ちょっと午後を過ぎた辺りの、人通りの少ない街の中。
メインストリートの歩道をひとりで歩いていると、後ろから明るい声で自分の名前を呼ばれる。




「アキちゃん!」

「え……?」



振り返るとそこにはにっこりと笑う小柄な少年。
わざわざ走ってきたのか、少しだけ息を切らして。

この人は不動達と行動していたのを見たことがある。
……確か名前は、




「…武藤……?」

「うん!僕のこと覚えててくれたんだね」



そう言って武藤はまた屈託なく笑ってみせる。何だか眩しく感じながら曖昧に頷いた。
彼こそ、まともに会ったのは多分初めてなのによく私の名前を覚えていたものだと。

そう言えば、不動の保護者みたいな人…と言っていたから、当然私より歳上なのかしら。
そんな彼に少年なんて失礼だったかと思うものの、向けられる表情はどれも年齢より何だか幼いように思える。

だけど、あの不動の保護者と言う割りにはまるで似ていない。もっと無口で無愛想な感じを想像していただけに、少し拍子抜けしていた。




「えへへ、後ろ姿が見えたから思わず声かけちゃった。アキちゃんもお買い物?」

「…ええ。ちょっと用事があったの」

「そっか。僕は日用品の買い出しに来てて…僕の家この近くなんだ」



言われてみれば武藤は彼の体に不釣り合いな大きい荷物を抱えている。
彼と、不動の分の買い物だろうかとぼんやり考えて、大変そうねと言いかけたけど、そうしている間も武藤はニコニコ笑うものだから。


…不動が彼を大切に思うのも分かる気がするかもしれない。
だから、私も釣られて僅かに微笑んでみた。

すると武藤は嬉しそうに、花が咲くようにぱあっと笑った。
……変なの。
花が咲くようにだなんて、男相手に使うものではないのに。でも、今の彼にはぴったりの形容詞だと思えた。




「わぁ、アキちゃんが笑ったところ初めて見た…かわいいね!」


……かわ、いい?

慣れない誉め言葉に思わず紅くなってしまう。
その言葉に耐性がないのは当然。魔女と呼ばれた私にかわいいなんて言う人なんて、いないわ。

もし口にしたのが他の男だったら相手にもしないかもしれないけれど、武藤は何の嫌味もなく純粋に心から言っているように感じさせて。


…だから、そう言った彼の方がかわいいって思ってしまったなんて。



「あ、ありがとう……」

「そうだ!アキちゃん、もしよかったら僕の家で一緒にお茶にしない?おいしいお茶が手に入ったんだ〜!遊星君とジャック君もいるし、どうかな…?」

「武藤……」




武藤がこちらを伺うように瞳を覗き見る。

おいしいお茶と彼、に惹かれて頷くと、武藤はすっと空いている方の手で私の手を取った。

突然のことに心臓が大きく跳ねる。




「!」

「じゃあ行こうよ!僕の家あっちなんだ」



早く早くと言うように楽しそうな武藤に握られていた温かい手にドキドキしていた私は、もう一度笑って、静かに繋がれた武藤の手のひらに頬を寄せた。

自分でも思ったより優しい声でそっと呟く。



「ありがとう、武藤」



──そう簡単に、この人は渡さないわ。


取り敢えず武藤と手を繋いでいる所を見てあのふたりがどう反応するか楽しみに思いながら。




*突発的なアキ表。
遊表以外にやっとできたものがアキ表ってどうなの。アキ表だいすき。

きっと帰ったふたりを見た遊星とジャックはショックで同時にカップ落とすよ。


アキちゃんが別人なのはきっと私がまだアキちゃん登場回をまともに見てないからだと(強制終了)


2009.05.08
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