そして、事は起こった。
「お父さん……。お話があります。」
成人式の前だった。誕生日が6月だったみどねぇは、
もう20歳になっていたけど。
「なんだ。」
「この家を……出たいです。」
「今までのことを言うつもりか?」
「……。」
「緑里。」
みどねぇは、何も言わなかった。
長い間、この家族の間で一番近くみどねぇを
見てきたわしは、悟った。
―違う。言うんじゃない。
みどねぇの夢、施設への恩返し。
それがしたいんだってわかってた。
なのに。あの人は、許さなかった。
「許さん。」
「お父さん!」
「俺は、お前の父ではない。」
「……。考市さん。」
みどねぇが、あの人の名前を呼んだ。“お父さん”と
呼んできた声とは思えない、震えた声で。
「とにかく、許さん。撥絵にも、言っておく。
お前は、この家からでることができない。死ぬまで、だ。」
みどねぇは、それからみるみる変わっていった。
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