02 青の狩人
 



窓の外は青天。『理想郷』の王宮直下にある騎士団『ユートピア』に迎え入れられたルークは指導役兼コンビのカムイ、そして所属先である遊撃部隊『リヴァイアサン』のリーダーであるキースと共に長い廊下を進んでいた。


「そういやお前スピカの推薦って言ってたなぁ。そもそもココに来た理由ってなんだったのよ?」
「ここに来た理由はあれっす、伝説の騎士」


ルークがそう答えるとキースは「ああなるほどね!新人はみんなそう言うよ」と納得した表情で言った。ルークの言う"伝説の騎士"とは伝承で伝わるようなものではなく、現役でこのユートピアにて活躍している者の事を指している。
その者の名前は"クオン"というのだが、実際キースが彼に会ったことがあるわけでもなく、純粋に活躍を耳にした程度であるのだろう。
彼の評判はさまざまである。人殺しや詐欺師など、ユートピアに撲滅の対象としてとらえられている犯罪者でもない限り悪い話などは聞かないが。


「あいつはどこに行っても新入りの憧れ的だなー、いい加減おいらも嫉妬しちゃうね」
「俺もああいう風になりたくてここの門叩いた訳っすよ、ただここは仲間と連携しながらの共闘が出来なきゃダメじゃないっすか」
「そーそー。新米の大半は『リヴァイアサン』に配属だからね」


ユートピアには大きく分けて3つの部隊に分けられている。まずはキースが率いる遊撃部隊『リヴァイアサン』。最も所属人数が多く、そして基本的に数人単位でチームを組み行動し、街の治安維持や警備にあたっている。事件が起これば最前線に出るのも彼らである。
次に援護部隊『ユグドラシル』。表だって戦線に立つ事はあまりなく、怪我人の治療などの活動を基本としている。無論戦闘が出来ないわけではなく、前線に立つ『リヴァイアサン』の面々と協力しながら後方支援を行うこともある。女性騎士だったり、別部隊に所属していた者が移動してくることも多い。

そして最後に『ドラグーン』。
彼らはユートピアの基本である「少数隊を組んでの行動」の規則に囚われず、単独での行動、任務遂行を許された極めて数が少ない部隊である。
単独行動果ては極秘任務の遂行まで、重要な行動が許された理由には類稀なる才能を所持していることにある。基本的に新米は余程秀でた才能などがない限りは配属されることはない。異例として現在『ドラグーン』のリーダーを務める男は実力のみでのし上がった『ヒューマン』である。
かくいう先ほど話題に上がったクオンという青年もこの『ドラグーン』の所属である。

3つの部隊の見分け方としてはリヴァイアサンは青色、ユグドラシルは緑色、ドラグーンは赤といったように各自の色で分けられた腰の装飾を身に着けており、リーダー3人は部隊ごとの色をした耳飾りが特徴である。
リヴァイアサンのリーダーであるキースももちろん左耳に青い耳飾りを身に着けている。


「別にドラグーンに所属できなかったからと言って凹む理由にはならないがな」
「カムイの言うとーり。あいつら化けもんだし(実力が)」
「でもキースさんだってとりわけ優れてるからリーダーになれたわけっしょ?」


ルークが頭の後ろで手を組んで言った。キースはへへん、と少し威張った様子で笑う。


「おいらは伊達に"三強"なんて呼ばれてねーよ、もちろんおいらにしかできない技だってある。ドラグーン行きでも可笑しくねーな!」
「それでも行かないことに理由でもあるのか?」
「あー、カムイには話してなかったっけ。まぁ長くなるから今度な!」
「いや興味があるわけでもないんでいいです」
「カムイくん辛辣ぅ」


キースはさして気にした様子もなく軽快な声色で言った。


「青の狩人!」
「……青の狩人?」
「おいらの通称だよ。覚えておいて」


ルークは頭に疑問符を浮かべていたが、カムイはもはや聞きなれているのかさして表情にも態度にも変化はなかった。
青の狩人というのは本人が言っている通りキースの通称、二つ名のようなものである。その名前の由来は、おいおい話していくとする。


「さーて粗方内部は回ったかな、なにか聞きたい事とかある?」
「施設に関しては問題ないっすけど。気になってたのはあの時キースさんと一緒に歩いてきた騎士さん、あれは誰だったんだ?」


ああ、とキースは声を漏らす。しかしルークの問いに答えたのはカムイだった。


「双竜二対、その位聞いたことあるだろ。あの人はグラディウスさんだ」
「え、だって一人だったじゃん」
「わけあってもう一人は今王都にはいない。グラディウスさんはそのもう一人を探してる所だ」


双竜二対、簡潔に言えばオーディンに直属で使える近衛兵である。ユートピアに所属している訳ではなく直接王に使えている特別な存在だったりする。
二対とあるだけに二人いて、一人はそのグラディウスという青年なのだがもう一人が不在だという。


「不在の理由は俺も知らないが」
「まぁ気にせずおいらたちは活動しろって事。ほら案内も終わったし飯でも食いに行こうぜ」
「俺はやることがあるので遠慮します」
「カムイ行かねぇの?」
「やることがあると言ったろう。指導役である限り極力俺はお前と行動するが、一線くらいは敷かせろ」


そう言ってカムイは踵を返していく。背中を眺めつつルークは「そっけねぇやつ」とぽそり呟いた。その横でキースが「あいつには傍にいるべき奴がいるんだどよ、おいらも詳しくは知らないけど」ほら行くぞ〜と手を引いた。


「そばにいる人?」
「誰だっけなー、"しん"とか言ったっけなー」


そんなことよりおいらとユグドラシルの女の子ナンパしにいかねぇ?

遠慮しまーす雰囲気で察してたけどアンタやっぱそういう性格だったのか。




********


「そうか…では今のところ目立った動きは無いんだな」
「ああ。だが油断はできないぞ、引き続き頼む。お前にしか頼めないんだ、リエーフ」


暗い路地裏、グラディウスが真剣味を帯びた表情でそう言う。彼の向かいに立っていた巨大な影はゆっくりとした動きで頷いた。
成人男性を優に超える体躯、人とは違う隆起した四肢に鋭い爪。浮き出た鱗と天を衝かんばかりに伸びる角。

人間ではない、まさに竜そのものといった風貌のそれはリエーフと呼ばれた。


「お前が俺を頼ってくれるようで何よりだ。騎士団を抜けたとはいえ未だ王への恩義は忘れていない。最善を尽くそう」
「ああ…頼もしい限りだな。…俺は引き続きノクターンを探す。その事についても、なにか分かったことがあればすぐ知らせてくれ」
「分かった。グラディウス、くれぐれも早合点はしないようにな」


さて、俺もそろそろ行こう。また子供たちに捕まって滑り台にされてはたまったものじゃない。満更でも無さそうにそう言ってリエーフはずしりずしりと重い足音を立てて歩いてゆく。グラディウスは「早合点などしていないさ」と小さく呟いて、空へ飛び立ったリエーフを見送った。






―――next.



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