秋の少し肌寒いけどよく晴れて過ごしやすい日だというのに、遊戯は朝からため息が止まらなかった。
その理由は、学校行事で年に2回ある身体測定と健康診断だ。健康に不安があるからという訳ではもちろんなくて、今日ずっと遊戯の頭から離れないのは身体測定のほうだ。

遊戯の身長は平均以下の以下で高校生としてはかなり小柄で、それを密かに気にしている遊戯は新学期入ってすぐにあった身体測定の数値を気にして牛乳を飲んだり、深夜のゲームを多少我慢して早く寝たり、運動したりと努力を重ねてきた。
今度こそは、と思って朝から気合いを入れてきたのに、今回の結果も喜べるものじゃなかった。というか全然変わってなかった。

目に見えて落ち込む遊戯に、城之内はでも去年よりは伸びてるし、ちょっとずつでっかくなってるから落ち込むことねーよ!と元気付けてくれた。
しかし身長に変化があったらしい兄のアテムは「どうして身長を伸ばしたいんだ?相棒は小さい方がかわいいぜ!」と言い放った。
次には空気が凍りついた。


だって信じられないよ!
もうひとりの僕は僕が身長低いの気にして毎日朝ごはんと晩ごはんに牛乳飲んでるの家で見てるのにそういうこと言うの普通!?

城之内と杏子に何か言われている時でもアテムは滅多に怒らない遊戯に激怒されてしょんぼりしていた。
検査で移動の時も何とか遊戯に何か話しかけようとしていたものの、本気で怒っていた遊戯は完璧に無視して漠良たちといた。
バクラがいい年して泣いているアテムを見たと言っていたが、当分は怒りが収まらない遊戯はアテムがちゃんと反省するまで絶対に口はきかないと決めたのだった。


ぷりぷり怒りながら落ち着かない様子で今日のことを遊戯が話しているのを聞きながら、遊星は先ほど待ち合わせて校門で会った遊戯の機嫌が悪かったことに合点がいった。
同時に彼の兄のアテムがどん底まで落ち込んでいたのも何故か今日自分を鋭く睨んできたかも。



「だってさー僕が気にしてるの知っててひどいと思わない!?」

「ああ」

「もう知らないよあんなアホ兄!」


学校の裏に内緒で停めてある遊星のD・ホイールにまたがり、メットを付ける。遊戯もちゃんと座ったのを確認してエンジンを掛けた。
ここまで怒っている遊戯を見たのは遊星も初めてで、気持ちは分からなくもないが大変なことをしてくれたものだと遊戯を溺愛しているアテムのことを思い出した。

どうすれば遊戯の機嫌が直るだろうかと考えていた遊星だったが、D・ホイールでしばらく走っていると落ち着いたのか遊星の背中に掴まる遊戯が大人しくなる。



「遊戯?」

「何で僕の周りって背が高い人ばっかりなんだろ…。海馬君も城之内君もかなり大きいし、もうひとりの僕だって小さい方だけど僕よりずっと高いし……」


年下の筈の十代にも最近身長を抜かされたし、遊星もまた自分より頭ひとつ以上大きいと遊戯は言う。
自分の周りがこんなに背が高い人ばかりでなかったら気にならなかったかも、と。
無意識なのか、ぎゅっと腕を回している背中に力を込めた遊戯に遊星は言った。



「城之内とかいう奴の言うことも一理ある」

「城之内君の?」

「ああ。そんなに気にしなくていい」


沈黙する遊戯に落ち込んでいる相手に今のは素っ気なかったかと遊星は思った。
他の人間なら、あるいは相談されているのが遊戯だったらもう少し気のきいたことが言えるのだろうが、遊星には見当が付かない。
こんな時口数の少ない自分に苛立つ。


「…だから、遊戯は堂々としてたらいいんじゃないのか?……それが、お前なら」

慰めにもならないだろうか、と内心不安が過る遊星とは裏腹に背中越しに遊戯が笑う気配がした。思わず横目に見ると、遊戯が幾分和らいだ表情で遊星の横顔に微笑んでいる。


「そっか、そうだね。なんだか遊星君に言われるとちょっと元気が出たよ。ありがとう」

「…いや、それなら良かった」


遊星はふっと笑みを漏らすとまた前に向き直る。えへへ、と笑って遊星の背中にぴったりくっつく遊戯を愛しく思った。
そこからの道はいつもの遊戯に戻ってときどきあっちの空がきれいだとか明日も晴れるといいね、と話す遊戯に遊星が相づちを打って、そうしているうちに遊戯の家に着く。


「遊星君、送ってくれてありがとう」

「別に、構わない」


もう大分日が落ちて、外は暗くなり始めていた。
遊星と遊戯はD・ホイールから降りてから少し話をして、また明日ね!と遊戯が言い遊星がああと答えていつも別れるのだが、
D・ホイールのそばで遊戯の背を見送っていた遊星は遊戯を追いかけた。

自分が後ろにいることに気が付いていない遊戯の肩を背後から包む。
遊戯が息を呑んで足を止めると、遊星は遊戯の後頭部に口付けて耳に唇を寄せた。

(───この背なら、こういうこともしやすいだろ…?)



震えて振り向いた遊戯の顔は赤い。
赤い頬で上目にこちらを見る遊戯を見てまた怒るだろうかとも思ったが、遊星はまあお互い様だと遊戯を見た。


遊星の耳も、先ほどから熱い。




*

遊戯を口説いてるみたいでちょっと照れる遊星。仕返しに遊戯を照れさす遊星。
……なぁにこれぇ。


いまいち遊星の性格がわからない…。


2008.10.05
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