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今日はいい夫婦の日。

寝食を共にするし、ベタベタ抱き合ったりもキスもする。時たま入浴だっていっしょにする。
自分とルカの関係はもう夫婦のようなものだとアルムは思っていたので、帰ったらそれにかこつけて思い切り甘えて甘やかして、ずっとくっついて過ごしてやろうと思ったのに。

急ぎ足で帰宅し開口一番に「今日は何の日でしょう!」と問いかけてみたら、ルカの答えはアルムの知っているものではなく。

「ショートケーキの日です」
「…へ?」
「暦を見てください。22日の上に15日…イチゴが載っているでしょう。ですから、毎月22日はショートケーキの日なのだそうですよ」
「………へぇ…」

てっきり“いい夫婦の日”の方を知っているものだと思っていたので、上手く言葉が出てこなかった。
ルカはその間に、嬉しそうに冷蔵庫から見慣れた菓子店の箱を出してきた。
箱のサイズがいつもよりも一回り以上大きい。大きいのは箱だけと思いきや、フタを開いてみれば幅いっぱいにショートケーキが並んでいる。

ルカはアルムが店売りのケーキを食べない事を知っているので、恐らくこれは全てルカの胃袋に入ることになるはずだ。

「…量、多くない?」
「いつもよりずっと安く売っていたので、つい。…あっ、今日中に全て食べるつもりで買ったわけではありませんよ!半分は明日の分です」

照れくさそうに言い、何を思ったのか妙な補足をした後、ルカはこの話はお終いとばかりにケーキ箱のフタを閉じて「食事を用意しますから、先にお風呂を済ませてきてください」とアルムを浴室に押し込んだ。
__________

食後のお茶を淹れた後、ルカは早速ケーキを食べ始めた。
あっという間にひとつを平らげ、今度はふたつめのケーキのフィルムを剥がしている。

「ふふ、至福のひと時ですねえ」

軟らかなスポンジにフォークを入れて言ったルカは、こぼれんばかりの笑顔をしている。
アルムは差しさわりの無い返事をするのに精いっぱいだった。
至福どころか、まったく面白くない。

(…こんな事なら先に言ってしまえばよかった)

そうしていたなら、ルカのこの表情は自分に向けられていたかもしれなかったのに。
ケーキにやきもちを焼きましたとも言えず、だからといってそれを取り上げてしまうわけにもいかず。

(そうだ!いいこと考えた)

何もくっついて過ごすのが夫婦ではないし、すぐに実行しようと立ち上がって。

「僕、課題があったの忘れてたからちょっとやってくる」
「…え?アルムくん、課題なら…」

ここで、と言いかけたルカの言葉も聞かず、アルムはありもしない課題を理由に隣の自室へ戻った。
__________

玄関から、控えめなノックの音。
アルムが自室に戻ってから、1時間程した頃だった。

「はい」

返事をすると、合鍵を使ってドアを開けたルカがそろりと入ってくる。
椅子に座っているアルムの隣にちょこんと腰掛け、ほんの少しだけ、気まずそうな顔で。

「アルムくん……。その、…もしかして、ケーキ…怒って」

課題は大抵、ルカの部屋でやっている。なのに今日は自室でやると言ったものだから、気に障る事をしてしまったと思って言ったのだろう。

「ううん、怒ってない」

面白くはなかったが、特に怒っていたわけではなかったのでそう答える。
それならどうして部屋を出て行ってしまったんだという顔をして、ルカはアルムを見つめていた。
やっとルカがこちらを見てくれるようになったので、黙っているのもいいかとは思ったけれど、きちんと理由を話し始める。

「毎月22日はショートケーキの日かもしれないけど、11月22日はいい夫婦の日なんだよ」
「いい…夫婦?」
「そう。この日に入籍するカップルも多いんだって。入籍はまだ無理だけど、婚約くらいはと思ってこれ作ってた」
「…指輪、ですか?」
「アルミホイル製だけどね。急に思い立ったからこんなもので申し訳ないけど」

机の上からひょいとつまみ上げて見せて、アルムは「これから始めるから」とルカの目の前に座り直した。

「え、ア、アルムくん、その、」

課題もやらずにこんな事を、と怒られるかとも思ったけれど、ルカはそんな事を気にしている余裕はなかったらしい。

「       」

指輪をルカに嵌めて、プロポーズを耳打ちする。
頬を真っ赤に染めたルカは返事の代わりに、ぎゅうとアルムに抱きついた。



どちらかというとケーキの方が主役になってしまった…
  

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