01 『理想郷』
 



この世界には大きく分けて4つの大陸とそれぞれの大陸に適応するため独自の成長を遂げた4つの種族が存在する。

4大大陸、その名はそれぞれ『極国(きょくごく)』、『海底都市(アトランティカ)』、『天廊(てんろう)』、『理想郷(アガルタ)』。
そしてその4つの大陸には各自適応した人種、一般的に見る人間の容姿をした『ヒューマン』、獣のような耳や尾を持つ『獣人族』、翼を持つ『翼族』、最後に竜の特徴を色濃く残した極めて数の少ない『竜人族』。
先達て説明したように4つの種族はそれぞれに4つの大陸に適応している。極国は人間のみならず生物が最も多く生息しヒューマンの割合が多い。
海底都市には獣人族が、天に存在する天廊には翼を持つ翼族が。理想郷には竜人族が、といったように大陸に適した種族が住まう。

さて、舞台は『理想郷』。4つの種族の中でも最も少なく、そして最も暗い過去を持つ竜人族の話を始めようか。






『理想郷』は王政で成り立っている。竜人族は寿命が4種族の中で最も長く、数万を超えて生きる者もいる。しかし理想郷は国として成り立ってからまだ月日が他3大陸と比べ短く、その桁はまだ三千を超えていない。最も古いのはやはり極国であり、当初は極国と天廊のみだったようだ。そこから分離して出来上がったのが海底都市と理想郷である。
しかしながら竜人族は理想郷の完成より遥か前から存在していたという。伝承では『遠い過去に存在していた神格の子孫』であるとかなんだとか。真実は謎。


「理想郷が完成する前…一つの大きな戦争が起きた。君達も知っている、WorldCrisis…『世界危機』さ。その名前の通り、世界ごと崩壊しかねない最大規模の"戦争"」


静かな王の間。玉座には誰も座っていない。本来ならば王である『オーディン』が座しているのだが、王の間には3人しかいない。 玉座の一つ手前の壇に立ち優雅さを感じさせる仕草で本のページをめくる青年が、視線を本から前へ移した。薄紫色の髪が揺れる。
金髪に黒のバンダナを身に着けた、蒼と紅のオッドアイをした青年。その斜め後ろには黒髪に黒いジャケットを身に着けた眼鏡の青年が控えている。


「本来『創り直し』というのは定期的に起こっていた現象だった。古くなったものを捨てリサイクルするのと同じで、世界もそうやって少しずつ作り直されていたのだけれど…」


"定期的"に起きていたその『創り直し』は徐々にそのスパンを短くして、数万年に1度という単位で行われてきたそれが果てには数十年、数年に一度というようにかなりの頻度で崩壊と言う形で『作り直し』が起こるようになった。


「原因としては…今は無き"神格"の暴走といったところか」
「伝承ではそう伝えられているけれどね。そしてその最後の作り直しが今言った『世界危機』と呼ばれる戦争さ。神格と人類のね」


黒髪の青年の言葉に、本を持った青年が答えた。


「その戦争が、この"理想郷"という国を作るに至った切っ掛けだった訳で……まぁ、細かい話はここまでにしようか。どうやら難しい話は苦手なタイプの子だったようだね」


少し冷ややかな視線は金髪の青年へ。器用な事に立ったまま寝ている。はあ、と一つため息を吐いた黒髪の青年が手を握り拳に変えて少し上に上げると、そのまま重力に力を(結構)込めて振り下ろした。


「いっっ…………!!!!!」
「起きろ馬鹿。王が居らっしゃらないとはいえ、大臣殿の前だぞ無礼者」
「っっってぇぇぇ…何すんだよカムイ…」


寝ていた青年が目尻に涙を浮かべながら頭を押さえ、黒服の青年―カムイを睨む。カムイは表情を変える事も無くついでと言わんばかりに脛に蹴りを加えて言葉には出さず「真面目に聞いていろ」と告げる。


「…こほん。ルーク=アンビエント、君がこの王宮直属の騎士団『ユートピア』に配属されたのは他でもなくこの僕…スピカの推薦だ。ここにいるのが僕とカムイだけなのが幸いだよ…他の皆が居たらいくら僕の推薦とはいえ放り出されるからね」
「へーい…すいません。流石に王様の前ではちゃんとします」


金髪の青年の名前はルーク、騎士団『ユートピア』に配属された新米騎士である。配属されるにあたって大臣であるスピカにこの国の沿革などの話を聞いていたところだったのだが、如何せんそういう小難しいものが苦手な故寝てしまったようで。
後ろで控えていたカムイはルークの指導役兼ペアとして選ばれた不幸…否災難な先輩と言ったところか。


「そろそろ王がお見えになる頃かな」
「…そのようですね、丁度」


いらっしゃいました、というカムイの言葉と共に開かれた玉座の斜め後方に備えられた扉。開かれたそこから近衛兵であろう数人の騎士が横に並び、入ってきたのはただならぬ威圧と荘厳さを兼ね備えた、如何にも『王』と言うに相応しい男。がしゃり、と鎧が擦れる音を立てて、玉座へと歩みを進める。
その後ろを二人の騎士がついて歩く。一人は黒髪を真ん中で分け、三叉の槍を携えた精悍な顔つきの青年。もう一人は騎士と言うには軽装をした群青色の髪と傷痕のある左目が特徴の青年。
王が玉座へ座り、頬杖をつく。後ろに控え歩いてきた二人の騎士はその脇に立った。


「…堅苦しい挨拶は良い。貴殿がルークか」
「えっ、あ、はいそうです他にルークってやつが居なかったら俺です」
「おい馬鹿ルーク、王の御前だぞ馬鹿」


カムイが注意(というか罵倒)をすればルークが「やべっ」と小さく焦りの声を漏らした。恐る恐る視線を王――『オーディン』のもとへ向ける。


「なに、気にするな。言っただろう堅苦しい挨拶は良いと。スピカの推薦と聞いてどんな精鋭かと思ったが、ふむ。即戦力にはなるのか」
「少々共闘には不向きですが実力はあると判断しました。が、遊撃部隊に所属となると共闘は避けて通れない故」
「カムイを付けた、ということか…わかった。キース」


オーディンが脇に控えていた二人の騎士のうち一人に声を掛ける。キース、と呼ばれて反応したのは群青の髪に傷跡のある左目が特徴の軽装騎士だった。
キースは「ほいほーい」と軽快な声色と口調で前へ出るとルークを見やる。「おー、こいつがおいらのトコに来る新米?へーぇ」とちょろちょろしつつ。


「キース、大方の説明はお前に任せる」
「えーおいら説明苦手なんだよなぁ……ううむ」
「ルークよ、不明な事があればキースに聞け、貴殿の配属先のリーダーだ」
「あ、はい」


キースはやはり軽快な態度でルークに「よろしくぅ!」と肩を叩いた。カムイも同じく『リヴァイアサン』所属のようで、困ったことがあればキースもしくはカムイに聞けばよいとのこと。
オーディンは「ユートピア」はこの『理想郷』の平穏並びに『世界』の真理を求めるものだという。その言葉が何を意味するのか、深くまでは分からなかったがとりあえずキースの案内の元、王宮を見て回ることとなり解散。






王の間に静けさが戻る。


「さて、後回しにしてすまなかったな。報告を聞こう」
「…は。未だ"奴"の消息は掴めていません」
「そうか…引き続き探せ、殺さず捕らえよ」


オーディンの前に跪くもう一人の騎士。頭を上げ、立ち上がり踵を返そうとしたその時、彼を引き留めたのはスピカだった。


「君一人で捜索するのは骨が折れるだろう、『ドラグーン』から少し人を借りたらどうだい」
「……いえ、俺一人で十分です。奴は必ず見つけてみせます」


『双竜二対』の名に懸けて。



騎士は立ち去った。王の間に残されたオーディンとスピカはその背を無言で見つめるだけだった。









―――next.



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