小話いろいろパラレルへん | ナノ


休日。

朝から重々しい色の雲が一面に広がっていて、いかにも“これから雨ですよ”という雰囲気。
その雰囲気は変わることなく、昼になる頃にはザアザアと雨が降り出した。

点いていたテレビでは、次の番組への繋ぎだろう。天気予報が放送されている。
昨日はくもりの予報だった自分達の地域が、雨に変わっていた。

珍しく部活動が休みだったアルムは、それを眺めながらカーペットの上に寝転んで、本を読んでいるルカの腰にまとわりついていた。

「天気予報なんてもう信じない」
「予報ですからね。外れる時だってありますよ」

ぶすくれた顔で呟いたアルムをあやすように、彼の頭を撫でてやりながらルカはそう返す。
それでもまだ、アルムの機嫌は直らない。

天気が良ければ二人で出かける予定だったのに。
予報が外れて白紙にされてしまったのが、面白くなかったのだ。

「ルカー、つまんない。遊んでー」

アルムは起き上がり、興味のないメロドラマが始まったテレビの電源を切る。
それから今度はルカに抱き付いて、頬ずりしながらそう強請って。

普段であれば「課題があるでしょう」と突っぱねるところだが、今日は違う。
出掛けるのを思い切り楽しむために、アルムがあらかじめ課題を消化しきっていたのをルカは知っていた。
だから、アルムの背中に手を回し「いいですよ」と微笑んでやる。

「何をして遊ぶんです?」

ルカが聞けば、一気にアルムの顔が明るくなった。

「ごっこ遊び。僕は水道屋さんの役で、ルカはお客さんの役。人妻ね」
「分かりま……ひ、ひと…、づま…??」

子供のような遊びを提案してきたアルムを微笑ましいと思ったのも束の間。
耳慣れない配役に動揺してしまう。

「大丈夫。言ってほしいセリフはその時になったらちゃんと教えるから、それ以外は適当に僕に合わせてくれればいいよ」
「……は、はぁ…」

こうして(ルカにとっては)不安だらけで始まったごっこ遊び。
どうやら“水道屋さん”のアルムは台所の蛇口のしまりが悪く水が止まらないという連絡を受けて“人妻”のルカの家にやってきた、というシチュエーションらしい。

アルムが台所の流しの前で、言ってみたかったんですというような専門用語を呟きながら、工具を手に持ったふりをして修理の真似事をする。
ルカは「何年やってらっしゃるんですか」とか「流石は本職の方ですねえ」とか、よく分からない世間話を投げかけたりしていた。

しばらくして、部品を締め直す動作をしたアルムが、ルカの方に振り返る。

「これで蛇口は直りましたから」
「ありがとうございます。助かりました」

言って、ルカは礼をする。
人妻という役は一体なんだったんだと頭の片隅で考えていた時、アルムがルカの両肩をがしりと掴んだ。
そしてアルムは、いやらしい笑みを浮かべながらこう言い放つ。

「じゃあ、今度は奥さんの蛇口を見ましょうか」
「えっ」

予想外の展開に、掴まれた肩とアルムの顔を交互に見る。
そうする間に、あれよあれよと押し倒され、シャツの前をくつろげられた。
すっかり思考が停止して動きを止めてしまったルカを見たアルムは一度手を止め、「こういう時はこう言うの」とセリフを耳打ちする。

「さ、言って」

さんはい、と合図され、おずおずとルカは口を開く。

「……い、い…いけません水道屋さん…。わ、わたしには夫が…?」

教えられた通りに言えば、アルムは満足げに笑って再びシャツに手を伸ばした。

「またそんな事言って。最近ご無沙汰なんでしょう?……ほらルカ、もっと嫌がらないと」

今度は演技指導が入る。
言われたルカは迫ってくるアルムの顔をぎこちなく突っぱねたり、ズボンにかけられていた手をゆるく掴んだりしてみた。

「リアリティに欠けるなあ。もっと本気で嫌がって。相手が僕だと思わないでさ、思いっきり突き飛ばしてみて。ドーンと。ね?」

ルカの演技に納得が行かないアルムが更に指示を出してくる。
演技だとしても、大好きなアルムを突き飛ばすなんてとルカは言いかけたが、有無を言わさない様子の彼を見て腹をくくった。

アルムの両胸に手をやった後、ぎゅっと目を瞑って思い切り力を込め押し込んだ。

「うわぁあっ!」
「アルムくんっ!?」

悲鳴に近い声が上がり、何かと何かがぶつかったような鈍い音が聞こえて慌ててルカは起き上がる。

声のした方を見ると、アルムが後頭部を抱えてうずくまっていた。
どうやら、突き飛ばされた拍子に頭が引き出しの取っ手にぶつかってしまったらしい。

「大丈夫ですか?」
「いたた…うん、平気」
「早く冷やさないと。アルムくん、歩けますか?」

アルムが頷いて居間へ向かったのを見て、ルカも即席の氷嚢を作ってそちらへ向かう。

「すみません……。やはり加減をすればよかったですね」
「僕が思い切りってお願いしたんだから、ルカは悪くないよ」
「現実性を重視するのはいいですが、今度はもう少し安全性も考えましょうね」
「はーい」

ぶつけた箇所を氷嚢で当てられ、アルムは苦笑しながら返事をしたけれど。

(最後まで行けなかったな。なにごっこなら行けるかな)

実のところは、全く反省していなかった。

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世界の水道屋さん 大変申し訳ございません 悪意はございません
一昔前のピンクビデオみたいな雰囲気を出したかっただけなんです

  

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