大きさの違う手を重ね合わせると、お互いに紛れもなくこれは自分自身だと思えた。
透けて見えるのに、体温や僅かな鼓動すら感じられる。心の部屋を通さずとも《遊戯》は遊戯に触れることができるのだ。
いや、遊戯にしか触れられないと言った方が正しい。彼は体を借りなければ遊戯にしか見ることができないのだから。
しかし、《遊戯》はこの僅かな現象を奇跡だと信じて、幸せだと感じてしまうのだ。
この考えが間違っているのかは分からない。
この少年に存在を認識されるのが酷く嬉しい。彼と共に居られることを何度強く感謝しただろう。体も記憶もない《遊戯》に信仰できる物は思い付かなかったが、そんなものは何でもいいと思った。
遊戯が、《遊戯》にとって唯一無二の存在だった。
相棒、と胸にたまった甘いものに耐えきれず、息を付くように遊戯を呼んだ。
千年アイテムを手にして宿主になった人間をこんな風に呼ぶ者は果たして今までにいたのだろうか。
強くて、優しくて、賢く。とびきり可愛らしい少年にこんなにも込み上げてやまない愛しさを感じずにいられない。
《遊戯》の声にじっと重ねられた指先を見ていた遊戯が顔を上げた。

遊戯の菫色の瞳と《遊戯》の赤い瞳とが見つめ合う。遊戯は濡れた瞳に《遊戯》を映したまま、ゆっくりと瞬きをした。
歓喜と恋慕で実体のない体が震える。
彼の瞳に捉えられると、何故こんなに嬉しいのだろう?嬉しくて嬉しくて、ずっと自分を見ていて欲しくて、時間など止まれと願ってしまう。
傍にいたい。何者にも阻むことは許さない。誰にも触れさせない。
永久に進まない時間の中をふたりだけで過ごせたなら、もっと遊戯に触れることができるのだろうか。
《遊戯》が望むのは手を合わせたり肩を叩くような友人に対するものではなく、最早愛している人間にするものだとはっきり自覚していた。
彼の小さな唇はどんな感触がするのだろう。その小さな体を掻き抱いたらどんな反応をするのだろうか。
触れられるもっと先まで、限界まで近くに行って融け合えたなら、それ以上の幸福はこの世界にあるだろうか。
そこまで考えると、いつも《遊戯》は無理矢理思考するのを止める。
答えは簡単だった。
 そんなものを、遊戯が望んでいる筈がない。
これは《遊戯》の身勝手な想いだ。
彼は自分を大切に思ってくれている。だが、それはあくまで友達としてだ。《遊戯》は遊戯が完成したパズルに掛けた願いを思い出していた。
数え切れない多くの日々を越えて、遊戯の傍にはもう既に沢山の友人が居る。きっと彼に心を救われた分、遊戯の為に躊躇いなく自身を危険にさらせる人間は彼や自分が思う程少なくはない。
彼の望みならもうとっくに叶っているのだ。
それなのに、彼はどこか《遊戯》がいなくなることを恐れているように見える。
《遊戯》もよく知っている彼の友人達の中には、遊戯からあっさり離れていくような者は誰ひとりいないと言うのに。不安は消えないのだろうか。
遊戯がパズルにただ純粋に、その望みを願うことになった経緯に思いを馳せると胸が傷んだ。
自分は卑怯な立場なのだ。
遊戯は、優しい。
《遊戯》が本気で遊戯と共にいようとすればそう難しくなく叶うのだろう。もともと心の強さを持っていた遊戯を救ったのは《遊戯》かもしれない。しかしそれはきっかけに過ぎず、支えているつもりで強く支えられているのは自分の方だ。彼を弱くするのも《遊戯》自身だった。
強引に彼の心に弱い場所を作り出したのは、自分だ。
胸が痛む。愛しい。愛しい。強く強くやわい遊戯が。この相互依存のような関係に遊戯をそのままがんじがらめになって遠く手の届かない場所にまで連れて行きたいと願うこの思考に畏れる。
そして、陶酔する。

内側から聞こえる遊戯の声がやわらかく鼓膜を揺らした。彼の言葉はいつも《遊戯》を幸せにしてくれる。
《遊戯》はゆるやかに背中を押されたように体内の意識の底に沈んでいった。

「僕がきえたら、君がかわりに生きてね」


(相棒、)

お前は俺に、死ねというのか。

ジキルハイド


*


博士の手紙を思い出して。
王様の遊戯に対する感情って、友情とか愛情とか運命とか執着とか、もっといろいろ混ざってきっとひとことでは表せなさそう。

2010.06.06
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