜ばれているようだし、俺もある理由を除いてはある意味願ったり叶ったりなので文句はないけれど。
「いつもありがとな、天草」
「……は、突然何でしょう?」
トランプが散乱するローテーブルの側で遊び疲れてソファーで寝てしまったお嬢に別室から持ち出した毛布を丁寧にかけてやっていた戦人さんが笑顔で振り向いて、おもむろに礼を言われる。
一介の護衛としては雇い主のかわいいお子さん達を守って弾丸の山やら何やらを潜り抜ける代わりにトランプ遊びに興じていて、このままでは契約違反で旦那にいつクビにされるかヒヤヒヤしているのだが。
「俺としちゃ、お嬢をババ抜きのババから守るよりは暴漢から颯爽と守った方が本職っぽいとは思いますがねぇ」
「はは!縁起悪いこと言うなって!天草とは堅苦しいのは抜きで付き合いたかったし、縁寿もお前のこと好きみたいだから。感謝してるんだ」
「そうですか?俺も今日みたいなのは大歓迎ですよ」
「さっきの、親父の知り合いが置いてってくれた高級菓子うまかったよなぁ」
主従関係など忘れたように素直な感謝を口にする彼に軽口を叩くと、戦人坊っちゃんが笑う。そんな表情を眩しく感じて会話を心地よく思うのは今の俺にとって多少危険だ。
戦人さんは知らない、完全に俺だけの話。
「なぁ、今度三人で出掛けないか?縁寿をどっか連れてってやろうぜ」
「それはいいですねぇ。縁寿さんの為に遊園地のチケットでも手配させましょう」
「え、いいのか?頼りになるぜー、ありがとうな天草!」
背中を叩いて機嫌が良さそうな戦人さんがふと表情を止めて訝しげにお前って縁寿のことどう思って、と言いかけたので、さぁ、と首を竦めて見せた。
どこかにこのまま沈めておきましょう。
*
お嬢は微笑ましい、坊っちゃんは何だか落ち着かない、そんな感じ。
天戦縁がきゃいきゃいしてるのがすきです。
sting
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2010.10.15