かすみ姉ちゃんみたいな | ナノ
まさに菩薩




ルカの天幕に転がり込んだアルム。
これといって何をするわけでもなく、穏和な表情で本を読んでいる彼を眺める。
どんな顔してても様になって羨ましいなあ。
出会った時から今までの色々なルカの表情を思い出していて、ある事に気が付いた。

「ルカってさ、普段怒らないよね。いつもニコニコしてる気がする」
「そんな事はありませんよ。気は短い方です」
「ええ…」

読んでいた本から顔を上げ答えるルカ。
余りにもキッパリ言い放たれてしまい、アルムはここ数日の事を必死に思い出した。
戦場や訓練では険しい顔をしたり声を出す事もあるが、そうでない時に見る表情は至って穏やかなものばかりだ。

それに、ルカの機嫌が悪そうだとか、怒ったとか、仲間たちからもそういった話が出た覚えもない。

「やっぱり見た事ないよ。我慢してるとかない?」
「本当です。我慢もしません」

言い切る表情も、いつもの柔らかなもの。あまり深く突っ込んでしまうと不快にさせるだろうかとやや躊躇ったが、やはりこう聞かずにはいられなくなった。

「じゃあ、僕が何か意地悪したら怒る?ずーっと無視するとか、あからさまに避けるとか」
「怒るというか…悲しいです。アルムくんにそんな事をされたら……年甲斐もなく泣いてしまいますね。きっと」

どうかご容赦くださいと最後に付け加えて。
何の気なしに探りを入れただけなのに、泣いてしまうなんて答えられてしまい参ってしまう。
泣くのが冗談だとしても、悲しませてしまうのはアルムとしても望ましくない。

「思い出しました。私、アルムくんの前でも怒った事がありますよ」

うんうん唸っていると、信じられない一言がルカの口から発せられた。
全く記憶にないため、正直に聞いてみる。

「嫌な事思い出させるみたいで悪いんだけど……いつだっけ?」
「数日前の朝、グレイくんとロビンくんに…。実は、少し度が過ぎたかと後悔しておりまして」

申し訳なく思っているのか伏し目がちに言われて、アルムは記憶を巡らす。そういえば、ルカが寝坊してきたグレイとロビンに何かを言っているのは見た気がする。
でも、その後で二人は何も言っていなかったので、寝坊してきたから心配されたんだな、程度に思っていた。

「あれ…怒ってたんだ」
「はい。余り気にしないでいてくれると嬉しいんですが」
「大丈夫だよ。あの二人、小さな頃から怒られ慣れてるから」

子供の頃、イタズラをしたり遊びが行き過ぎたりで大人たちによく怒られていた二人。
今も昔も多少の事ではへこたれないのを、アルムは知っている。

どんな風に怒られたのか聞きに行こうと、幼馴染二人の元へ向かう事にした。



「ええっ!アレ怒ってたの?心配してるんじゃなかったんだ」
「だよな。俺、ルカ優しいなーとか思ってた」

グレイとロビンに寝坊してきた日の事を聞いてみると、二人は目をぱちくりさせてアルムの方を見た。

「うん。少し言い過ぎたって言ってた。何て言われたの?」

心配していた事も忘れずに伝え、本命の疑問をぶつけてみる。

「理由聞かれたから、ゲームやってて寝るのが遅くなったって言ったら“気持ちは分かりますが、夜更かしは程々にしなさい”って」
「……それだけ?」
「おう、それだけだ。あれで怒ってたって言うならルカは女神様だな。村の連中に爪の垢飲ませてえよ」

ルカの口調を真似しながら答えるロビン。
それに同調するように、うんうんと頷きながらグレイも続ける。

(ルカ…!やっぱり怒ってると思われてなかったよ。ていうかそれ怒ってるうちに入らないよ!)

気が短いって何だろう…二人の話を聞きながら、暫く頭を抱えるアルムだった。



年下だから優しいのであって、同年代以上相手とか本当に悪い事した時とかにはしっかり怒ると思ってます


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