火もまた涼し | ナノ
心頭滅却すれば
夏。
照りつける太陽の日差しは日に日に強くなってきた。演練の後たっぷり汗をかいたので二人してシャワーを浴びて。
それから部屋に戻ったアルムは、ぼふんとベッドへ飛び込んだ。
「ルカー。こっち来てー」
「はいはい」
椅子に座って本を読み始めたルカを呼び寄せると、彼は微笑みながらアルムの寝転がるベッドの縁に腰掛けた。
「来ましたよ。どうしました?」
「ん…ルカ分チャージ」
横になったままルカの腰に腕を回し、甘えるように頬ずりをすると。
「甘えん坊さんですねえ」
「へへ」
ルカは困ったような声を出したものの、アルムの頭を数回撫でるとそのまましたいようにさせてくれた。
いつもながら安心するいい匂いさせてるなあとか、柔らかいくていい筋肉してるなあとか思う存分揉みしだきたいとか。
如何わしい方向に向かいつつも気分が良くなったと思ったら、暑さでまた汗が滲んできた。
「暑い…」
「そうですね。夏ですからねえ」
それでも、一緒のベッドでぴったりくっついて寛ぐのをアルムはやめる気はなかった。
ルカも鼻先の方に少し汗をかいていたけれど、構わずに本を読んでいる。
「ルカ、あついー。何とかして」
ぽろりと口に出してしまったが、離れる以外にどうしようもないんじゃないかとアルムは思った。
「アルムくん。心頭滅却すれば火もまた涼し。ですよ」
ただでさえ暑いのに、ぴったりくっついているので暑さに拍車が掛かっているのはわかるのだろうけれど、アルムが考えていた事は言われなかった。
くっつかれるのは悪くないと思われているのかもしれない。そう前向きに考えた。
「心頭滅却……」
「ええ。異国の祭司が遺した言葉で、無心になればどんな苦痛にも耐えられる…という事です」
「へえ…」
聞いて、しばらくアルムは考えてから「それは無理だ」と言い切って続ける。
「だって、好きで好きで、大好きでたまらない人が目の前にいるんだ。無心になんてなれるわけがないじゃないか」
「ふふ、一理ありますね」
笑って同意したルカに、したり顔をして「でしょ?どうしてもルカの事考えちゃうよ」と付け加えて、また頬ずりをした。
「それで提案なんだけど」
「はい、なんでしょう?」
話を聞こうと本をサイドボードに置き、アルムの方に向き直る。
すると、くいと手を引かれて。ルカもアルムと向い合せで寝転がるかたちになった。
「どうせ汗かくなら、気持ちいい事しない?」
尋ねながらも答えを待たず、服を脱がしにかかっている。
「もう…断ってもどうせやるんでしょう?」
「あたり。ルカの頭の中、僕でいっぱいにするから」
期待していますよという言葉は、口づけに飲まれてしまった。
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