おんせん | ナノ
FEHの軸のお話
未プレイの方に説明しますと、ダンジョン最深部に温泉があったよ
というイベントが現在開催されているのです


洞窟の最深部にあったものは、意外や意外。温泉だった。

“霧にけむる迷宮”とはなるほどよく言ったものだなと、ルカは思った。同行していた英雄たちは、はしゃぎながら温泉に飛び込んでいる。

「ルカ、ルカ!僕らも早く行こうよ!!」

小さな子供がするように、ルカの鎧下を引っ張りながらアルムが告げた。よほど楽しみなのか、瞳は星のように煌めいている。
軽く頷いて返事をすれば「先に行くから!」と身に着けている鎧や衣服をポイポイと脱ぎ捨て温泉へ向かって行く。

「アルムくん!脱いだものはきち…ん…と……、」

脱ぎ捨てられたものを拾い集め、駆けていくアルムの背中に顔を向けた時、ルカの目にあるものが飛び込んできた。

彼の両肩の下…ちょうど肩甲骨のあたりに刻まれた、真新しい数本の引っかき傷。
その傷にルカは覚えがある。否、覚えがあるどころではない。

昨夜の記憶が蘇り、ルカの頬は朱に染まった。

割り当てられた兵舎の一室。ギラギラした瞳で自分を押し倒してきたアルム。
明日は出撃の予定でしょうとやんわり断れば、今度は「無理はさせないから……ね?」と、あざとく小首を傾げて迫ってくるものだから、つい了承したものの。

案の定、ルカは歯止めが利かなくなったアルムにとことん貪り尽くされた。

終わった後、小言の一つでも言ってやろうと思って口を開いても、しょんぼりした顔で一言「ごめんなさい」と言われてしまえば、たちまちルカは絆されてその気が失せてしまうのだ。

体位もとっかえひっかえされ、もう何度されたかは覚えていないけれど、一生懸命にアルムの背やベッドのシーツにしがみ付いていた事だけは覚えている。

力加減もすっかり忘れていたので、件の傷はその時にできたのだろう。つまるところ、原因はルカということである。

まじまじと自分の爪を見つめる。手入れは少し前にしたので、伸びすぎてはいない。
が、アルムを傷つけてしまうのなら、頻度を増やさなければいけないとルカは思案した。

「ルーカーー!まだー?」
「はい、今行きます!」

湯船から自分を呼ぶ声がして、ルカは慌てて衣服を脱いだ。アルムの脱ぎ捨てた鎧と服もきちんとまとめて、それから湯船へと向かった。

「ルカ、随分遅かったね。何かあった?」

湯船の中、不思議そうに尋ねてくるアルム。

「アルムくんが脱ぎっぱなしで行ってしまうからですよ」

昨日の事を思い出して真っ赤になっていたなどとは口が裂けても言えなくて、つい彼のせいにしてしまった。
言い訳をされると思いきや、苦笑しながら謝罪されてしまい、ちくんと胸が痛む。

「分かってくださればいいんです。さ、ゆっくり温泉を楽しみましょう」

それを悟られないよう、いつもの笑みで告げれば途端にアルムは目を見張って。

「えっ、長風呂競争しないの?」
「しません。今日は他の英雄さんもいらっしゃるんですよ」
「ちぇー、今日はいいハンデついてるからルカとでもいい勝負できると思ったのになー」

祖父に鍛えられたアルムが常勝しているのだけれど、二人して入浴する時はだいたい長風呂競争が始まる。
アルムが“いいハンデ”と言ったのは、彼が先に湯船に浸かっていたからだろう。

__________


競争が出来ずにアルムが不満そうな顔を見せたのも一瞬だけで、すぐルカに話題を振り始めた。
ぽつりぽつり会話を交わしていると、帰城を伝える仲間の声。

「もうお終いかあ。もっと入ってたかったな」
「続きは帰ってからでいいじゃないですか。長風呂競争でも何でも付き合いますから。ね?」
「うー…ルカがそう言うなら、そうする」
「なら、早く支度をしましょう。先に上がっていますね」

立ち上がり、湯船を歩くルカにアルムも続いた。
自分の前を歩く背中は入浴で火照り、おまけに昨夜これでもかと散らした所有印が残っていて、食い入るように見つめてしまう。
情事を彷彿とさせるその光景は、アルムの欲情がそそられるには十分な材料だった。
今すぐ事に及んでは、ルカから大目玉を食らいそうなので、何とかブレーキをかける。

「ねえルカ」
「なんでしょう?」
「帰ったら本当に何でも付き合ってくれるんだよね」
「ええ、もちろん」
「約束だよ」
「はい」

しっかり言質を取ったアルムは、今夜もルカを貪り尽くすのだった。





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