大人のキス | ナノ


向かい合って、ふたり名前を呼びあって、触れ合う唇。
いったん離して、もう一度。今度は首に手を回された。唇と衣服越しに伝わってくるアルムの体温。
まるでひとつになったような、そんな心地の良さを感じてルカが目を閉じた時だった。

前触れなくぬるりとした何かが唇を割って侵入してきて、意識が引き戻される。
目を開くと、アルムの顔。先ほどまでの自分と同じように、目を閉じていた。少し、いやかなり、力が入っていたけれど。

それに、距離。
今までにないほどに近くにあり、入ってきたのはアルムの舌なのだと理解した。ルカは恥ずかしさのために、反射的に顔を仰け反らせた。

すると、首に回された手が肩へと移動して、ぽすんと押し倒されてしまう。
その後、手はあちらへこちらへ何度か忙しない動きをみせた後、ルカの頭をがっちり押さえつけるのに落ち着いた。離れるなんてとんでもない、と言っているような。

「はッ、…ルカッ、ルカ…、ふ、…ゥン、」

掠れた声に、荒い息遣い。明らかに、いつもと違う口づけだ。
もう気持ち良さなんてどこかに飛んで行っていて、ルカは抗議のつもりで口をぱくぱくさせたが、それも悪かった。
好機到来とばかりに、一方的に舌を絡められて吸われて。かと思えば、唾液が流れ込んできたり。

(い、き、が…)

飲み込んでも飲み込んでも入ってくる唾液。
ルカはアルムに付いていけなくなってきた。空気を求めて必死に顔を逸らそうとしても、それ以上の力で阻止されてしまう。
鼻呼吸などすっかり抜け落ちたくらいに混乱して、いよいよ頭がぼうっとしてきた。このままでは窒息死してしまう。

(アルムくんの、腕の中で、なら…―――何て事を考えているんだ)

頭の中でそんな事を考え出した自分を叱咤する。
想いは通じ合ったばかり。
大好きな彼の事をもっともっと知りたいし、一緒にいろいろな事をやりたい。行ってみたい。そのためには、こんな所で事切れる訳にはいかないのだ。

気を強く持ち、アルムが体の力を抜いた瞬間を見計い、渾身の力で両胸を押し上げる。
何とか顔を離す事に成功した。空気が再び肺を満たすような感覚に、ようやくルカはほうと胸を撫で下ろす。

当のアルムは何が起こったのか理解できていないらしく、茫然とした顔。唇の隙間からはみ出ている舌からつうと糸引く唾液が少し官能的だった。表情との対比でルカは思わす笑ってしまう。

「すみません、息が続かなくって」
「鼻でも息できるじゃない」

呼吸を整えてから告げれば、頭からすっかり抜け落ちていた事を言われてしまい、ルカは「言われてみればそうですね」とはにかんでみせた。

「でもアルムくん。突然あんな事をされたら誰だって忘れてしまいますよ。そのくらい、ものすごい勢いでした」
「だって、ルカをびっくりさせたかったんだもの。僕もやればできるんだぞって」
「ふふ、しかと味わいました。死を覚悟したくらいに」

悪戯っぽく笑ったルカだったが、取り返しのつかないような言葉を聞いたアルムは心底気まずそうな顔をして。

「うっ…、ごめん。次はルカの事も考えて、もうちょっと優しくするから」
「ええ、お手柔らかにお願いしますね」

ルカは微笑みながら告げる。
そして口直しのようにひとつ、アルムの唇を啄ばんだ。



まだやってないふたり

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