「いつから?」
震える声を抑えるのも忘れて、呆然と彼の両目を見上げた。
その瞳ははっきりと自分を捉えて逸らす事さえできない。激しい熱が奥に燻っているのすら気付く余裕がない。
…知られたくはなかった。
なのに彼は尚も残酷な言葉を吐くのだ。
「……はじめから」
冷水を浴びせられたように心が冷えていくのを感じた。
はじめから?
それはいつの?僕が、血液の中の衝動に負けて君に近付いた時から?それより前の、森で一人で居るのを見かけた時から…?
無意識に距離を取ろうと身を捩ろうとしても、白いベッドに押さえ付けられた体は微動だにしない。
「こんな所でどうしたの?」
今でもよく覚えている。
道に迷った彼に甘い顔で近付いて。何度もこんなことはしちゃいけないって自分を止めようとしたのに。君を逃がそうとしたのに。
僕の本能がそれを許さないんだ。
君の腕に拘束されている、今この時も囁いてくる。
僕に被さる彼の肩に今すぐ顔を寄せて。唇を這わせて。彼を僕の一部にしてしまえと。
「どうして、」
やっと絞り出したのがそれだった。
いつの間にか目には涙が浮かんでいて視界が滲む。
どうして。
どうして、僕が危険なものだと分かっていたなら逃げてくれなかったの。
…どうして優しくするの。
彼を捕食してしまえと叫ぶ本能を心が頑なに拒むのだ。
そんなものを封じ込めようとするくらいに彼が好きだから。
「ずっと見てたんだ」
遊星君の薄い唇がゆっくり動く。
「遊戯が近付いてきて声を掛けられた時、夢だとばかり思った」
僕を押さえ付ける手に力が籠る。
「チャンスだと、思った」
押し殺すような彼の声色が陰る。君は、何を言おうとしているの?
「遊戯、」
森の奥の館でひとりで住んでいる少年に気付いた時から、初めて姿を遠くから見た時から、町で噂されていた吸血鬼が彼だと確信した時から。
あいしていた。どうしようもなく惹かれていた。これが吸血鬼の魔力だったとしても、関係ないと思った。
好きなんだ。
遊戯がヒトでないのなら、俺も同じ物にして欲しかった。
それからすべて自分のものにしたかったから。
お前が俺の血を吸う瞬間を待っていたのに。
狂おしいくらい、
待って、いたのに。
「……吸えよ…」
低く、甘い声を耳元に流し込んで。
「俺の血、吸って、同じにして」
ああ、こんな場面でなければどんなに感動的な台詞だっただろう。
身を焦がすようなこの欲がなければ。
組み敷いたこの少年がこんなに怯えた顔をしていなければ。
「そうしたら、お前を………」
自ら首筋を押し付けてくる彼の、
まるで喰い付くような瞳に戦慄した。
水性の悪夢は朝靄に熔ける
(さぁ、早く、早く)
*
遊星と吸血鬼遊戯なパラレル(言わなきゃわかんないよねっていう)
切り取られたみたいな断片的なお話が好きなんですが、私の場合意味わかんなくなるので止めた方がよさそうです。
慟哭
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2009.06.18