小話いろいろパラレルへん | ナノ


太陽がすっかり鳴りを潜めて、時計は午後8時を指そうとしていた。部活動で疲れた体に鞭打って、アルムは帰路を辿る。
普段はみっちり練習のない気楽な部に所属しているのだが、流石に大会前ともなれば話は別だ。

何日も歩いたかのような感覚を覚えつつ必死に歩いていくと、ようやく自分の住むアパートが見えた。
自室の明かりが点いている。
今日も隣人…恋人でもあるのだが__が、温かい食事を作って待っていてくれているようだ。
そう考えると、嬉しくなって自然とアルムの歩幅が広くなった。

「ルカ、ただいま!」

鍵を開けて部屋に入る。
ドアが開く音と同時に部屋の奥からパタパタと足音が聞こえて。

「おかえりなさいアルムくん。今日もお疲れ様でした」

柔らかく微笑みながらルカは出迎え「重たかったでしょう」とアルムのスクールバッグを受け取る。

「ありがとう。今日ホントに疲れた…」
「お風呂も沸かしてありますが…先にご飯にしますか?」
「そうだなあ…僕はルカが食……いや、お風呂にしようかなー?」

言っている途中でルカの眉間に思い切り皺が寄ったのを見て、食べたいと言い切る前にアルムは慌てて訂正する。
すると、着替えは準備しておきますからもう入っていて下さいと満面の笑みでアルムを浴室へ促した。
頭と体を洗い湯船に浸かると、一日の疲れがじんわり溶けて行くような、ゆったりした気分になる。

(うーん…じいちゃんがルカの知り合いでよかったような、残念だったような)

世間は狭いもので、ルカの学生時代の恩師がアルムの祖父だったらしい。祖父もこの子がいるなら安心して孫を送り出せるとばかりに「よろしく頼む」とルカに頭を下げた。

世話になった恩返しのつもりらしく、甲斐甲斐しく世話を焼かれているうちアルムはいつの間にかルカに惹かれて。
好意を自覚した後散々悩み通し距離を置かれるのを覚悟して想いを打ち明けたところ、ルカも自分と同じ気持ちだったという事を告げられた。

こうして二人の関係は晴れて隣人から恋人に昇格し、子供のようなスキンシップから抱擁、キスをするようになるまで時間はかからなかったのだが、問題はその後だった。
色恋に現を抜かして成績を落としてしまっては、自分は先生に合わせる顔がないとキスから先の行為…言ってしまえば性行為一切をルカは拒んだのだ。

いつ許しが出るのかと問い詰めてみれば、高校を卒業するまでだと言う。
それは一年以上の長い長いお預けをくらうという事で。
つらいのはお互い様ですよと言い聞かせるルカの微笑みが、アルムにはこれまでない位にえげつなく見えた。

思い切り甘えて強請ったり、何とか説き伏せようと試みてもこの事に関してだけはルカは頑なに譲らない。
先程のように冗談めかして言っても、咎めるような目をされて終わってしまう。

(約束、守り通せるかなあ…)

今は何とか耐えられているが、いつか無理矢理にでも事に及んでしまうかもしれない。
そうなってしまったら、ルカは自分から離れていってしまうだろうか。思えば思う程、考えが脇道に逸れて行く。

(いつかは今じゃない。もっと気楽に行こう)

逆上せる気配がしてきたので、アルムは考えるのをやめ浴室を出る。
用意されていた服に着替えてリビングに入ると、ルカが調理スペースで食事を温めていた。

「もうすぐ出来ますから、座っていてください」
「いや、任せきりじゃ悪いから手伝うよ。ここにあるのを運べばいい?」
「はい。助かります」

確認をしてから料理が盛り付けられた食器を運ぶ。
今日の主菜はアルムの好物の肉料理だった。ルカはアルムが帰るまで仕上げを待っていたらしく、湯気と一緒に食欲をそそる香りがした。

全ての食器を並べ終え、二人一緒に座って食べ始める。
他愛もない話をしながら、滞りなく食事は終わるかに思われていたが。

「アルムくん。先程から小鉢に箸が付けられていませんが」

ついに来たか。アルムは食事の手を止める。小鉢に盛り付けられた料理は御浸しだ。
御浸しという調理法自体は嫌いではないのだけれど、材料に使われている葉物独特の匂いと苦みがアルムは苦手で。

「これ、苦いから苦手なんだよな」
「その苦味が体にいいんですよ。頑張って食べましょう。ね?」

まるで母親のような言い方である。
出会った頃は「子供扱いしないでよ」とよく言っていたのだが、今ではじゃあ頑張ろうかなあという気になる。
むしろ、言われたいがためにわざと食べていない節もあったりして。痘痕も笑窪だ。

嫌だけど頑張る、といったような雰囲気で小鉢を手に取り、料理を口に運ぶ。
噛みしめると口中に広がる苦味。思わずアルムは顔を顰めてしまったが、何とか飲み込む。
ルカもアルムが苦手なのを分かって気を遣っていたようだ。
盛り付ける量を少な目にしていたらしく、それから2,3回で小鉢は空になった。

最後の一口を飲み込むと「よく食べられました」と頭を撫でられる。

「頑張ってみると意外といけるものだね」
「そうでしょう?分かってもらえて何よりです」
「じゃあさ、ルカもにんじんチャレンジ頑張ろうよ。料理に絶対にんじん使わないじゃないか。苦手なんでしょ?」

アルムの問いにルカは「さあどうでしょう?」とはぐらかすように答えたが、その目は思い切り泳いでいた。


  

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