末永く | ナノ



「ね、ちょっとそこまで散歩行こう」

早く早く、と少々強引にアルムは手を引き街の宿からルカを連れ出した。
片手はルカの手を握って、もう片手には少し膨らんだ皮袋を持って。賑わいのある街並みをどんどん外れて行く。

「随分大荷物ですねえ。何が入っているんですか?」

散歩をすると言っている割には少し大きすぎる荷物だ。気になってルカは聞いてみたのだけれど。

「ひみつ」

悪戯っぽく笑うと、アルムは歩幅を広げてルカの前を歩き出した。中々に気が急いているらしい。離れて迷子になってしまわないように、ルカは繋いでいる手をぎゅっと握り直した。
街から外れ歩く道はどんどん狭くなって。それがいつしか薄暗い林に変わり、終いには茂みの隙間…ほぼ獣道だった。

こんな所を歩く事になるなんて。これは散歩ではなくて探検の間違いではないだろうか。なんてルカは思ってしまった。

「もうすぐ着くから」

それからすぐ、茂みの隙間から細い光が差し込んで、開けた場所に出る。
離れた場所に蔦の絡まった小さな建物が見えた。随分と昔のものらしく、朽ちているのが遠目でも分かる。

「もしかして、目的地はあの建物ですか?」
「そう、あそこ。もう使われてないみたいなんだ」

入ろう。と、アルムは建付けが悪くなった重い扉を開く。
そう呼ぶには小ぢんまりとした広間。両端には長椅子が置かれている。
高い天井とステンドグラス。説教台の後ろにはミラ神像が笑みを湛えていた。どうやらここは教会だったらしい。
ルカが奥へ進もうとすると、アルムが繋いでいた手をくいと引いてそれを制した。

「ちょっとここで待ってて」

言って急ぎ足で説教台の前に行き、皮袋の中身をいくつか取り出しその上に置いた。
再びルカの元まで戻って取り出したのは花の冠と首飾り。狭い道を通ってきたせいか、所々歪んでしまっている所がある。

それをルカの首にかけて、次は冠を…と思いきや、アルムの腕は再び皮袋に伸びた。
今度出てきたのはシスターの被っているベール。シルクのものを借りたのだろうか。

「ええと、アルムくん?」

困惑を隠せない様子で名前を読んでみると。

「シルクから借りたんだ。ウェディングヴェールはちょっと手が出なかったから」
「ウェディング……?」

ルカはいよいよアルムのやりたいことが分からなくなってきた。
辛うじて聞こえた音を繰り返すと、アルムは歯を見せて笑った後。

「やろう。結婚式」
「結婚、式ですか…?一体どなたの…?」
「ああ、一番大事な事を忘れてた。ごめんよ」

軽く目を瞑り、深呼吸。ルカの両手を包み、真剣な眼差しを向けゆっくりとアルムが言葉を紡ぎ出す。

「……ルカ。僕と、結婚してください」

渾身のプロポーズにルカはひゅっと息を呑んだ。
返事が遅れてしまい、それがアルムの不安を煽る材料になってしまったらしい。

「……ルカ…?」

いつになく弱弱しい声に、ルカはハッとアルムの方を見る。彼の眼差しは揺れ、手も少し震えていた。
自分の大切な人と永遠の愛を誓えるだなんて、この上ない幸せではないか。
唐突な提案ではあったけれど、何を驚く必要があっただろうとルカは心の中で自分を叱咤する。

「はいアルムくん。喜んで」

返事を聞きアルムは安心したように笑う。
少し背伸びをして、ベールを被せた上から花の冠を乗せる。ひとつ頷き、ルカの頬に触れて。

「きれいだよ」

手つきも、見つめてくる瞳も、それから声色も。
全てが心底嬉しそうだったので、ルカもつられて笑ってしまった。




珍しく長くなったので一旦切ります

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