section 01- 3
 



あくまで 創造主からの視点での 話だけれど。

この世を創り出したのは、創造主のほんの気まぐれであり
そしてその気まぐれによって作られた世は創造主が悠然と歩く道でしかなく

そこに生きる全ての命は、道端に転がる小石でしかない。
その小石は蹴られ、更に転がると少しずつ削れて小さくなり、やがて砕けてしまうものだ。

息絶えれば、冥府という云わばその『道』から外れる小石が理想郷に必要かといえば…



「Finis sonitum campanae ad infernum demergeris.」

――終焉の鐘の音は冥府へと。――





「あーあー、ほんと。俺ちゃんは神格じゃないけどさァ。扱い荒くないカナー」

「………」

「俺ちゃんの主はちゃァんといるの。そンくらいアンタにゃわかるっしょ?その主が姉に殺されかけてそのうえ記憶失ってどっか流浪してるなんて聞いて俺ちゃん職務捨てて迎えに行きたいんだけど」

「………」

「は???いや俺ちゃん以外にも看守いるじゃん。ヴィトニルとかミドとかさァ」


灰色の看守服と、その上に夜色のマントを翻す赤い髪の青年。あくまで青年の姿をしているだけで、生来の姿は数多の首を持つ蛇とも龍とも取れる怪物ヒドラである。
黒を基調とした彼と対峙するのは、真っ白で床に着くほどに長い髪を揺らす小柄な誰か。それに似合った幼い顔を持つ子供。一言も声を発さないその子供の表情は『無』そのものであり、女性とも男性とも取れる中性的。ただ静かに深紅の瞳を青年に向けているだけである。


「っはー、相変わらず何考えてるかわかりゃしねー。カオスと並ぶ創造主ゼウスなんてそんなもんなのかねー?俺ちゃん興味ないけど」

「……」

「はいはい。いつもどーり仕事してりゃイイんでしょ。俺ちゃんはアンタの従属じゃないから命令なんて聞きたくないんだけどね」


けれどこうしていた方が、機会をいつだって伺える。


「それが神月サマの御為になるなら、やるほかないっしょ?」


何も言わない白。
赤い青年はにやりと笑って 蛇のようなその舌をぺろりと見せた。






********


昏い空の下の、教会のような建物の中。
ステンドグラスが淡いランタンの光を反射させて様々な色を魅せる。

「Ac ne in claro lumine illustretur luna est stella caelo si venis ad operiendum noctibus」

――ひとたび天界を覆う夜が訪れれば それを照らすのは星の輝きでも 月の光でもない――

「Et involvebant, sonitum campanarum ad agapen flamma illuminat netherworld cir ad finem mundi」

――世界を終焉に包む火焔が照らし 冥府へと誘う鐘の音が包む――



低くも、高くもなく。ただ静かに紡がれ短く締めくくられる言葉。
昏い建物の中で、揺れる白。白目の部分が真っ黒に塗りつぶされ、そこに唯一深紅の瞳が光って見える。ようやくとステンドグラスが魅せる光に照らされて見えたその表情は微かな悲しみと、それ以上に深く踏み込むことを拒む虚無。


「俺様のこと 呼んだ?やけにセンスが微妙な歌だな、俺様呼ぶんならもうちょっとこう」

「呼んでねぇよボケ。なんでそう捉えた」

「冥府って言葉が聞こえた。ついでに暇だったから」

「死ね」

「ごめん無理だわ俺様死ぬとか無理だわ」


ステンドグラスの光を遮る影。ふわりと黒い衣を揺らしてけらけらと笑うその影は、光を背にしているせいか伺い見ることは難しい。
しかしその影と対峙している白い存在は矢継ぎ早に罵倒を吐き出した。
そんな罵倒をものともせず、黒い影はゆっくりと降りると携えた刀を支えにするようにして足を地につけた。


「そんな怖い顔すんなよ終焉の神様。八つ当たりでこの辺焼き払われたら俺様の仕事増える」

「それがテメェの仕事だろうが」

「仕事したくない」

「死ね」

「だから無理」


黒い影が降りたおかげでステンドグラスを介して再び差し込む光。その光に照らされて、白い影の姿が露わになる。腰まで伸びる白い髪以外に目を引くのは、耳の上あたりから生えた黒い三対の角。竜を思わせるようなその角は、所々から青い光が漏れて見えた。
眉間に微かに寄った皺は恐らく目の前の存在によって作られたものなのだろうが、歳という概念がない神とはいえ整った顔立ちはまだ若く見えた。


「暇だった、ってのは本当だ。だからついでに警告に来てやった」

「…警告?」


黒い影が優雅な動きでふわりと宙に浮き、座るように足を組む。
暗闇でも光る淡い青色の瞳が、すっと深紅に染まったような気がした。


「あの創造主には 手を出さねぇ方がいい」

「……ミコトのことか」

「お前が何考えてるかなんて俺様にゃすぐ分かる。けどそれは」



誰がみても、この俺様から見ても無謀だ。






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