小話いろいろパラレルへん | ナノ


連休。アルムは幼馴染達と泊まりがけの旅行をした。駅で解散後、旅の余韻に浸るのも忘れて自宅へ急ぐ。
あらかじめ伝えていた予定より時間は早いが、帰るという連絡はわざと入れていない。
それと言うのも、出発の時に見送りをしてくれたルカが少し。本当に何となくだけれど、ソワソワしているような気がして。
メールで連絡すれば返事もちゃんと返ってきたし、電話も出てくれた。
まさか自分が想像しているような心配はないだろうけれど、万一という事もある。

「ただい……んん?」

アパートに到着し、ガチャガチャ騒がしく部屋の鍵を開けて中に入ると甘い匂いが漂っている。
「お帰りなさい。早かったですね」といそいそ出迎えに来たルカはエプロン姿。所々、うっすら小麦粉が付いている。

「旅行は楽しめましたか?」

余計な心配でそれどころでなかったとは言えず、ただ頷いた。

「お菓子、作ってたんだね」
「ええ、この連休を使って作ってみたいものがあって」

声が弾んでいる。ソワソワしていたのはこのせいか。
自分が心配していた事は何一つなかった。安心したが、帰って早々この匂いはアルムには少々辛かった。ルカにはそんな素振り、絶対に見せないけれど。

居間に入るとテーブルの上にはいくつか皿が置かれ、作られた焼き菓子が種類ごとに載っている。

「随分たくさんあるなあ」
「ああ、そちらはアルムくん用のお菓子です。いつも通り甘さは控えていますから、味見してみてください」

ルカはアルムの食の好みを知ってから、レシピ通り作ったものと、極力甘味を控えたものとで作り分けるようになった。
付き合いはじめた頃、ルカの作ったものならどんなに甘くても食べ切ると言った彼を思っての事である。

いちばん手近にあったものを一口頬張ってみる。甘い事は甘いが、優しい甘さ。耐え切れないという程ではなかった。

「美味しく食べられそうだ。ありがとう」
「よかった。後で一緒にお茶しましょうね」
「うん。それで、何を作ってみたかったの?」

家に入ってきた時の匂いから言って、もっともっと甘い物もありそうだと聞いてみると目を輝かせて。

「ふふ…、よくぞ聞いてくれました。見てください!」

興奮した様子でアルムの前に出された、オーブンの鉄板…載っているのはこれまた様々なお菓子。家の形をしている。型で抜いた平面の家ではなくて、立体で。

「すごいな、お菓子の家じゃない。使ってるお菓子って…もしかして全部手作り?」
「市販品も使っていますが、ほぼ手作りしました!この日のために本という本を調べ尽くして、設計も念入りに」

絵本の世界からそのまま出てきたような、可愛らしい設計。
ウエハースの屋根は生クリームと糖衣チョコレートで鮮やかに飾られて、クッキーの壁は板チョコとアイシングで描かれた窓とドアがくっ付いている。
キャンディステッキの柱にマカロンの飛び石。よくよく見ると、スポンジの地面も見えた。
垣根はゼリービーンズ1粒がちょこんと乗ったマシュマロで、家をぐるり囲もうとしている。これが終われば完成なのだろう。
ルカが再び作業に戻ったので、アルムも荷物を片付けに自室に行くことにした。

「ルカの技術の集大成だね。まるで砂糖の楽園みたいだ」
「そうですねえ。予てからの夢が叶いました」

戻って来たアルムがルカの手元を見つめながら言うと、薄く塗ったクリームの上にマシュマロを並べながら至極楽しそうに答える。
作っている物のメルヘンさも相まって、天使のようだと思った。
最後のマシュマロを並べた所で顔を上げて。

「完成です!」
「お疲れ様。よく頑張りました」

自分がされるように頭を撫でて言ってやると、目を細めて礼を言われた。

「片付けをして…いや、写真も…。ああ、お茶も淹れないと」
「ルカ、嬉しいのは分かるけど落ち着いて。お茶の準備と片付けは僕が手伝うから、写真撮りなよ」
「ありがとうございます。では、お言葉に甘えて」

いつでも撮影できるよう、準備はしていたらしい。傍にあったカメラを手に取ったルカは早速シャッターを切り始めた。

(…今なら平気な気がする。あのお菓子の家、一緒に食べよう)

ルカのお菓子なら絶対食べられる。
帰って来た時の甘い甘い匂いの事なんてすっかり忘れてそう独りごち、アルムも片付けを始めた。

この後、半ば強引に強請って食べさせてもらったけれど、やっぱり。
尋常でない甘さに耐えられなくて、一口で降参してしまった。



お菓子作りさせたくて…絶対かわいいでしょ

  

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