あなたの背中(火積×かなで)




火積の背中の上でかなではあたふたしていた。


「火積くん、ごめんね、重いよね?」

「…重くねぇ」

「で、でも…っ」

「あんたは黙って、掴まってりゃいいんだ…」


低く掠れた声は元来のものだが、他人が聞けば怒っているようにも聞こえる。
かなでを落とさないよう腰を曲げた姿勢で歩くのは正直楽じゃない。
だが、小柄なかなでひとり分の体重なんかまったく気にならず、問題は別の場所にあった。

いくら不可抗力とはいえ、女子高生の太腿を持って支えるのは結構堪える。
ズボンならまだしも、制服なのだから対処のしようがない。


火積はできるだけ神経を使ってかなでから体を離しつつ背負っている。
膝と腰への負担は、計り知れなかった。


「…はぁ。あんな場所で転ぶなんて情けないなぁ…」

「…別に、あんたは悪くねぇだろ…」

「いやいや、だって今こうして火積くんに迷惑かけてるし…」

「迷惑なんかじゃ…ねぇ」



寮への道を歩きながら、火積は何も考えないようにした。
考えたところで、余計な方にしか作用しないのはわかりきっている。










「火積くん、優しいね…好きになっちゃいそう……」


かなでは肩に置いていた手を首に回し、ぽすん、と体重を預けた。
広い背中、心地好い体温。

寄り添うように密着した体に、火積は顔に熱が集まるのがわかった。

「…そうやって、冗談言うのは…よしてくれ……」


免疫がないのだから。
今だって背中にあたっている柔らかい何かが擽ったくて堪らない。


「…おい、あんた」



「………」



「…?」



だらりと体重のかかり方が変わる。
耳元にかかる小さな呼吸が、かなでが寝てしまったことを知らせた。


「…っ、!」



心臓に、悪い。
この上なく、心臓に悪い。





だけど、

今なら─…




「か、な…で……」


いつかそう呼ぶ日が来るのかはわからないけれど、安心しきって眠る背中越しの体温に言葉を乗せてみた。


今この空に輝り瞬く流星群の、ひとつの星くらいなら、この願いを叶えてくれるだろうか。




+Fin+




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