緩く立ち上る甘い香りに遊星はキーボードを叩く指を止めて顔を上げる。

見ると、遊戯がキッチンから両手にマグカップを持って現れた。
目が合った遊戯がキッチンからこちらを伺うように見る。


「あ、ごめんね。邪魔しちゃったかな」

「…いや、」


遊星は首を振ってノートパソコンから手を離す。
ずっと作業をしていたせいか体が硬い。
窓の外に目をやると夜もいつの間にか大分更けている。

パソコンの電源を切ってどうかしたのかと視線で促すと、遊戯はにっこり笑ってテーブルの上にマグカップを置いた。



「ずっとパソコンやってたから、一息付いたらどうかなぁって。まだ続けるならコーヒーの方がいいかな?」

「いや、気にするな。今日はもう終わった。それ……貰っていいか?」

「うん!はい、どうぞ」

「ああ…。…ホットミルクか」


一口飲むと、程よく冷まされた甘いミルクの味がした。さっき気付いた甘い香りの正体はどうやら遊戯が作ったこのホットミルクだったようだ。

甘味料の代わりに入れてあるのか、仄かに温かい牛乳に混じって蜂蜜の香りがする。
遊星は少し懐かしい気分になった。



「美味いな」
「よかった。えへへ、ホットミルク飲んで眠るとよく眠れるって言うから」

「…子供扱いするな」


微笑む遊戯に遊星が軽く視線を逸らす。
蜂蜜入りのホットミルクは今より幼い遊星の為に年の離れた遊戯がよく作っていたものだった。
年に似合わずパソコンを使いこなしていて、たまにこうして夜までやっていた遊星を寝かせる為に出していた。

このホットミルクが目当てで故意に夜にだけやっていた事があったのを思い出してバツが悪くなる。

遊戯も覚えているのか、楽しそうにくすくす笑った。



「遊星君も大きくなったよね。昔は凄く小さいような気がして、僕が面倒見てあげないと!って思ってたけど…今は僕より身長高いし、Dホイールにも乗れるし」

「………そうか」


遊星を見て遊戯がしみじみと頷く。遊星は曖昧に相槌を打ちながら、実際には年下から見ても遊戯は危なっかしい所があったと思ったが口には出さなかった。

これも口に出さなかったが自分が遊戯の身長を越したのも当然だと遊星は思う。
伊達に当時から遊戯の身長を追い越すのが目標だった訳ではない。


そう短くない時間を過ごしているにも関わらず、遊星の思いにつゆ程も気付かない遊戯が あ、ジャック君も凄い大きくなったよねー。と呑気に話しているのには内心溜め息を付きたくなった。

( アンタにとっての俺は、あいつと同じか )



遊戯は自分と同じようにジャックにも懇意にしていて、彼も少なからず好意を抱いているのは知っている。
遊戯にとって遊星もジャックも、まるで弟分のように思っているということも。


昔からそうして遊戯に扱われるのは居心地がよくもあるのだが、今日はやけに面白くない。


空のマグカップをテーブルに置いたのを見計らって、遊星は遊戯を抱き上げた。




「え、えええ!ちょっと遊星君!?」

不意討ちに驚いて顔を赤くする遊戯が緩い抵抗をするのを黙殺して、やや強引に抱き上げたまま部屋を移動する。ベッドまで行くとシーツの上に丁重に遊戯を下ろした。



「もう、先に言ってよ!びっくりした」

「もう寝るんだろ?」


ベッドに座った遊戯の隣に腰を下ろして、遊星は怒った顔をする遊戯の頭を撫でる。
まるで年下をあやすような遊星の行動に遊戯は思わず吹き出した。


「何か遊星君の方が僕のこと子供扱いしてない?」

「そうか?…そうかもしれないな」

「ふふ…昔と逆みたい」

「今までに、俺が遊戯に抱き上げられた事は一度もないだろ」

「そうかなぁ?一回くらいあったよ」

「遊戯の力じゃ無理だ」

「そんなことないよー!僕だって小さい子相手なら……」

「どうだかな」



そう言いつつ何度も遊戯の頭を撫でる遊星をどこか可笑しそうに微笑んで、自らも遊星の髪に手を伸ばした。
遊星が目を細める。
お返し、と自分の髪をすく遊戯の手をさりげなく取って布団を遊戯に被せた。



「カップを片付けて電気消してくるから、先に横になっててくれ」

「あ、うん。ありがとう」




先に部屋の電気のスイッチを消してからキッチンで二人分のマグカップを洗い、
棚に戻してベッドに入ると遊戯にぎゅっと腕を引かれる。
突然何かと遊星が暗闇の中で様子を伺うと、早くも遊戯は寝息を立てているようだった。

寝惚けているだけか。

遊戯の緩んだ寝顔を見て遊星が小さく笑みを溢す。
こうしているとこれではどちらが子供か分からない。

遊戯に引かれた腕はそのままにして小柄な体を自分の方に抱き寄せる。腰に回した腕にそっと力を込めた。



「……おやすみ」


起こさないように静かに言うと、その額にそっと口付けた。




*


割と年上遊戯さんと年下遊星のパラレルのようなもの?でいつまでも自分を子供扱いする遊戯にやきもきする遊星が書きたかったんですが、
途中で何をしようとしてたのか分からなくなりました。
遊表っていいですよね!(…)


この後キングに会った遊戯さんが普通の雑談感覚で
そう言えば遊星君がねーって話して、
何だそれは何故同じベッドで寝るんだみたいな風に渋い顔されてればいいよ。


2009.01.24
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