にんじんケーキつくるよ | ナノ
にんじん克服作戦




宿の厨房を借りて、ちょっとしたケーキを作ってみた。
クリームとかフルーツとかがこれでもかって載ってる大層なやつじゃなくて、焼いた上に気持ちクリームを絞ったくらいの。

ルカは甘いものが大好きだから、きっと喜んで食べてくれる。

「ルカ!おやつにケーキ作ってみたんだ。一緒に食べない?」
「喜んで。私、紅茶を淹れて来ますね」

宿の部屋で本を読んでいたルカを誘うと、ケーキと聞くや否や輝くような笑顔を見せて備え付けの簡易キッチンに向かって行く。
丁寧かつ順序よくお茶を淹れるルカはとても様になっていた。よく淹れるんだろうな。

「はい、できました」
「ありがとう。凄く格好良かったよ。特にカップに注ぐところ」
「光栄です。紅茶は高い所から注ぐと、空気が入って美味しく淹れられるんですよ」
「そうなんだ。今度真似してみよう」
「是非お試しください。でも、火傷には気を付けて下さいね」
「うん、わかった」

二人でいただきますをして、ケーキを食べ始める。
うん、我ながら良くできてると思うんだけど。
何気なくルカの方を見てみる。よし、知らずに食べてるぞ。

「アルムくん、美味しいです。このにんじんケーキ」
「本当?やったあ!……ん?」

あれ、僕、ケーキとは言ったけど、何のケーキかは言ってないよな?
おかしいぞ。

「ふふ。ケーキとしか言っていないのに、どうして分かったんだ?という顔をしていますね」

僕の疑問はルカにも分かっていたみたいで、イタズラっぽく笑いながら言われる。

「うん。色々調べたりしてこれなら大丈夫って思ったんだけどな」
「生地の色が似ていたので、もしかしてと思いまして。実は以前、クレーベも同じ事をやっていたんです」
「え」

ルカによると、実はマチルダもにんじんが得意でないらしい。意外だ。
クレーベがどうにか食べてもらおうと考えて、行きついたのが大好物の甘いものと一緒にしてみる、というもの。
本や店で一生懸命にレシピを研究して、何度も何度も試作していたらしい。

「試作段階で、味見役として白羽の矢が立ったのが私でして…」

それはそうだ。にんじん嫌いの人に食べさせるものなんだから、味見も同じにんじん嫌いの人にしてもらわなければ、食べられるという確信が持てないから。

「……って事は、もう見たくないレベルで食べさせられてた…?
「…はは…あの時にはもう戻りたくはないですね。山のような失敗作を胃に収めましたが、結局完成できずに終わってしまいまして」

ケーキを食べながら、かつての出来事を話すルカ。

「なので、こんなに美味しいにんじんケーキは初めていただきました。アルムくんは料理上手ですね」

今、ものすごく嬉しい事を言われたぞ。
思っていたのと少し違う結果になってしまったけど、ルカが喜んでくれたからそれでいいかな。


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