(遊戯さん今日もスッゲーかわいいです!)

(けどそれとおんなじくらいめちゃくちゃきれいです)



(遊戯さん、好きです)





台所に立つ遊戯さんの背中に、オレは目一杯好きですオーラを送る。
感激なことに、最近遊戯さんの家にお邪魔して料理をご馳走になることが増えた。俺の好物がエビフライだって遊戯さんがちょっとしたことから知ったのがきっかけだ。

前に初めて遊戯さんの家に遅くまでお邪魔した日にもう遅いし僕の家でご飯食べていく?
と眩しい笑顔で言われたとき、ぶっ倒れそうになる反面心の中でガッツポーズをした。

遊戯さんはオレの憧れの人で、前なら一緒にいるどころか普通に話すことすらできなかったのに。すごい進歩だ。その日の遊戯さんの夕飯は食べてしまうのがもったいないくらいに感激した。


今もキッチンで料理をするかわいい遊戯さんの後ろ姿をダイニングから見てるとなんかもう、すごい幸せだ。



毎回すべて遊戯さんに作って貰うのをただ見てるだけでは流石に申し訳ないので、今日はオレもダイニングで卵を浸したエビに小麦粉を付けながら何度も遊戯さんの方を見てしまう。

何も言わなくても好物を覚えていてくれて、それを作ってくれる憧れの人の優しさに、
もうオレはどうしょうもなく舞い上がっていた。




「十代君、油の用意できたよ」

オレの愛を込めた視線に気付いた訳ではなく、遊戯さんは振り返ると皿の上のオレが付けたエビフライのエビを見てにっこり笑った。



「凄くきれい。十代君エビに衣付けるの上手だね!」

「ほんとですか!?オレあんまりこういうのやったことなくて…」

「そうなの?じゃあついでに揚げ方も覚えちゃおうか」

「はい!」


しっかりと頷いて向こうに持って行くね、と皿を持ってキッチンに戻る遊戯さんの後にいそいそと着いて行く。
あの遊戯さんが直々に教えてくれると思っただけで、授業なんかで料理を作らされるときとは比べ物にならないくらいやる気がわいた。

キッチンでオレと並んだ遊戯さんはコンロの側に皿を置くと、オレに菜箸を手渡す。



「もう油は温めてあるから、菜箸で衣付けたエビを油に入れてね。油入れて、衣つけてを2、3回やるとさっくりするんだよ」

「こう…このまま入れたらいいんですか?…ちょっとビビりますね……」

「うん。油に気を付けてね」


遊戯さんはひょいっと菜箸でエビを持ち上げて鍋の中に入れて行く。オレもそれに習って箸でエビを油に浸した。
遊戯さんが小麦粉のトレーを持っているせいで腕と腕の距離が近い。
それだけでオレはガキみたいにドキドキした。


ぱちぱちと音を立てて油の中でエビがしゅわしゅわと揚がって行くのを用心深く見ながら隣の遊戯さんをそっと盗み見た。

オレより身長が少し低い遊戯さんは黙々と作業をしている。
上からから見下ろしているせいで、遊戯さんが瞬きをすると睫毛が上下に上がるのが目立つ。
まつげ長いなと思いながらぼんやり見ていると、遊戯さんが一度油から出して衣を付け直したエビが大きく跳ねた。



「熱っ……!」

「遊戯さん!!大丈夫ですか!?うわ、あちっ!」

遊戯さんの方に気を取られていて疎かにしていた、オレが持っていた箸からもエビが落っこちて油が飛んだ。
揚げかけのふたつのエビが重なって鍋の底に沈む。



「十代君大丈夫?」

「オレは平気です!オレより遊戯さんの方が…水か何かで早く冷やさないと!」

「そこまでしなくても平気だよ。ふふ、十代君に気を付けてって言ったのに僕の方がボーッとしてたみたい」


俺に優しく笑いかけてくれる遊戯さんを見て、ふと胸が熱くなった。

…ああ、好きなんだ。オレ。
遊戯さんの、デュエルも。笑顔も。仕草も全部。苦しいくらい好きだ。
きっと遊戯さんは年下に対して普通に接してるだけなんだろうけど、遊戯さんが笑ってくれるだけでこんなにドキドキしてる。

遊戯さんは分かってるのかな。
ここに遊戯さんのことすっげー好きなガキがいんのに、頻繁に会いに行ってもいつも嫌な顔ひとつしないで迎えてくれるし。
そんなに優しくされたら勘違いしちまいそうで。


オレの中で燻ってる想いを必死で遊戯さんに気付かれないようにしながら、ふたりではしゃぎながらエビを揚げていく。
その間もつい遊戯さんの顔を何度も見てしまって。
トレーの上のエビに全て衣を揚げ終えた後、オレは遊戯さんに付いて必死にエビフライを作るだけで手一杯だったのに、その間に遊戯さんはいっぺんにおかずや味噌汁まで準備していて。
ご飯まで炊けていた。


デュエルは超強いし、料理まで完璧にできるなんて、遊戯さん凄いです!



遊戯さんの料理の腕に感動して、手料理に顔を輝かせる俺を見て遊戯さんはニコニコした。かわいい。



「ふふ…じゃあ僕はこれ先に運んでるね」

「あ、駄目です遊戯さん!リビングになら俺が持って行きますから…」


トレーにふたりぶんのお椀と味噌汁を乗せて遊戯さんが運ぼうとするので、俺は慌てて止めた。力仕事ならオレがやりますって言っても遊戯さんは大丈夫大丈夫と笑う。



「これくらいなら平気……わっ!」

「遊戯さんっ!!」



熱湯の味噌汁が乗ったトレーを持ち上げた遊戯さんがふらつく。
俺は頭が真っ白になりそうになりながらも腕を伸ばした。

オレの反射神経のおかげで飯の乗ったトレーと遊戯さんを上手く支えられたようで、何とか遊戯さんは無事だった。はーっと安堵の息を吐くオレを遊戯さんは申し訳なさそうに見上げようとした。




「びっくりした……ごめんね、もうひとりのぼ、」



「え?」



遊戯さんがこぼしそうになった言葉をオレは聞き返してしまった。
遊戯さんの顔色がさっと変わる。周囲の空気も急速に変化していた。すぐにオレは自分の行動が間違いだったと気付いた。


遊戯さんの表情には驚きと後悔と深いかなしさのような物が浮かんでいたように見えたから。



遊戯さんはオレの憧れの人で、前なら一緒にいるどころか普通に話すことすらできなかったのに。

今のオレはきっと遊戯さんの近くに居すぎた。
ずっと好きだった。ずっと目で追っていたせいで、遊戯さんが不意に見せる影のようなものを頭悪いオレでも気付いてしまった。


遊戯さんぐらい凄いデュエリストで魅力的な人の近くに誰もいないのが嬉しくもあったけどずっと不思議だった。
でも今それが分かった気がした。オレが旅に出たあの日のデュエルで見た、遊戯さんの中にまだはっきり残っている、
オレが知りたくて堪らない遊戯さんの過去が。




「…大丈夫ですか?やっぱこれオレが持っていきますよ!遊戯さんの手料理スゲー楽しみです。オレもう腹減って……」



知らないフリをしてわざと声を張り上げて言う自分がイライラする程白々しく見えた。
しかし、そんなオレを見て確かに安心した顔をした遊戯さんをオレは見逃さなかった。

声が震えそうだ。







南の彗星はなんばんめ
(この憧れはこの人から一番遠かった)





*


表さんはまだ王様のことが忘れられなくて、きっと前に王様と十代とご飯作りして自分がこけそうになるみたいな全く似たような状況になったことがあったのではないかと思います。
ここで初めての十表だったのに中途半端に悲しい役回りにしてごめんね十代…。




慟哭
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2009.06.12
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