学校に足を踏み入れる。
つい先日染めたばかりの黒い髪が視界に入った。
なんだか、憂鬱な気分だ…。
少し、昨日の幸村とのやり取りを思い出した。
『ミミミミミス立海…?!』
『あぁ。淑女になりたいんだよね?だったらこれに出場するべきだよ。』
『……』
『どう?やる気になった?なったよね?』
『い、いや…それは……』
『やるよね?やれ。』
『は……はい…。』
何故引き受けてしまったんだろうか。
(ま、引き受けるの一択だったからな)
私は部室の前で足を止めた。
朝からヤツに会うのは正直気に入らないが、仕方がない。
やると決めたからには逃げるわけにはいかない。
ガチャ…
「おはようございます、市ノ瀬さん。」
「あ…お……おは…よう。」
会いたくない、と思っても仕方ない。
だってこの柳生が紳士だったのだから。
「始め……ますか?」
「えっ」
柳生を見ると苦笑いをしていた。
始めるというのは、だいたい予想がつくのだが。
「よ…よろしく。」
「はい…。」
「………」
「………」
「………」
「………」
「…………」
沈黙。
沈黙意外に何をしろというんだ。
私はチラリと柳生を見た。
すると柳生はメガネをクイッとあげた。
「……ひとつ……聞いてもよろしいでしょうか?」
「…何?」
「何故、淑女になりたいと?」
言われて少し目を伏せた。
「誰にも……、誰にも言わないでくれるか…?」
「……はい。」
「その…、私…は……」
***************
話終わると彼女は自嘲するように笑った。
確かに彼女らしいとは言い難い理由だった。
女性に対して失礼だとは思っていたが、驚かずにはいられず、開いた口が塞がらない。
「え…あ……」
「冗談…みたいだろ。自分でも、信じらんない。」
額を押さえてため息をついている。
まさか彼女の理由が────、。
『好きな人がいるんだ』
なんて。
言いませんから、絶対
(意外に可愛らしい理由ですね。)
(な……!?)
(野暮なことはしませんから、ご安心を。)
**************
柳生を鬼畜にするか、紳士にするか悩むところだよね((ぇ