「そこの貴女。」
"服装検査"というのは代々風紀委員の仕事だ。
制服、アクセサリー類、髪が対象となる。
少なくともこの日だけは、皆しっかりと制服を着ているのに。
私は一人の女子生徒を呼び止めた。
「……何。」
そういって静かに振り向いた。
彼女の金に近い色の髪がなびく。
「その髪、校則違反ですよ。」
「へぇ、校則違反なんだ。私が髪の毛を染めてるからってアンタに迷惑かけた?」
「迷惑…って、そういう問題ではありません!風紀を乱してはいけないのですよ!」
少しだけ声を荒げてしまった。
彼女は"ふ〜ん"と言って少し口角を吊り上げた。
「じゃあB組の丸井と仁王はどうすんだよ。赤髪と銀髪だろ。」
「……ぅ…」
少し目を伏せる。
同じテニス部で仁王くんは私のダブルスパートナーだ。
身近にいる人達こそ、直させなくてはいけないのに…。
そう思って思わず口をつぐんでしまった。
「じゃあな、フーキイインさん。」
顔を上げるとそこに彼女はいなくて。
なんて失礼な人だ、とやるせない気持ちが高まった。
そして、登校中の生徒に紛れていく金髪をチラッと視線だけで見た。
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それは、部活が始まる前にやってきた───。
とんでもない"トラブルメイカー"だった。
「なぁ、今日のダブルス、ペア変えてみねぇ?」
「ほぉ、丸井にしては真面目な提案やのぅ。」
「いいんじゃないか?面白そうだし。なぁ、真田。」
「うむ、それも一つの刺激になるだろう。」
ブン太がロッカーを開けながら言った言葉に、次々と反応が返ってきた。
どうやら今日はペアを変えてダブルスをすることになりそうだ。
「では、くじ引きで───」
柳生が提案したところで、部室の扉が勢いよく開いた。
…バタンッ────
全員の目線が扉に集まったところで、扉を開けた人物が一歩踏み出した。
「頼み事があって…来た。」
「あ、貴女は──!」
もう一度全員の目が点になる。
声を上げたのは柳生。
目線の先には、朝注意したばかりの女子だ。
いくつもの目線が女子生徒と柳生を行ったり来たりしている。
「お前…テニス部だったのか!」
「貴女こそ、部室になんのようです!」
あの紳士が、女子に向かって声を上げている…?
なんとも不思議な光景に目が点になる部員。
その中でも部長だけは冷静に話し掛けていた。
「頼み事って何?」
「…紳士ってやつに会いに行きたんだ。」
「「し、紳士…?」」
「居るんだろ、テニス部に。」
皆が一斉に眼鏡の部員に目を向けた。
「もしかして…お前が…?!」
「そうですが。何か問題でも?」
「んだよ、その言い方!」
「貴女に言われたくありませんね!」
「ちょ、ちょっと待てよ。番長も柳生も、自己紹介しねぇことには始まらねぇだろぃ?ほら。」
言い合いが続く二人の間に丸井が入る。
すると、一瞬で市ノ瀬の額に青筋が入った。
「番長って呼ぶな!」
「…は…はい…。」
丸井が市ノ瀬に会ったのは今日が初めてだったのだが、この学校で"番長"を知らないものはいない。
この地域一帯の不良グループをまとめているのが市ノ瀬だった。
怒鳴られた丸井はシュンとしている。
市ノ瀬と柳生は目が合うと、不本意だと言わんばかりの顔で互いに名前を言う。
「柳生…比呂士です。」
「……市ノ瀬、律花だ。」
よしよし、と頷く丸井。
『で?市ノ瀬は柳生に何を頼みに来たんだ?』
と丸井が聞くと、市ノ瀬は悔しそうに…それでも意思強く言った。
「…私を……私を淑女にしてくれ……!」
波乱のトラブルメイカー
(貴女を…?私が?)
(頼む……。)
(紳士で優しいヤツに頼もうと思っていたがこの際お前見たいなヤツでも構わない。)
(………。)
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分からん設定にしてしまった。
始まりました、柳生連載!
前回の連載同様、意味が分からないところも多数あるかと思いますが、頑張って更新していこうと思いますので、これからもよろしくお願いいたします。
11/03/26 夜尋