しょやじゃないよ | ナノ
初夜ごっこ
散歩で汚れた体を綺麗にしてから部屋に戻り、備え付けの小さなランプに火を灯す。
優しい橙色がぼんやりと二人を照らした。ベッドサイドに香油の瓶をコトリと置いて。
「怖くないからね。僕だけを見てて」
ベッドの上に腰掛け、啄ばむようなキスを数回した後。
“初夜”を実行するつもりなのか、ルカの前に手を差し出してアルムは告げた。
ルカも微笑み、差し出された手を取って。
「はい、よろしくお願いします」
返事を聞いて満足げな顔を見せ、そっとベッドにルカを横たえる。髪に額に、頬にとキスの雨を降らせた。
キスが唇に移ると、お互いから漏れ出る小さな吐息。
角度を変えて何度も重ねた後、頃合いだろうかとアルムが舌を差し込む。ルカは肩を震わせたが、すぐに自らのそれを絡ませた。
行為の前の深いキス。
アルムはそれを前菜のようなものと思っているので、いつもはすぐに唇を離してしまう。
けれど、今日は甘くふわふわ浮いたような気分になって、かなり長い時間ルカの口内を貪った。
ぷは、と唇を離した時にはルカは薄暗い中でも分かるくらい頬が上気していて、呼吸も少し切れ切れだった。
「……アルムくん。今日は随分と情熱的でしたね」
「うん。なんだか気分が高ぶっちゃって」
ルカの手の甲にひとつキスを落として、名残惜しいけれども繋いだ手を離す。
まずは自分の服を脱いでから、するするとルカの服をはぎ取っていく。もう慣れたものだ。
露になった体には、日々の努力の賜物か。相変わらずしなやかな筋肉がついている。
早く触れたくて、アルムは唾を飲み込んだ。
「やっぱりルカは綺麗だね。ずっと手元に置いておきたいくらい」
つぅ、と腹筋の溝に指を添わせて言えば、ルカは困ったように眉を下げて。
「またそんな事を言って…。年上をからかうものではありませんよ」
「本当だって。ここに…、ここも。それから…」
手のひらで脇腹をゆっくり撫てて、首筋、鎖骨と残せる部位全てに所有印を刻んでいく。
それに乗じて弱い所に触れてやれば、ひゃっ、と雰囲気に似つかわしくない声を上げられた。
「うん、びっくりした声も素敵だよ。でも今は、もっともっと色っぽい声が聞きたいかな」
言うが早いか、アルムはルカの胸元に手を伸ばした。
指先で周りをくるくるなぞり、突起が尖りはじめたところで爪を立ててみる。
ルカは微かに反応を見せた。とはいっても、引き攣るような呼吸をしただけで声は上がらない。
指の腹で押してみても、結果は同じ。ならばもっと強い刺激を与えてやろうと、きゅっと摘み上げる。
「アぅっ…、ルッ…、ム、くんっ……むねっ…、いっ…、いじ、ら、ないで…」
「いじるの嫌?もう我儘だなあ。じゃあ舐めてあげる」
「ちが、…ひっ……」
ふるふる首を横に振ったのは見なかった事にして、突起を口に含んで吸い上げた。
「ルカ、おいしい」
からかうように言ってみる。返事はなかった。余裕がないのか、それとも聞こえていないのか。それをいいことに、更に強く吸い上げる。
「…ッ、……う、ぅあ、あっ…」
ようやく上がり始めた艶やかな声。もっと聞きたくて、舌でつついては舐めるを繰り返す。
時たま歯を立ててやれば、それは一際大きくなった。
そろそろこちらも、とルカの陰茎に目を向ける。触って欲しいとでも言うようにゆるゆると頭をもたげ始めていた。
いったん胸への愛撫を止め、その芯に手を添える。まだ、刺激は与えない。
名前を呼ぶと、潤んだ瞳がアルムを見つめた。
「ここ、もうこんなになってる。胸触られただけで興奮するなんて、ルカったらいやらしいんだ」
ルカをこんな風にしてしまったのはアルムなのだけれど、それはいったん隅の方に置いて満面の笑みで言い放つ。
この言葉が引き金になったのか。
ルカの瞳の潤みが増し、溢れ落ちたしずくがひとつ、ふたつと頬を伝った。それを拭い取る事もせずに、涙混じりの声で。
「……あ、…ある、む、くん、の………う、そ…つき…」
「…へ?…どうして?」
思いもしなかった言葉に、アルムはきょとんとした顔で返す。
「…ぜ、ん、ぜん、やさしっ…、く…、な…」
(……?……あっ!)
言葉の途中で耐え切れなくなったのか、ルカはそれ以上は言わず手のひらで顔を覆ってしまった。
それから聞こえてきたのは、声を詰まらせるような音。
(まずい。初夜しか覚えてなかった)
本当の初夜はいっぱいいっぱいだったので、やった事のない事をしたいと思って始めたのが悪かった。
見た事のない反応ばかりされて“優しくする”が頭の中からすっかり出て行ってしまって。
(でも、まさか泣いちゃうなんて。いつもみたいに乗ってきてくれると思ったんだけど)
調子に乗り過ぎたとアルムはほんの少しだけ自分を責めた。
泣かせてしまったのは何度も重ねた行為の中でも初めての事。ひょっとすると、普段の方が優しかったかもしれない。
「ごめんよ。ルカがあんまり綺麗で色っぽいから、優しくするの忘れてちょっと意地悪しちゃった」
慌てて抱き締め頭を撫でながら、アルムは素直に謝る。
ルカの嗚咽は収まったが、手のひらは相変わらず顔の上。
「ね、もう意地悪しないから、顔を見せて?」
退けるよ、と声を掛けゆっくりと顔を覆う手を退ける。
涙で濡れた頬と赤くなってしまった瞳を見て、ちくりと心が痛んだ。
まばたきで流れ落ちてきた涙を舐め取り、宥めるようにキスを数回。それから小首を傾げ、甘えた顔で。
「今度こそ優しくする。だからもう一回だけチャンスをくれないかな」
「……アルム、くん、たら…」
一回だけですよ?と告げる声はまだ涙声だが、微笑みを見せてアルムの頭を撫でてくれた。いつものルカだ。
「ありがとう!じゃあ、早速…」
額にキスを落としてルカの陰茎に手を伸ばし、握り込んで上下に擦ってやる。
「あッ!!……─ぅ…ッ、……ふ、」
触れた直後、甘い声がアルムの鼓膜を震わせた。しかし、まだ恥じらいが邪魔をしているのか。すぐに耐えるようなものに戻ってしまう。
「僕しか知らないきみの声、たくさん聴かせてほしい。だから我慢しないで」
もっともっと聴きたくて、お願いと付け加えたが、中々素直になってくれない。こうなれば奥の手だ。
ふぅ、と耳元に息を吹きかけ、言い聞かせるように声のトーンを少し下げて。
「…───ルカ、」
名前を囁く。ルカは目を見開きびくりと背中を震わせた。裏筋を指の腹で刺激してやると、再び上がり始める甘い声。どうやら効果はあったらしい。
「…あぁッ、アッ、…ンンッ」
「そうそう、その調子」
触れられ続け、硬さを増した陰茎からしとどに漏れだす先走り。その助けを借りて鈴口を割るように愛撫する。卑猥な水音とともに浮かび始める腰は、更なる刺激を強請っているようだった。
「アッ、……アッ…、ん、あるっ、……む、く…、もっ……」
「……、うん、いいよ」
先程よりも、少しだけ力を込めて手を上下させる。
「…ア、アァッ、ァ──ッ」
それからほとんど間を置かず、嬌声と共に白濁が吐き出された。
ぜいぜいと肩で息をしているルカの頭を撫でて。
「じゃあ、次は僕の番。──大丈夫。……ゆっくり、」
言葉とは反対に、せわしない手つきで香油の瓶を手に取る。返事は待たなかった。というより、待てなかった。
段階を踏むごとにキスをしたり撫でたり、泣いてしまったのをよしよしと宥めたり。余裕ぶってはいたけれど、乱れるルカに煽られて、アルムも限界が近かった。
しかし、ここで本能に負けてしまっては全てが無に帰してしまう。
理性で必死に抑えつけ香油を馴染ませた指を一本、ゆっくり後孔に埋め込む。
「───んッ!──ッあ、うぁッ、ァ、ア、」
埋め込んだ指をくねらせ、小さなしこりを探し当てくいくいと押し上げた。
それに合わせるように蕩けた声が上がり、どんどんアルムの理性を奪っていく。
(もう、三本でも…入る、かな…?)
少し解れたところで耐え切れなくなって、段階を一つ飛ばして差し込んでみる。息を詰めるような音が聞こえたが、すぐにおさまった。
数回出し入れを繰り返す。指をばらばらに動かしても痛がる素振りを見せないのをいいことに全て抜き去って。
「────ルカ、入れる、よ。……ちょっと、ずつ、だから、心配しないで」
安心させるために微笑みながら──のつもりではあったけれど、果たしてうまく表情を作れていただろうか。
アルムはあまり自信がなかったが、ルカは頷き、しがみ付いてきてくれた。
いきり立った陰茎を入口にあてがうと、呼吸に合わせて少しずつ腰を進めていく。
内部は温かく、そして思いの外軟らかくて。達してしまいそうになるのを堪えながら。
「…へへ…。ぜんぶ、はい…、った。……痛く、ない?」
「……ええ、──、……でも、」
でも、と来たものだ。何を言われるんだろう。できるだけ平静を装って次の言葉を待つ。
「幸せ、すぎて…どうにか…なって、しまいそう…です」
熱に浮かされ潤んだ瞳に、ふにゃりとした笑顔。その表情は反則すぎるだろう。
言葉のたどたどしさも手伝って、残り僅かだった理性の壁が音を立てて崩れ去っていくのが分かった。
「ごめん。もう“初夜”は、お終い」
「えっ…、アルムく…、待っ、…い゛ッ、…あッ、アアァッ──」
逃げようとする腰を押さえつけ、堪えていた分を取り返すように大きく突き上げる。
「──ッ、…あァッ、ンッ、アッ、アッ、」
ルカの事などお構いなしの動きではあるが、無意識でも弱い場所を的確に責めているのは、回数をこなしたせいか。
悲鳴に近かった嬌声は、どんどん甘美なものに変わって。
「アッ、ァッ、ある、むっ、くん…、ァ──アッ、あ、るむく、っ…」
縋るように名前を呼ばれて、離したくないとばかりに腰の辺りで足を絡められた。
こんな事をされて、耐えられる者がいるだろうか。いや、いない。
もう、我慢の限界だった。
「───ルカ…、ルカ…ッ、」
アルムがルカの名前を呼んだのと、中で達したのはほぼ同時だった。
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「初夜ごっこ、楽しかったね。またやろうよ」
後始末も終え、ベッドの中。二人でくっつきあって話をする。
邪な雰囲気もなく、ほのぼのしていた。
「…おや、最後の方で急にお終いにしたのは誰でしたっけ?」
くすくす笑うルカに、ぷくと頬を膨らませて。
「ルカがあんまり煽るんだから仕方ないだろ。それにしても泣いちゃったのは驚い…」
「あれは演技です」
「えっ、とてもそうには見…」
「演技です」
「…はは、そうなのか。すっかり騙されちゃったよ」
どうにも否定を許さない笑顔で言われてしまったので、こう返すしかできなかった。
本気か演技かはご想像にお任せします
初めて書いた濡れ場なのでぬるい上に無駄に長くて申し訳ございません
でもがんばったのでゆるして
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