小話いろいろパラレルへん | ナノ
強烈な雨が打ちつける窓から、外を眺めてみる。
空は厚い灰色の雲に覆われており、木々が風に煽られていた。予報で聞いた通り、台風が上陸しているらしい。
悪天候の中職場へ向かうのは骨が折れるので、上陸したのが休日でよかったとルカは内心独りごちる。
しかし、アルムはそう思わないだろうと彼の方に目を向ける。意外や意外。上機嫌な様子だった。
「ルカ。台風といえばなんだと思う?…あ、気圧の事とかそういうのじゃないよ」
「台風といえば…?…ええと」
それからルカは顎に手を当てて考え始める。が、しかし、答えは浮かばないらしい。
降参と言うように困った顔をアルムに向けた。
「台風といえばコロッケだよ。作って食べよう」
答えを聞いたルカは、目を丸くする。どうしてそうなのか聞きたくて口を開きかけた。が、理由はまたの機会にね、とアルムがエプロンを差し出しながら言うものだから、それは叶わなかった。
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エプロンを着けたルカが台所へ行くと、先に調理を始めていたアルムがせっせとジャガイモの皮を剥いていた。
アルムが剥き終えたものを、ルカは大きさを揃えて切っていく。
切り終えたところで、鍋に入れて火にかけて。
「さて、何を入れましょうか」
ジャガイモが茹で上がるまでに混ぜる具材を作ってしまおうと、冷蔵庫を開けながらアルムに尋ねてみる。
すると「何にも入れないやつがいい」と返事が返ってきたので、つけあわせにする野菜と衣の材料を取り出した。
ルカが野菜を切っている間、アルムは衣を付ける準備するため、ボウルやバットに材料を入れていく。
全て終えたところで、アルムが火にかけていたジャガイモに竹串を刺して茹で具合を確かめた。
「うん、ちゃんと茹で上がってる」
抵抗なく竹串が通ったので、茹で汁を捨ててボウルにジャガイモを入れ、調味料を加えて潰していく。
「美味しそう。味見したいなあ」
「妙に量が多いと思ったらそういう事でしたか。食べるのは構いませんが、少しだけにしましょうね。肝心のコロッケが食べられなくなったら大変ですし」
「はーい」
と、元気に返事をしたアルムだったが、結構な量を食べてしまったのだった。
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味付けと形成を済ませれば、いよいよ揚げる工程。
アルムがやると言って聞かなかったので、ルカは彼の様子を見ながら大皿につけあわせの野菜を盛り付けていた。
「よし。ぜんぶできた」
「アルムくん、立派になりましたねえ」
自分の子供が成人した親のような物言いである。
だが、実際は油ハネに臆する事なく、見事に全てのコロッケを揚げきってみせたアルムを見てのものだ。
「立派って…言い過ぎじゃない?」
油切り用のバットの上から大皿の方にコロッケを移動させながら、アルムはそう返す。
「だって、前はずっと私に任せきりでしたから。やだ怖いー、なんて言っていましたし」
「それ、ずうっと前のことじゃないか。まだ覚えてたの?」
「はい。アルムくんとの大切な思い出ですから」
「僕としては忘れてほしいんだけどなあ」
「何があっても忘れませんよ。ああ、揚げ物繋がりの話だと、フライにする時に小麦粉と玉子の順番を間違えた事も…」
思い出したのか、ルカは頬を緩ませながら告げる。
言われたアルムも「もう、怒るよ」などと頬を膨らませてはいたが、表情は穏やかだった。
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