小話いろいろパラレルへん | ナノ


部活動を終えたアルムが帰路に就こうとすると、制服のポケットに入れていたスマートフォンからメッセージを知らせる通知音が鳴った。
この時間ならルカだろう。取り出して画面を見てみれば、送信者の表示はやはり彼だった。

メッセージの内容は“今日の夕飯はうまく作れた”という旨で、返事を入力している最中に少しピンボケしている鍋の写真が送られてきた。

肝心の中身がボケているので詳細はわからないが、鍋の形と料理の色から察するに恐らくカレーを作ったのだろう。

ルカの料理の腕はアルムとの練習で少しずつ上達してきて、付き合い始めた頃のような奇抜な料理はあまり見なくなった。
しかし、スマートフォンの操作は相変わらず苦手なようで。
メッセージを送ってから画像の送信に少し長めの間があったり、非常に惜しい誤字があったりするのだ。

(この“慣れてない感”がたまらないんだよな。頑張って送ってくれてると思うと…)

頬を緩ませながら返信をし、アルムはルカの待つ我が家へと歩みを進めた。

__________


玄関に入った瞬間、食欲をそそる匂いが漂ってきた。ルカが作ったのはやはりカレーだったらしい。

「アルムくん、おかえりなさい!」

ドアの開く音を聞きつけたルカが出迎えにやってきた。いつも穏やかな微笑みで迎えてくれるのだけれど、今日は瞳孔が開いて興奮気味の様子だ。早く料理を食べてみてほしいのだろう。

「ただいま!」

靴を脱いで口づけを交わす。親を急かす子供のように手を引かれて居間に入ると、食卓テーブルの上には先ほど見た鍋。
ルカは鍋の蓋を取りアルムの前にずいと差し出してみせ、衝撃的な一言を放った。

「さくらんぼカレーです!」
「さ、さくらんぼ?」

聞き違いかと聞こえたとおりに返してみれば、ルカはこくんと頷いて。

「さくらんぼの産地では商品化もされているんですよ!でも、甘さが強いそうなのでルーは辛口にしました」

きっと“りんごとはちみつたっぷりのルー”の辛口だろう。アルムはもっともっと辛くても平気なのだけれど、ルカはこのルーの甘口が好きなのだ(というよりは、辛くてこれ以外食べられないのだろう…とアルムは思っている)。
なので、家でカレーを作るときはルカの好きなルーを使って、アルムが辛さ調整用のスパイスで辛みを足して食べる…というのが普段のやり方。

「ありがとう。…でも、あんまり辛いとルカが大変じゃない?僕のほうは後からいくらでも辛くできるんだし、そんなに…」

甘みが強いなら、スパイスを増やせばいいだけの事。わざわざ辛口を選ぶ必要はない。
にもかかわらず、自分のために“辛口”を選んでくれたルカの気遣いが嬉しい反面、心配で。


「辛かったら、紅茶用に使う蜂蜜をたくさんかけて食べます!ご心配なく」
「ならよかった。ひとまず、手を洗って着替えてくるよ」
「はい!準備して待っていますね!」

いらぬ心配だったと一息つくと、ルカは相変わらず興奮した様子で鍋の温めなおしを始めた。
それを見て、アルムもいそいそと自室へ向かう。

できるだけ急いで終わらせ居間に戻れば、料理の盛り付けを終えたルカが今か今かとアルムを待っていた。

「待たせちゃったね」
「いえ。いま盛り付け終えたところです!早く食べましょう!」

二人でいただきますをして、スプーンを持つ。
しかし、具のインパクトのせいもありそのまま食べるのがどうにも不安で。アルムはチラとルカのほうに目をやった。
さすが作った本人だけある。ルカは目の前のカレーを掬うと迷いなく口に運んで。

「うん、上出来ですね!…少々、…いえ、ほんの、少々、辛いですが」

それだけ言ったルカの眉間にはしわが寄っていた。よく見なければわからないくらい、わずかだけれど。
それから彼はそばにあったスープをひとくち飲んでから、用意していた蜂蜜をルーの上にかけてまたカレーを頬張りはじめた。
今度は好みの甘さになったらしい。喉が上下すると、満足そうな笑みを浮かべた。
辛みに関しては無理をしていそうだけれど、味のほうで無理をしている様子はない。

なら自分も覚悟を決めるかとカレーを掬おうとすると。

「アルムくん?」

さすがにスプーンが動いていないことに気が付いたのだろう。ルカは先ほどとは打って変わって、眉を落としてアルムのほうを見つめていた。

「へへ…。ルカが食べてる姿があんまり可愛いから、つい見とれちゃって」
「…もう。せっかくのご飯が冷めてしまいますよ」
「ごめんごめん。いただきます」

今日のルカは表情がころころ変わるなあと楽しんでいたのも半分あるので、白状してからアルムは掬ったカレーを口に入れた。

(うん、甘い…けど、想像してたよりは甘くないかな)

口中に甘さは広がったが、辛みを足すスパイスが大量に必要…ということにはならなそうだ。
それに。

「すごく美味しい」

笑みを浮かべてそう伝えれば、ルカもぱっと顔を輝かせた。

「そうでしょう?それに、今日は私なりに工夫して作ったんです!まずは具ですね」
「へえ…」

どんな具を使ったのか、振りかけたスパイスをルーに混ぜつつ探してみる。
いつものジャガイモと玉ねぎ、肉は奮発したのか牛だった。それと。

「……ごぼう?と…、ねぎ?」
「はい!ごぼうや小ねぎはよくにんじんと一緒に調理されているので、にんじんの代わりになるかと思いまして」

ルカはにんじんが得意でない。
自分で料理をするときには絶対に使わないし、飲食店でも明らかに使われていると分かるメニューは絶対に頼まない。
すり下ろして使われていても、よほど複雑な調理をされていない限りは過敏に反応する。
…得意ではないというか、嫌悪に近いのかもしれない。ルカの今までのにんじんに対する態度を思い出して、アルムはそう思った。

「うん…特にごぼうなんかは同じ根菜類だしね。カレーにも合ってる」
「そうでしょうそうでしょう?!隠し味も入れたんですよ!」
「果物とかチョコレートとか?よくテレビとかで言われてるよね」
「さすがアルムくん、近いです。オレンジジュースと、チョコレートは甘くなりすぎてしまうのでカカオパウダーにして、それから…」

怒涛の勢いで調味料を告げられたが、要約すると甘味をなるべく加えないようにしつつ、各種ソースを(本人曰く)絶妙なバランスで加えたのだそう。
美味しいと言われたことで安心したのか、説明しているときのルカは少し得意げな様子だった。

「そっか…ありがとう。僕のために色々考えてくれたんだね」
「ふふ、アルムくんのお口に合ったようでなによりです。また頑張りますね」

甘味を加えないように、というところに自分への気遣いを感じて告げれば、ルカは今日いちばんの笑顔をみせてくれた。
この日を境に、ルカが奇抜な料理を完成させる頻度が増えてしまったのは言うまでもない。

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うちのルカさんはスマホおんち

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