ねこちゃん | ナノ



アルムのいない、一人の天幕。自分に触れてくる手も、甘えるように抱き付いてくる腕も今はなくて。
少し前まではこれが当たり前だった筈なのに何か物足りなさを感じて、ルカはひとつ息をついた。

(グレイくん達と一緒なのでしょうか)

アルムだって、始終ルカと一緒にいる訳ではない。幼馴染たちと一緒に談笑したりふざけあったりしている時もある。

「おや…」

一人の時は一人を楽しもうと前向きに考え、散歩にでも行こうと天幕を出たところで猫と鉢合わせた。
どこかから迷い込んできたのだろうか。

出入口の前にちょこんと座り、天幕から出てきたルカをじっと見つめていた。
自分と同じ赤毛に親近感が湧く。近寄っても逃げ出す気配がないので、しゃがんで頭を撫でてやる。

大人しく撫でられてくれる事に気を良くしたルカは「少しの時間お付き合いをお願いしますね」とその猫を抱き上げて、戯れるのに丁度よさそうな草むらを探して辺りを見回した。

(あそこにしましょう)

天幕から少し歩けばいいくらいの距離の所におあつらえ向きの場所を見つけ、そちらへ向かう。
猫じゃらしが生えていたので数本摘んだりとほんの少し寄り道をしたが、すぐに目的地に到着した。
目的地と言うには近すぎるくらいかもしれない。
木も生えており、もたれかかるのにもちょうど良さそうだ。

木の根元に腰を下ろして、早速ルカは猫と戯れる。
一般的に気紛れが多いと言われる割に、この猫は随分付き合いが良い。
思う存分撫でても突然嫌がったりもしないし、腕から下ろしてやっても何処かへ行くことなく行儀よくルカの前でじっとしていた。
摘んだ猫じゃらしを目の前で揺らしてやると、捕まえようとパタパタ前足を動かしてそれを追いかけ始める。
何とも微笑ましくて、自然に笑みが零れた。

「よくできました」

ルカの少し意地悪な動きにも騙されず、見事に猫じゃらしを捕まえてみせたのでまた頭を撫でてやる。
すると、ひとつ鳴き声を上げた後。

「わあい。おにいさんにほめられたー」

突然聞こえた自分以外の声に少し目を丸くしたが、その声色は愛しい愛しいひとのものによく似ている事に気が付いて。

「言葉を話せる猫とは何とも珍しいですね?アルムくん」
「へへ…分かっちゃった?」
「分かりますよ。大好きな人の声ですから」

ルカが背もたれにしていた木の後ろから、ひょこりとアルムが姿を現した。
それからルカの隣に腰掛けて、猫を抱き上げ自分の膝の上に乗せる。

「この猫、ルカみたいだ。赤い色でくせっ毛な所とか」

毛色に関しては初めに見てすぐ分かったが、癖毛には気が付かなかった。アルムの言う癖毛を探そうと膝の上の猫を見つめていると「ほら、ここ」とアルムが後ろ頭を指差す。
成程、確かにぴょこんと跳ねてはいるのだが。

「私の頭…こんなに跳ねてます?気を遣っているつもりなのですが」

納得が行っていないのか首を傾げてから、確かめるように自分の頭を触って尋ねるルカにアルムは頷いて。

「今は整えてるからそんなでもない。でも寝起きはこんな感じじゃないか。眠そうに笑って僕におはよう言う時、髪の毛ぴょんぴょん跳ねてるよ?」
「…え…。…あっ」

アルムの指摘に思い当たる節があったらしい。
ルカは顔を赤らめて俯いてしまった。そんな彼を慰めようとしているのか、猫は移動して彼の手の甲を数回舐めた。
ざりざりした感触がくすぐったくて、思わず笑ってしまう。

見ていたアルムは、ルカが猫になったらきっとこんな感じなんだろうなと口元を緩ませた。



続き浮かばずぶつ切り終了
おゆるしください

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